宇宙兄弟

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#27

2012年10月7日
「一つの質問」

打ち上げ6日前。
先日行われたジョンソン宇宙センターでの最終面接は、実はフェイクだった。
すべての選考が終わったと思い込み、肩の荷が下りきった「素」に近い受験者たちを、現役の飛行士たちが事細かにチェックするためである。

このことを知らない受験者たちは、親睦会でそれぞれ思い思いの時間を過ごしていた。
その会場で、紫から『吾妻にはむやみに話しかけないほうがいい』とアドバイスを受ける六太。
だが六太は、吾妻には一番に挨拶すべきと思っており――。

『ビビることはない……! オレはもうすでに、一度死んでいる!』と、挨拶しに行ってしまう。
しかしいざ吾妻に挨拶をしようにも、まったく会話が続かない。
焦る六太に、吾妻は一つの質問を投げかけた。

「死ぬ覚悟はあるか――?」

六太は『当然ある』と答えたが――しばしの沈黙後、言い直した。

「本当は死ぬ覚悟、できてないです。多分、こりゃもう死ぬなって瞬間が来たとしても、ギリギリまで生きたいと思いそうです」

かつて、吾妻もブライアンに同じことを質問され、『死ぬ覚悟はなく、考えるなら生きることを考える』と答えていた。
ブラインはその解答に満足し、『死ぬ覚悟なんていらない、必要なのは生きる覚悟だ。NOといえるヤツがいたら、そいつは信じていい』と吾妻に言ったのである。
吾妻は日々人にも同じ質問をし、同じ解答をしたことを思い出していた。
兄弟そろって『信じていい者』と、感じられたようだった。

打ち上げ4日前。
六太たち家族は、月へ行く飛行士たちと最後の食事をするため、ケネディ宇宙センターへ来ていた。
そこで六太は、日々人に一枚のDVD-Rを渡す。

「これを月に持って行ってくれ――オレにとっては大事なものだ。月の基地にでも置いてくればいい」

受け取った日々人は疑問を投げかける。

「大事なのになんで置いてくるんだよ?」

六太は言った。

「決まってるだろ。数年後に必ず、自分の手で持って帰るためだ」と――。

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