宇宙兄弟

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#14

2012年7月1日
「壊れたメガネと足の裏」

 閉鎖ボックス内の合宿が5日目ともなると、各班にも性格が現れてきた。C班は穏やか、六太がいるA班はにぎやか、しかしケンジのいるB班だけは、微妙に険悪なムードが漂っていた。頭脳明晰なメンバーが集まっているB班は、互いのプライドが邪魔をしてしまい、心に壁ができてしまっていたのだ。だが、楽しげに過ごしていた六太たちA班にも問題が起きる。福田の眼鏡を古谷が誤って壊してしまったのだ。しかし福田は笑顔を見せる。

「いや……大丈夫だよ。なくても大して影響はない。」

 福田は眼鏡がないまま、必死に課題をこなしていた。最年長である自分が宇宙飛行士に選ばれるためには、若い受験者よりも同等以上であることが最低条件だと思っていたからだ。隠れて息を整え、子どもの頃からの夢を想う福田。有人ロケットを作って、それに乗って宇宙へ行くという大きな夢は、いまも福田の中で輝いていたのだ。

「胸を張れ! ここまで来たんだ。自分の年なんて忘れよう! ――私の夢は、年を取っていない!」

 一人頑張り続ける福田を六太たちは心配し続けていた。そして古谷も、福田に謝れないでいた。素直になれない古谷は、福田がロケット開発に携わっていたことを有利だと言い放つ。

「俺はあの人別に不利だとは思わへん。ハンデつけてようやく今水平ラインや。」

 しかし、せりかは異論を唱える。福田は今回の宇宙飛行士の募集が発表された時、すぐに会社を辞めたと聞いていたからだ。今の地位も捨てられるほど、今回の選抜試験にかけているのだと。

 その夜、古谷は監視カメラの前で紙を広げた。その紙には『福田さんの新しいメガネを用意してください。お願いします』と書いてあった。一礼し、自分の足を見る古谷。そして軽く2、3度床を踏むと、その感触を確かめた。

「なぁんや……こんなことで、消えんのかい。」

 素直になれたことで気分が軽くなったのか、ずっと残っていた眼鏡を踏んだ時の感触が、ようやく消えたのだった――。

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