#38
2012年12月23日 「11件目のメール」
星加から直接合格発表を聞いた六太は、記者会見会場へと向かっていた。遅れて到着した六太を壇上で待っていたのは、ケンジ、せりか、絵名、新田。六太を含むこの5名が、新しい宇宙飛行士として合格したのだ。会場は歓声と拍手で大盛り上がり。しかし六太はいまだ夢心地で、『自分が宇宙飛行士になれる』という実感がえられないでいた。そして居酒屋での祝賀会。六太の携帯には祝いのメッセージメールが何件も届いていた。なかでも『やっさん』こと古谷からは10件も来ており、その内容は――。『なんやその答え! サル以下の発想やな!』『ジブン一人だけ 顔がニヤケてるぞ』など、ほとんどが六太に対するツッコミだった。そのすぐ後、今度は福田が祝いにかけつけてくれた。福田は六太、せりか、新田の合格が自分のことのように嬉しくなり、思わずテレビの前で泣いてしまったとのこと。それはきっと古谷も同じだったはずだと、みんなで祝杯をあげるのだった。店内の喧噪の中、宴会の時間は過ぎ――。一人夜空の月を見ながらトイレで休憩をしていた六太は、いまだに合格の実感が得られずにいた。そこに響く携帯のバイブ音。また古谷からのメールだった。その文面は――。『そーいえば大事なこと言い忘れてたわ。合格おめでとう』六太は、立ち尽くしたままその言葉を受け止めた。そしてさらに文面は続き――。『閉鎖ボックスで2人を決めなあかんかった時、俺が言ったこと覚えてるか? 俺の中ではもう2人は決まってる。この2人しか考えられへんて。あれな……新田と――南波のことや。その2人が堂々合格して、その上伊東さんまで合格できた。ジブンら最高や!! 俺もなんか燃えて来たわ。待ってろよ南波! 俺も絶対宇宙行くで!』読み終え、六太は涙をこらえながら月にいる日々人に尋ねた。宇宙飛行士になったと実感したのはいつだったか――と。『俺は――飲み屋のトイレで、友がくれた11件目のメールを読んだ時だ』