宇宙兄弟

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#31

2012年11月4日
「ロケットロード」

大勢の観客が見守る中、日々人たちが乗ったマルスワンは、噴射炎と白煙をあげながら一気に発射された。

「あいつ……本当に宇宙に行きやがったな」

打ち上げ場所から遠く離れた旧管制塔で見ていた六太は、子どもの頃日々人と一緒に、ISS(国際宇宙ステーション)に滞在中の星出飛行士と通信したことを思い出していた。

六太たちが子どもの頃、JAXAでは『ISSと通信しよう』というイベントが開催された。
集まった子どもたちは、ISSにいる星出宇宙飛行士とモニターごしに質問することができ、そのとき日々人が「自分は絶対宇宙へ行く!」と宣言したのである。

しかしこの頃から六太は、『世の中には絶対なんてない』と考えていた。
そのため、いつも軽く『絶対、絶対』と口にする日々人を、よく思ってはいなかった。
だが日々人は、『大丈夫、俺の中に絶対はあるから』と努力し続け、本当に宇宙へ行ってしまったのである。
空に残ったロケットの軌跡に、六太は日々人を重ねていた。

『――ロケットロードは寄り道をしない。後戻りもしない。ただ一直線に宇宙へ伸びる道。まんまお前みたいだな――』

打ち上げ後、ホットドックを食べながら、六太はデニールに質問されていた。

「自分の弟が宇宙へ行くってのはどんな気分だ、お?」

『ほとんど今日の空のようだった』と六太が答えると、デニールは笑いながら空と人生との違いを語りはじめた。

「空は誰の物でもない。人生は自分のもんだ。人生はコントロールがきく」

言い終えた後、デニールは自分の名刺をよく見るよう六太に促した。
そこにはなんと、『NASA主任教官パイロット』と書かれていた。

「……パイロット!?」

日々人にジェット機の操縦を叩きこんだのは、実は目の前にいるデニールだったのだ。

「ムッタ、もし宇宙飛行士に選ばれたら、次に会うのは飛行場だ! イエ~イ!」

デニールのことを『運転が荒い変なじいさん』だと思っていただけに、唖然とする六太だった。

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