突然の発火どう防ぐ? リチウムイオン電池の火災事故 対策の現在地は?

私たちの生活になくてはならないものになったリチウムイオン電池を使った製品。便利な製品の普及の一方で、製品の火災事故が後を絶ちません。火災はなぜ起きるのか。私たちにできる対策とはなんでしょうか。さらに、万博会場には未来の「燃えない電池」も・・・?身近な製品に潜む危険性とその対策に密着取材をおこないました。

【注意】モバイルバッテリーが爆発?リチウムイオン電池の“発火”メカニズムと回収の壁 『燃えない電池』開発の最前線

リチウムイオン電池製品の発火事故急増

 スマートフォンやハンディーファンなど、リチウムイオン電池を使った製品が私たちの日常に欠かせない存在となる一方で、急増しているのが危険な発火事故です。また、ゴミ処理場が火事になるなど、大きな課題に直面する回収の現場を取材しました。身近な製品に潜むリスクと、その対策について迫ります。

予兆はナシ?リチウムイオン電池製品の発火が急増

山手線の車両内で発火

 2025年7月、東京・山手線の車両内。モバイルバッテリーでスマートフォンを充電していた乗客が、本体が熱くなったため、バッテリーを取り外しました。しかし、熱は収まらず、その後、発火したといいます。

韓国では旅客機が炎上

 1月には韓国で、離陸準備中だった旅客機が炎上しました。火元は、座席の上の収納棚に入れていたモバイルバッテリーの可能性が指摘されています。その後、日本国内の航空会社は乗客に対し、モバイルバッテリーを収納棚に入れず、手元で保管するよう協力を求めています。

増え続ける火災件数

 リチウムイオン電池製品の火災件数は、東京都内だけで見ても年々増え続け、2023年は167件となりました。

モバイルバッテリーを2年ぶりに充電

 取材に応えてくれたのは、身近な製品から突然出火する恐怖を実際に経験した男性です。8月1日、使用していなかったモバイルバッテリーを約2年ぶりに充電し、そのまま就寝しました。充電を始めて約5時間半後、寝ていた布団のすぐ横で、モバイルバッテリーが発火したといいます。

寝ている布団のすぐ横で…

(男性)
「パチパチという音がして、何かと思って見たら、どんどん膨らんできて、気づいたら火が出た感じです。火花自体は、30センチぐらい上がっていました。上に向かって、火が噴き出る感じで」

男性の機転で被害は最小限に

 男性は、発火したバッテリーを衣類に包み、すぐに家の外へ。物がない場所に移したことで周りに燃え移ることはなく、ケガ人もいなかったものの、消防が来るまでの約5分間、激しく燃え続けていたといいます。消防などからは、「バッテリーの劣化が原因とみられる」と説明されました。

Q.発火の予兆のようなものは?
(男性)
「全く感じなかったです。寝ているときだったので、よく音に気づいたな、と。こんなもので済んで良かったです」

消防局で発火のメカニズムを調査 リスク抑える方法は?

読売テレビ・下内寛人記者

 リチウムイオン電池の火災がなぜ起こるかを知るため、取材班は大阪・堺市消防局へ向かいました。

(読売テレビ・下内寛人記者)
「堺市消防局の皆さんのご協力の下、モバイルバッテリーを分解し、中の構造を確認してみます」

電池の中には金属箔が

 モバイルバッテリーのカバーを外し、解体すると、リチウムイオン電池の内部には、薄く伸ばされたいくつかの金属箔が入っていました。リチウムイオン電池は、内部に金属酸化物でできた『正極』と黒鉛でできた『負極』があり、その間は『電解液』という電気を通す液体で満たされています。

内部では何が?

 充電や放電は、電解液の中にあるリチウムイオンが、正極と負極の間を行き来することで行われます。もし正極と負極が直接つながると、大きな電流が流れるショートが起きるため、間には2つを隔てるセパレーターと呼ばれる物体があります。

セパレーターが壊れると発火の恐れ

 このセパレーターが何らかの原因で壊され、内部でショートが起きると、電池内部の温度が急激に上昇します。電解液は可燃性のため、引火温度を超えて発火することがあるということです。

釘を刺した板に置き、踏んでみる

 取材班は、市販のモバイルバッテリーに外部から衝撃を加え、実際にセパレーターを破壊する実験を行いました。

数秒で爆発し炎上

 すると、激しく火を吹いて炎が立ち上がり、数十秒にわたり燃え続けました。内部を損傷する強い衝撃や、高温の環境には注意が必要です。

火災発生数は夏が最も多い

 実際に、気温が上がる夏場に電解液の温度が上がるなどして、発火事故は8月が一番多いといいます。

(堺市消防局・丹治達哉さん)
「落下させたり、必要以上に充電したりしないなどが、火災から守るポイントになります」

バッテリーが膨張した場合は鍋で密封

 もしバッテリーが膨張していた場合には、金属の鍋などで密封することで、発火した場合のリスクを抑えることができるということです。

持ち込み・訪問など様々な取り組みも…課題に直面する回収の現場

使い終えた製品の廃棄方法は?

