#25
2012年9月23日 「マッハの弟 筋トレ兄」
宇宙飛行士を選ぶ最終試験を前に、六太は日々人の住むヒューストンへやってきていた。だがその審査について、ジェニファーから不安な話を聞いてしまう。ジェニファーいわく、六太の最終面接の審査員である吾妻が、日本人初の月面着陸者に選ばれた日々人のことを妬んでいるというのだ――。日々人にとって吾妻は憧れの人だった。数年前、テレビの記者会見で吾妻を見ていた日々人は、その言葉に感動していたのだ。そんな日々人に、六太は久しぶりに兄らしいアドバイスを言う。「ほかの宇宙飛行士たちとは仲良くな。きっかけはなんだっていい、日々人なりのやり方でいい――」打ち上げまで残り20日――。『L-20』という日を前に、六太と日々人はスケジュール確認をしていた。『L』とは打ち上げの頭文字で、日々人の打ち上げまで残り20日という意味である。明日、L-19からの4日間を使い、日々人たちはL-3から打ち上げ当日までの4日間をリアルに再現する、TCDTと呼ばれるリハーサル訓練(最終秒読み段階の訓練)を行う。そのため、クルーは打ち上げ台のあるフロリダ州のケネディ宇宙センターへ向かい、そこで本番当日と同じ食事を摂り、同じ服を着て、同じタイムスケジュールで分刻みに行動するのだ。日々人は月に向け、厳しい訓練を頑張っている。それを間近で見ている六太も、面接に備えてなにかしたいと思っていた。自分はいま何をすべきで、何ができるのか、焦るばかりで何も浮かばないのだ。翌日――L19。いまだ自問自答する六太の頭の上を、日々人が颯爽と駆けぬけていった。ケネディへ向かう日々人たちの飛行機が、六太がいる場所の真上を通過していったのだ。その爽快さと同時に、六太の頭の中にあった不安がマッハで吹き飛んだ。『日々人を応援してやること、それが私の仕事だ!』その頃、日本ではJAXAのメンバーと南波両親が成田空港に集まっていた。「いざっヒューストンへ――!」