#56
2013年5月4日 「酒の約束」
六太たち宇宙飛行士候補生の次なる訓練は、カムバックコンペティションへの挑戦だった。カムバックコンペティションとは、パラシュートの展開システムや、自動制御のローバーを作り、どのくらい正確にゴールへたどり着けるかを競う大会である。しかし最下位でゴールしたE班のサポート役は、全くサポートする気のない屁こき技術者、ピコ・ノートン。しかも完全な酔っ払いだったのだ。ピコに不安を感じた六太とケンジは、ピコが所属するデンバー社の職員に、彼について話を聞くことにした。職員によると、ピコは帰還船オリオンの開発を任されており、さらにパラシュートの展開システムを開発・製造するサブプロジェクトの総合責任者とのことだった。しかも、日々人たちが帰りに乗るオリオンのパラシュートも、ピコが手掛けたものらしい。職員は熱く語る。ピコはただの酔っ払いではない、試行錯誤を繰り返し、やっと今の使えるパラシュートシステムに仕上げた技術者が、ピコ・ノートンなのだと。気を取り直し、ローバーの制作を開始することにした六太たちE班。ネットで調べた図面を頼りに、ボディらしきものを作ったのだが、一つ問題が浮上した。E班は最下位チームのため、制作費は600ドルと一番低額で、このままだと1機しか作れないのである。六太は言う、「失敗して壊れるの前提で、最低でも2機作れるくらいの余裕があった方がいい。モノ作りには失敗することにかける金と労力が必要だ。失敗を知って乗り越えたモノなら、それはいいモノだ」と。六太の言葉を聞いたピコは、ブライアンが亡くなった、アレス計画を思い出していた。失敗を繰り返し良いものを作っていたにも関わらず、予算の問題で計画にピコのパラシュートシステムが採用されなかったのだ。「人の命預かってんだ! 金に糸目つけてんじゃねえ!」もしピコが担当すれば、ブライアンは生きていたかもしれなかった。そのことをピコはずっと悔いていたのだ。