#22
2012年9月2日 「夢の途中」
人生を賭けたジャンケンで勝ったのは、新田とせりかだった。数日後、宇宙に近づいた2人を祝うべく、打ち上げに集まったA班のメンバー。その様子は実に仲が良さげで楽しげで、別れ際も福田と古谷の表情は軽いものだった。だが、六太の心境は少し違っていた。各班で選ばれた計6人は、これからJAXAが選ぶ数人とともに、ヒューストンへ行くという。今回選ばれなかった者にもまだチャンスはあり、六太は、そのチャンスに賭けていたのだ。そしてJAXAでは――JAXA側が選ぶ候補生を決めようとしていた。過去の選抜を振り返ると、閉鎖ボックス内で過ごしたメンバーは必ずと言っていいほど仲良くなって出てきた。しかし、今回初めて『自分たちで2人選ばせる』という最大の課題を与えたところ、予想以上に各班の和を乱したという。「ジャンケンが正当だったかどうかは知りませんが、一つだけはっきりしたことがあります。2人を選び終えたあと、すぐにあの中で次に会う打ち上げの約束を交わしたのは――A班だけです」当初、ジャンケンを提案した六太の評価は良いものではなかったが、星加の言葉で一変した。JAXAの発表があった後――六太は福田に誘われ、スカイツリーへ来ていた。日本初の有人宇宙ロケットの開発に携わることとなった福田は、一度ゆっくり六太と話し、礼を言いたかったという。『時計を壊した犯人を知っていたのに、秘密にしてくれたこと』『最後に2人を選ぶ時に、自分にもチャンスをくれたこと……』六太には本当に感謝しており、こういう人が選ばれるのかもしれないと思っていたという。そして、JAXAが選んだのも――六太だった。「本当にそうなってよかった。ヒューストン行き、おめでとう!」福田と固い握手をする六太だが……その心中は、素直に喜べないでいた。選ばれた喜びをかみしめながら、もう一方では、一番の親友・ケンジに言うべき言葉を、見つけられないでいたのだ――。