宇宙兄弟

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#32

2012年11月11日
「入ってはいけない場所」

テキサスのレストランで行われた、日々人の打ち上げ成功祝い会。
そこで受験者たちは、今後の合格発表までの流れを知らされることになる。
合否の結果発表は、日々人が月面に着陸してから一週間後の日を予定しており、JAXAから直接自宅に電話がかかってくるということだった。

両親やほかの受験者たちは日本へと帰ったが、六太だけはアメリカに残り、日々人の月面着陸を待っていた。

着陸まであと2日。
管制室が見えるNASAの見学コーナーに入りびたっていた六太は、その食堂で偶然にも吾妻とその家族をみかけた。
そして、優しい笑顔を家族に向ける吾妻の様子に、六太は疑問を抱く。

『吾妻さんは本当に日々人に嫉妬しているのか?』

意を決し話しかけようとする六太。すると吾妻は、六太に力強く手を差し出してきて――。

「打ち上げ、成功おめでとう」

と、素直な気持ちを表現してくれた。その意外な行動に六太は感じる。

『もしかして、日々人に先を譲ってくれたのではないか――』と。

吾妻と固い握手をし、その家族と話しをしたことで、彼の本当の気持ちがわかったような気がした六太だった。
六太と別れたあと、吾妻は自分が日本人初の月面周回者となった日のことを思い出していた。
記者会見で『孤独は感じなかったのか』と繰り返し質問され、困惑したことを。
実際は高揚感でいっぱいで孤独なんて感じていなかったのだが、もともと寡黙なせいで、何を言ってもマスコミが『月での孤独感が原因』とはやし立ててしまったのだ。
そんな吾妻の気持ちを一番わかってくれたのは、家族とブライアンだった。
とくにブライアンは、繊細な吾妻が日本人初の月面着陸者になるのはプレッシャーだろうと、日々人を先に行かせるよう推薦してくれた。

「あいつは地上にいる時でもまるでハートはゼロ・Gみたいなヤツだ」

ブライアンの言葉を受け、吾妻自身も思っていた。

『日々人……お前ならきっと誰よりも、最初の一歩は軽やかだろう』――と。

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