#61
2013年6月8日 「日々人を待つ人々」
日々人が月から帰ってくる――。地球に帰還する時の命綱となるパラシュートを手がけたのは、ピコ・ノートン。六太たちが訓練として参加した、「カムバックコンペティション」のサポート役だ。しかし、今回は3年前のパラシュート事故以来、初めての月からの帰還である。事故を知る関係者の間には、緊張が走っていた。その頃、日々人、リンダ、ダミアンは、着陸船アルタイルに乗り、月面を離れていた。月軌道上には地球への帰還船3機が回っており、日々人たちが乗って行ったオリオンと、ロシアチームのルーニエ2号、もう一つは予備として、2025年に無人で月に送られた、3人乗りのオリオンがあった。今回日々人たちが帰還船として乗り込むのが、この3人乗りのオリオンである。日々人たちの帰還日――。ピコは、自宅の洗面所でヒゲや髪を整え、見違えた姿になっていた。なぜキッチリネクタイを締めるのか、と息子たちに聞かれると、ピコは言った。「ネクタイを締める理由なんてのは、1コしかねえ、仕事が無事に終わった後に、緩めるためだ」その顔は、『必ず日々人たちを地球へ帰す』、そう願掛けをしているかのようであった。ジョンソン宇宙センター――。管制室内には、大勢の管制官、宇宙飛行士、六太たち訓練生が集合していた。そしてその外側の観覧室では、南波父母、ジェニファー、ピコが、日々人の帰りを今か今かと待ちわびていた。そして――。砂漠の真上に、パラシュートが全てキレイに開いたオリオンが、見事に降下してきた。日々人たちは無事、地球に帰還できたのである。大歓声の中、ジョンソン宇宙センターの滑走路に、ダミアン、リンダ、そして日々人が到着した。規制線の外には、六太、南波父母、アポも来ていた。重力にやや汗しつつも、手を振って歩いてくる日々人。目の前に日々人がくると、六太はまるで近所から帰ってきた弟を出迎えるように言った。「よう日々人――おけーり」と――。