#29
2012年10月21日 「打ち上げ前夜」
打ち上げ2日前。この日、月に着陸するための宇宙船アルテミスが、史上最大の無人ロケット・マルスファイブによって、先に打ち上げられようとしていた。アルテミスは宇宙空間で日々人たちが乗るオリオンと合体してから、月へと向かうのである。多くのギャラリーが見守る中、発射準備が行われようとしていた。この打ち上げが成功すれば、次は日々人たちの乗る宇宙舟オリオンが、マルスワンによって打ち上げられるのだ。打ち上げ1日前。マルスファイブの打ち上げは無事成功、明日はいよいよ日々人たちが宇宙へ行く番である。その頃六太は、ココビーチでせりかとたわむれるアポを羨みながら、日々人のことを思っていた。これまで六太は、現実的に宇宙飛行士なんてムリと諦め、日々人のことをちゃんと応援してやったことがなかった。しかしその日々人は、いままさに夢を叶えようとしており……複雑にも六太は、弟に先を越されている悔しさと同時に、子どもの時のようなワクワクがよみがえるのを感じていたのである。打ち上げ当日。広場には大勢のギャラリーが集まっており、大変賑わっていた。露店では最年少ムーンウォーカーとして人気者な、サムライボーイ・日々人の関連グッズが飛ぶように売れており、ここでも優秀な弟と自分を比べてしまう六太だった――が……それよりも、もっと大きな問題のことを心配していた。空には黒い雷雲が立ち込め、打ち上げが中止になるかもしれなかったのだ。速報だと、打ち上げ続行か中止か、現時点での確立は5対5。さらにもっと詳しい情報を得るため、六太とケンジとアポはニュースセンターに向かった。そしてその道中も、六太は優秀な日々人について考えていた。日々人のことは誇りに思っているが、心の半分では未だにウジウジと優れた弟に対するジェラシー菌が充満していたのだ。『晴れりゃいいのに。空も――俺も』そしてさらに問題が起きる。アポがいなくなってしまったのだ――!!