宇宙兄弟

今までのお話バックナンバー一覧

#33

2012年11月18日
「月のウサギ」

順調に月へと向かう日々人たち。
六太はその様子を管制室の外で見ながら、一人考えていた。

『自分は日々人の月面着陸を、どんな顔でみるのだろうか――』

兄とは常に弟の先を行かねばならない、六太はずっとそう思ってきた。
しかし弟の日々人は、兄の六太よりも先に夢を叶え、月へ向かっている。
日々人が夢を叶える瞬間に、自分はうれしくて笑ってしまうのか、それとも感極まって泣いてしまうのか、どっちなんだろう――と。

2026年3月8日――日々人が月面着陸する日の朝。
南波父と母の寝室では、午前4時にセットされた目覚まし時計が、けたたましく鳴り響いていた。
だが、この時間に目覚まし時計が鳴ったのは、南波家だけではなかった。
日本中の人々が、日々人の月面着陸する瞬間を生放送で見るため、一斉に起きだしたのである。

そんなことも知らず、日本の期待を一身に背負った当の日々人は、いつも通り飄々とした様子。
司令船オリオンで月に近づき、離陸着陸専用の宇宙船アルタイルへと移動していた。
アルタイルでの着陸作業は、日々人の手動作業によって行われる。
世界中の人々が見守る中、日々人はその作業を見事に遂行。
大歓声があがったその瞬間、六太は喜びのガッツポーズをして、泣きながら笑っていた。

月面着陸後、船長のフレディ、ダミアン、バディ、カレン、リンダ、日々人のCES―51クルーは、月面基地に移動するためのビートル1号に乗り移ろうとしていた。
日々人は宇宙服を着こみ、月へ降り立つ直前、六太から送られてきた映像を思い出す。
その内容は、『吾妻は日々人を妬んでおらず、日々人の月面着陸をとても楽しみにしている』――という良い知らせだった。
心のつっかえがなくなり、身も心も軽くなった日々人は、一気に月に降り立ちジャンプ。

そして叫んだ「イエーイ!」と。

その軽やかな姿はまるでウサギのようで、日々人は月面で最も高く跳んだ男と呼ばれるようになったのだった。

バックナンバー一覧はコチラ