宇宙兄弟

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#30

2012年10月28日
「犬とじじいとアレクサンダー」

打ち上げ直前。
いまだ空にかかった雷雲は晴れず、打ち上げが行われるか否かは、保留状態となっていた。

そんな中、よりにもよって犬・アポがいなくなってしまう。
みんなで手分けして捜すも、多くの人が賑わう広場で小さなアポを見つけるのは困難。
だが六太は偶然にも、視線の先に今まさに車に乗せられようとしているところアポを発見する。

走り出した車を止めるため、六太は必死に走って追いかけた。
走り出してしばらく、ようやく追いかけてくる六太に気づき、車が停車した。
車内から出てきたのは、杖をついた体格のよい老人・デニール。
六太のことをなぜか『アレクサンダー』と呼び、大きな声で笑うのだった。
その後六太とアポは、怪しくもNASAの職員と名乗る明るい老人・デニールの車に乗せられていた。

舗装の荒れた道を猛スピードで運転するデニール。
アポはデニールのホットドッグに夢中だが、目的地がわからない六太の心配は募るばかり。
そんな六太にデニールは『旅は道連れだ』とまた笑い、さらに荒い運転で目的地まで走り続けていた。
やがてデニールは、車をある場所に止める。

そこはもう20年以上使っていないシャトル時代初期の訓練施設だった。
今は引退したものの、デニールは親子2代でロケットやシャトルに携わってきたNASAのツワモノだったのだ。
六太が棟に上がると、そこには息を呑むほど見事に、発射台に設置されたマルスワンの姿があった。

一方、見学広場は最高に盛り上がっていた。
ようやく雷雲が散り、打ち上げが確定したのだ。
大勢の人が見守る中、マルスワンのオリオン内では、上を向いて席に着いている日々人が、今か今かとワクワクしながら出発の時を待っていた。

そしていよいよ、カウントダウンの大歓声とともに、日々人たちの乗るマルスワンが発射したのである。
六太は、その様子を棟の屋上で静かに眺めていた。
この場所のおかげなのか、六太の中にはもう日々人を嫉妬する自分はいなかった――。

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