7月14日(月)
母の事故から25年…なぜ母の命を奪ったトラックに乗るのか?トラックドライバーとして生きる道
日本通運京都支店に勤務する鉄道コンテナの運搬を担当するトラックドライバー藤本小梨絵さん(40)。
彼女は25年前に母親をトラックによる交通事故で失いました。事故からしばらくはトラックのことを憎み、避けていた時期もありましたが、トラック事故減ることのない現状をなんとか変えたい、私たちのような悲しい思いをする家族を減らしたい、そんな思いから安全運行と教育に力を入れていると感じた日本通運に入社しました。自ら安全運転を実践して、優良なドライバーを増やし、死亡事故をゼロにするのが彼女の目標であり夢でもあります。その思いに密着取材しました。
【特集】トラック事故で母を失った娘は、トラックドライバーになった 死亡事故ゼロを目指して…導かれた使命と確固たる決意「今、母がいたら褒めてくれるかな」

トラックドライバー・藤本小梨絵さん
大切な家族―その命は、トラックにひかれて奪われました。事故から25年が経った今、娘はトラックに乗っています。なぜ母を奪ったトラックに乗るのか?トラックドライバーとして生きる道から見えるものとは…。
猛勉強の末『全国トラックドライバー・コンテスト』女性部門・優勝

コンテナを運ぶトラック
JR京都駅の西側にある京都貨物駅。全国から鉄道貨物で運ばれてきたコンテナが到着します。そのコンテナを運搬するのが、鉄道コンテナのドライバーたちです。精密機械や食品など様々な物資が積み込まれているうえ、通常の荷物とは違って中身が見えないコンテナは、荷崩れしないように丁寧な運転を心掛けなくてはなりません。

声を出して安全確認
(日本通運京都支店 トラックドライバー・藤本小梨絵さん)
「合流注意、よし、よし、よし、よし。車両なし、よし、よし」
日本通運のドライバー・藤本小梨絵さん(40)。常に声を出して、安全確認を行います。
(藤本さん)
「よし、よし、よし、よし。後方バイク注意、よし、よし」

全国トラックドライバー・コンテスト
藤本さんが日本通運を選んだのは、「安全運転への教育と意識が高い」と感じたからです。日本通運は死亡事故ゼロを目指し、毎年開催されている『全国トラックドライバー・コンテスト』に力を入れています。コンテストでは実技試験と、トラックの構造法令に関する知識を問う学科試験で、総合得点を競い合います。参加者は、全国の運送会社のドライバーたちです。

コンテストに向け猛勉強
(藤本さん)
「過去の問題で間違ったところを全部書き出して、『もう絶対に間違えないぞ』という意味でここに書いて、これを読んでから始めて。トラックは待ちの時間があるので、そういう時間を利用して読んだりしていました」

女性部門で初優勝を果たす
猛勉強して臨んだ2年前、藤本さんは女性部門で初優勝を果たしました。
(藤本さん/当時)
「事故を1件でも減らせるように、この大会で得た知識経験などを職場に戻って伝えていけたらなと思います」
運行前点検も入念に…後輩に託す思い

点呼から始まるドライバーの一日
午前7時、一日の始まりは点呼から。ドライバーの健康状態を把握することは、安全運転への第一歩。運送事業者に義務付けられています。

新人トラックドライバー・内田知之介さん
新人トラックドライバー・内田知之介さん(26)がこの業界に飛び込んだのは、藤本さんがきっかけでした。
(新人トラックドライバー・内田知之介さん)
「バイトをしていた時に、近くに日本通運の事業所があって、ドライバーコンテスト女性部門で優勝されたという横断幕がかかっていて。もともと大型トラックに興味があったので、それを見て『そんな大会があるんだ』というのと、『女性でもそういう大会に出て優勝できるんだ』というので」

