7月25日(火)
土用の丑の日が消える⁉価格高騰のウナギ、将来食べられるのか…完全養殖や大量生産に挑む研究の最前線
日本では江戸時代から始まったとされる土用の丑の日。美味しいウナギで猛暑を乗り切りたいところですが、年々その価格が高騰しています。2013年には絶滅危惧種にも指定されたニホンウナギ。それでもウナギを味わいたい…!と、各社は工夫を凝らし“ウナギを使わない”ウナギ関連の商品を販売。一方で、これからもウナギを安定して食べられるように…!と、完全養殖に挑む研究者や、南の島で大量生産に挑む企業も。日本の食文化を守るため…ウナギ研究の今をゲキ追しました。
「土用の丑の日」消滅の危機⁉止まらないウナギの価格高騰…日本の食文化を守るため、完全養殖・大量生産に挑む研究の最前線に密着!“ウナギフリー”を押し出す各社の企業努力も

夏の活力「ウナギ」が価格高騰
2023年7月30日は、土用の丑の日。日本の夏に元気を与えてきたウナギですが、ここ数年、稚魚の不漁などの影響で価格が上昇しています。そんな中、さまざまな工夫を凝らしウナギ関連の商品を開発する企業、そして大量生産に挑む研究の最前線を取材しました。
「タレだけご飯」「ほぼウナギ」“ウナギフリー”で楽しむ企業努力

うなぎのない うなぎのタレごはん弁当
2023年も、ウナギに惹かれる季節が訪れました。しかし、大阪の百貨店では、昨今のウナギの価格高騰を受けたある新商品が販売されていました。製造過程を見てみると、“ウナギの蒲焼きのタレ”をかけたご飯に、山椒の実を乗せ、卵焼きと漬物を添えて、出来上がり。
「完成しました!」(製造スタッフ)
「これで、完成ですか?ウナギはのらないんですね?」(記者)
「そうです、ウナギは入っていません」(製造スタッフ)
その名も、「うなぎのない うなぎのたれごはん弁当」です。
「気軽にウナギの気分を、まず味わっていただきたい。『タレだけで何杯もご飯がいける』というのは、昔からよく聞く話なので」(阪神梅田本店・惣菜商品部 山口淳史さん)

スケソウダラで作られた「ほぼうなぎ」
さらに、神戸市の食品メーカーで売れ行き好調なのが、かまぼこの原料でもあるスケソウダラのすり身にウナギの蒲焼きのタレを塗って焼いた「ほぼうなぎ」です。
「ウナギが絶滅危惧されているということで、完全“ウナギフリー”で作っています」(カネテツデリカフーズ・開発担当者 山本莉奈さん)
5年前から製造していますが、2022年には売り切れが相次いだため、2023年は製造数を3倍に増やして対応しているといいます。

カネテツデリカフーズ・開発担当 山本莉奈さん
「フワフワですね!中身が詰まっていて肉厚なので、食べ応えがありますし、骨が入っていないということなので、すごく食べやすいです」(記者)
「今後、世界的にウナギが獲れない・食べられないということが、考えられると思います。日本は、夏にウナギを食べるという食文化があるので、そこを守りつつ、みんなでウナギを楽しんでいただくという思いを込めています」(山本さん)
高騰する国産ウナギ…大量生産に向けて研究進むが、課題も

国産ウナギ料理店からは悲鳴
7月中旬、大阪市福島区のウナギ料理店では、大勢の客がウナギに舌鼓を打っていました。この店では国産ウナギを使用していて、土用の丑の日当日には、約100尾のウナギが出るといいます。しかし…。
「今のところメニューは価格を上げていないのですが、他の食材も上がっている中でウナギも高騰しているというのは、ちょっと厳しい」(松島佑輔店長)

ニホンウナギは絶滅危惧種
ニホンウナギは2013年に絶滅危惧種に指定され、市場で流通しているのは、漁師が獲った稚魚のシラスウナギを養殖したものがほとんどです。しかし、シラスウナギの漁獲量は年々減少傾向で、2023年には1kgあたり250万円と、2021年から比べると2倍近く高騰しました。

近畿大学・水産研究所 田中秀樹教授
そんな貴重なウナギを、安定的に供給するための研究が進んでいます。近畿大学・水産研究所の田中秀樹教授は、国の研究所に勤めていた時を含めて30年以上前から、「ウナギの完全養殖」実用化に向けて実験を重ねてきました。
「1990年代に、初めて孵化したものを少し育てられるようになって、2002年に、世界で初めてシラスウナギまで育てることができました。『あと一歩で、完全養殖に到達する』という所まで来ています」(近畿大学・水産研究所 田中秀樹教授)