 リチウムイオン電池を使った製品を使い終えた場合、どう廃棄すればいいのでしょうか。街の人からは、「知らない」「家にたまっている」といった声が聞かれました。

粗大ゴミにリチウムイオン電池製品が…

 福井県のゴミ処理場では、粗大ゴミに混じったリチウムイオン電池製品を取り除く作業をしています。実は、2025年5月に2度の火災に見舞われ、焼け跡からは、携帯型の扇風機などリチウムイオン電池を使った製品が見つかりました。

ゴミ処理場が火災

 家庭ゴミとして捨てられ火が出る事例を受け、政府は、モバイルバッテリー・携帯電話・加熱式タバコの3つの品目について、製造や輸入販売を行う業者に回収を義務付ける方針を固めました(2026年4月~)。

家電量販店など通じて回収を実施

 現在、製造メーカーの多くは家電量販店などを通じて回収を行っていますが、エディオンなんば本店・西野裕一さんによると、「膨張している物は発火の恐れがあるので、お断りさせていただいている」ということです。

環境事業センターに持ち込める

 店舗で受け付けていない製品は、どうすればいいのでしょうか。大阪市の東北環境事業センターでは、普通ゴミなどの回収とともに、リチウムイオン電池製品なども回収しています。大阪市では、市民に対し、施設に直接持ち込んでもらう形での回収を2年前から始めました。

自宅へ訪問回収も実施

 さらに、2024年7月からは、より利便性を上げるため、自宅に出向く訪問回収もしています。この日は市内の2か所を回り、モバイルバッテリーやゲーム機のコントローラーなどを回収しました。訪問回収を利用した人は、「近隣の家電量販店が回収をしていなかったのと、赤ちゃんがいるとなかなか出向くのが大変なので、来ていただけるのは便利だと思う」と話していました。

変形したバッテリーが満杯に

 回収されたバッテリーなどは、週に一度、入札で決まった業者が買い取りに来るまで、倉庫に保管します。発火する恐れのある変形や膨張したバッテリーは、1週間も経たず満杯になりました。

(大阪市環境局・家庭ごみ減量課 下永千尋さん)
「『膨らんでいるので、一刻も早く処理をしてほしかった』という声を聞きますので、市民の安心につながるように、事業をきっちりしていきたいと考えています」

浅尾慶一郎環境相

 一方、取材を進めると、リチウムイオン電池の回収の状況は、自治体ごとで異なることがわかりました。2023年度に実施された環境省の調査によると、全国の約4分の1の自治体が、リチウムイオン電池製品の回収をしていませんでした。環境省は、各自治体に対しても、業務として回収するよう呼びかけています。

ゴミ収集車が燃える事案も

 しかし、ある自治体の担当者は、取材に対し「うちの自治体の施設では、リチウムイオン電池の処理に対応できない(A市)」「回収車が燃えるなどといった事故も相次いでいる。回収の実施には、もう少し調査・研究が必要だと思う(B市)」と語りました。

自治体には難しい事情が…

 ゴミ処理施設は、近隣の複数の自治体が共同で運営しているケースも多く、単独の自治体の判断だけでは実施に踏み切れないといった事情もあります。財政状況の格差も大きく、自治体レベルの対応だけでは、安全に回収できるか不透明なのが実情です。

“燃えない電池”ヒントは万博に?「消費者の選択肢ができればいい」

万博会場にヒントが?

 相次ぐ事故を受け、“燃えない電池”の開発が急がれる中、そのヒントは大阪・関西万博の会場にありました。

(下内記者)
「万博会場の大阪ヘルスケアパビリオンです。現在、こちらには、特殊な液体を使った“燃えない電池”が展示されています」

イオン液体電池とは?

 展示されていた『イオン液体電池』は、可燃性がないイオン液体を電解液に使った、発火のリスクを抑える新型のリチウムイオン電池です。

関西大学・石川正司教授

(関西大学・化学生命工学部 石川正司教授)
「これまでのテストでは、イオン液体は、いったん温度は100℃近くまで上がりますが、そこから燃えたり、さらに温度が上がり続けることはありません。イオン液体が燃えないので、それ以上温度が上がっても、さらに燃えるという事象に至らないんです」

安全性の高さはお墨付き

 安全性の高さが認められ、日本製ロケットの電子機器の電源として使われています。この“未来の電池”が、私たちの生活にまで行き渡る日は来るのでしょうか。

(石川教授)
「一番の課題は、まだイオン液体という物質が合成品なので、価格が高いことです。安全性という意味では待ったなしというところもあるので、私の気持ちとしては、5年後ぐらいには高級品だけど使えるようになっていて、消費者の選択肢ができればいいと思います」

発火するモバイルバッテリー

 身近に潜む発火の危険。事故を防ぐには、私たちも知識を備えつつ、製造メーカーや行政など、様々な立場での対策が必要です。

(「かんさい情報ネットten.」2025年8月19日放送)

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