運行前点検に時間をかける
点呼が終わっても、すぐトラックに乗るわけではありません。時間をかけるのが、トラックの運行前点検です。エンジンオイルやタイヤの空気圧、照明設備に不備がないかなどを、一つ一つ目視で確認します。
(藤本さん)
「一人で乗ってからも、この点検を続けてな。約束してな」
(内田さん)
「はい、頑張ります」

危険な運転を見かけてヒヤリ
危ない運転を見かけたのは、交差点に差し掛かった時でした。
(藤本さん)
「こわー!落ち着いて走ろうや…」
危険な運転を嫌うのは、25年前の経験からです。
中学3年のある日、居眠り運転のトラックに母を奪われた

中学3年で、突然母を失った
今も父と暮らす藤本さん。母・弘子さんが亡くなったのは、中学3年の時でした。
(藤本さん)
「夜遅かったので私は寝ていたんですけど、お兄ちゃんがパニック状態で起こしに来て、『お母さんがぐちゃぐちゃや』と。『ついて来てくれ』と現場に行ったら、遠くからなんですけど、倒れている状況が見えたんです」

藤本さんの母・弘子さん
深夜にバイトをしていた兄の様子を見に行った帰り道。母・弘子さんは、自宅近くの国道でトラックに衝突され、亡くなりました。事故の原因は、トラックの居眠り運転でした。

気持ちの整理はついているが…
自宅と職場を結ぶルートの途中に、母の事故現場があります。いつもの仕事終わりの帰り道。この日は、遠回りしていました。
Q.いつも遠回りして帰るんですか?
(藤本さん)
「そうですね。気持ちの整理がついていると言っても、(事故現場を)避けて走っているんだと思います」

藤本さんだから伝えられること…
大学卒業後、トラックと関係のない仕事に就きました。それでも、日々事故のニュースを目にする中、何かできないかとトラックドライバーの道を選びました。
(藤本さん)
「当事者しかわからない気持ちがあると思うので、私だから伝えられることが必ずあると思うんです。家族を亡くした人の話は、皆さん真剣に聞いてくださるので。私がそういう気持ちを伝えていったら、皆さんの安全運転にちょっとは繋がっていくんじゃないかなと思います」
母が導いてくれた、自分らしい新たな人生の送り方

研修で指導する立場に
2025年10月に行われるドライバーコンテストに向けて、研修が始まりました。藤本さんは、研修生たちを指導する立場です。安全への意識を高める目的でこの業界に入ったため、指導にも力が入ります。

指導に力が入る
(藤本さん)
「『よしよしよしよし』だと、やっぱり目が流れている。見ていないです。時間をかけてミラーを見てあげてください」
普段、実践しているはずの安全確認。確実に行うことが、事故ゼロにつながると信じています。
(藤本さん)
「さっき言ったのに、『大丈夫かな』できていました?できていないですよね。『よし、よし、よし』だと、やっぱり点で見てしまっているので、もう一回『大丈夫かな』『大丈夫かな』『大丈夫かな』…で、発進。口に出してもらってもいいので、『大丈夫かな』と、しっかり確認してあげてください」

広がる安全への思い
安全に対する思いは、少しずつ広がっています。
(藤本さんと一緒にコンテストに出場した森永幸恵さん)
「トラックに関わる仕事に、本当は関わりたくないであろうと思うことに挑んでいく。『私がみんなの安全意識を変えていきたい』という、安全に対するその気持ちに心を打たれました。私も藤本さんみたいな人間に、考え方になりたいなと思います」

自分ができることを続けていく
(藤本さん)
「母が生きていた時、私は中途半端で、何となく生きているみたいな、周りに流されて生きていた。今は自分の意志を持って、ドライバーとして自信を持ってやっているので。今、母がいたら、褒めてくれるんかなと」
2024年のトラックの死亡事故は200件。それでも事故ゼロを目指して、自分ができることを続けていきます。
(「かんさい情報ネットten.」2025年7月14日放送)
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