ウナギの仔魚は光を嫌う
田中教授が目指す「完全養殖」とは、研究所内で産卵・孵化・成長、そして産卵というサイクルを生み出す、天然のシラスウナギ資源に頼らない方法です。その研究施設を特別に見せてもらうと、黒いビニールハウスに覆われた水槽がありました。
「黒く覆われているのは、何か理由があるんですか?」(記者)
「ウナギの仔魚期は、光を非常に嫌うので、少しでも光があると、一番暗い所に固まってしまいます。なので、できるだけ光が入らない状態で飼育をしています」(田中教授)

シラスウナギの成長過程
黒いビニールハウスの中にいるのは、シラスウナギに成長する前の「仔魚(しぎょ)」と呼ばれるウナギの赤ちゃんです。仔魚は非常に繊細で、水槽に光が入ってしまうと暗い所に固まり、底などに頭をこすりつけてケガをしてしまいます。さらに、研究者は服装にまで配慮が必要だといいます。
「黒いシャツを着て水槽の前に立つと、寄ってきます。白いシャツを着て立つと、向こうに逃げていきます。その日、どういう色の服を着ているかによって、気を付けながらやります」(田中教授)

手間とコストのかかる完全養殖
また、エサやりにも手間がかかります。エサやりは1日5回ですが、自分でエサを食べることが難しい仔魚は、偶然エサにぶつからないと食べません。水はきれいな状態を保つためにかけ流しているほか、別の水槽への入れ替えも行う必要があります。
「この時期の仔魚は、網ですくうと、みんな死にます。体の表面が傷ついて、全部死にます。だから、網ではすくえません。水と一緒に移動させる必要があります」(田中教授)
完全養殖には、天然のシラスウナギを養殖するよりも、少なくとも10倍コストがかかります。完全養殖への道は容易くありませんが、それでも田中教授が研究を続ける理由は…。
「このまま利用するばかり、天然のものを取り続けるばかりでは、良くない。『養殖に使う稚魚は、人工的に作るべきだ』というのが、ポリシーです。持続的に利用し続けるためには、コストはかかっても、人工的に作るべきです」(田中教授)

鹿児島・沖永良部島
大阪から飛行機で約3時間、沖縄本島の北東約60kmにある鹿児島・沖永良部島は、透明度の高いエメラルドグリーンの海に囲まれ、新日本名木百選にも選ばれた「日本一のガジュマル」が育つ自然あふれる島です。
ここに、ウナギの大量生産に向け、研究に力を入れている企業があります。この企業は2017年、人工海水を使った地上でのシラスウナギの生産に成功しました。卵から稚魚のシラスウナギ、そしてウナギに成長するまで、全て人の手を介する「人工生産」のウナギの開発を行っています。

沖永良部島がウナギ養殖に適しているワケ
シラスウナギの生産に成功した当時は、鹿児島市内に施設がありました。しかし、ある理由で、沖永良部島に施設を移しました。ウナギの仔魚はグアムの近くで生まれ、海流に流されるなどして日本近海に移動します。その経路となる「黒潮」が流れる海域と近いのが、沖永良部島だといいます。
「著しい変化ではないですけど、『活性が違う』といいますか、天然の海水のほうが状態が良いかなと思います。現時点では、大量生産に向くのは海水を使っての生産が一番早いと思います」(新日本科学・宇都宮慎治さん)

人口生産ウナギの試食会
2022年度は280尾の食用ウナギを育て、将来的な販売も視野に、12月には試食会を実施。「全然臭くない、めっちゃ美味しい」と、評判も上々でした。しかし、2023年にはウナギの生産量1万尾を目標としていますが、この生産方法でもコストが高く、価格は通常の1万倍になるといいます。
着実に進む、ウナギの養殖技術。ただ、貴重な資源を相手に、すぐに価格が下がるという甘い世界ではないことも、理解しておく必要があります。
「『2026年に10万尾』という目標を設定してはいるんですけど、あくまでもそれは数の上での設定であって、そこが終わりではなく、さらに次の段階へ進まなければなりません。『10年後、20年後に自社で生産したシラスウナギが食卓に上ること』を目標にしていきたいと思っています」(宇都宮さん)
(「かんさい情報ネットten.」 2023年7月25日放送)
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