宇宙兄弟

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#50

2013年3月24日
「ニッタとムッタ」

サバイバル訓練5日目。
六太たちE班の順位は4位まで上がっていたが、ひとつ問題が起きていた。新田が大事に持っていた携帯を、ここに来るまでのどこかで落としてしまったらしいのだ。聞けば新田は、この訓練の期間中に『大事な電話があるから常に携帯を持たせてくれ』と、訓練教官に頼みこんでいたらしい。しかもその電話は、今晩かかってくる予定とのことだった。新田は自分だけ取りに戻ると言い出すが、この日のリーダ―である六太は、みんなで進むことを決める。夜になれば、携帯は着信でチカチカ点滅するはずである。そのことに気付いた六太は、夜になってからみつけにいくのが得策と思い、先へ進む判断をしたのだ。

その夜――。
満点の星空の中、六太と新田は昼間歩いてきた砂漠の道を戻っていた。その道中新田は、なぜ自分と戻る気になったのか六太に疑問を投げかけた。
「この訓練で誰より1位を目指してたのは新田だろ。その新田が順位よりも今大事なもんがあるっていうんなら……そっちを優先すべきなんだろうなって思っただけだ」
それを聞き、重い口を開く新田。
「……俺にも一人、弟がいる」
隠すつもりはなかったが、南波日々人と比べられるのが嫌で言い出せなかったというのだ。
今晩電話をかけてくるのがその弟で、話すのは2年ぶりになるという。

新田の弟の名前はカズヤ、25歳。
部屋から一切出ず、出ない理由をきいても、「僕にもわからない」としか答えない。
新田は、兄としてずっと何とかしてやりたいと思っていたが、今まで何度も、そのチャンスを逃してしまっていた。
たった1本の電話で、どうにかなるとも思えないが、それでも希望を持っていたのだ。

しばらくして、前日食糧があった地点に到着した六太たち。
目を凝らしよくみると、草の陰でチカチカ携帯が光っていた。
『俺はまた……チャンスを逃したんだな……』
着信はあったが間に合わなかったようだ。
悲しみと悔しさの顔を浮かべる新田だった。

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