酪農の救世主!?スイーツに衣料品まで…バターに隠れた副産物「脱脂粉乳」活用の実態を追う【かんさい情報ネットten.特集/ゲキ追X】

バターや生クリームを作る過程で必ず生まれる「脱脂粉乳」。その割合はなんと90%!もはやメインともいえる影の“副産物”に今、光が当たっています。牛乳を生産する酪農家の支援につなげようと、新たな活用法が模索され、いまや“食料”にとどまらない「脱脂粉乳」の活用まで。その裏側をゲキ追しました。

【なぜ】“戦後の給食”はもう古い?『脱脂粉乳』が今アツい!食品のみならず衣類にまで活用 “酪農家の救世主”として注目される、その裏側を追う

『脱脂粉乳』を救え―

 世代によっては身近ではない『脱脂粉乳』。様々なスイーツだけでなく衣料品にも使われるなど、2025年という令和の今、光が当たり始めています。注目を集めるワケは?酪農家・乳業メーカーの救世主になれるのか?脱脂粉乳の今を追いました。

生乳からたった5%!バターを作れば作るほど生成される脱脂粉乳

栃木・那須町『森林ノ牧場』

 栃木・那須町にある『森林ノ牧場』。50頭ものジャージー牛を飼育し、搾乳を行っていて、敷地内では乳製品の加工や販売・出荷も全て自社で担っています。実は、バターを作る過程で、あまり知られていない“ある事実”が―。

このうちバターになるのは5%

(山本真帆記者)
「ズラリと並んだ、たくさんの生乳。ここから取れるバターの量は、たったの5%です」

Q.では、残りの生乳は?
(『森林ノ牧場』マネジャー・菅野俊昭さん)
「生乳の約9割が、無脂肪乳になります」

約9割は無脂肪乳に

 『無脂肪乳』とは、生乳からバターとなる脂肪分が取り除かれたもの。生乳を100リットル使ってバターの元となる生クリームを作ろうとした場合、約10L分しか作ることができず、残りの約90Lは無脂肪乳になります。

バターを作る=脱脂粉乳が多く出るカラクリ

 無脂肪乳は牛乳と同じ程度の栄養価を持ち、さらにカロリーも低いのですが…。

(菅野さん)
「無脂肪乳は使い道が少ないので、そもそもの需要があまりないのではないかと思います」

 無脂肪乳をさらに加工すると、『脱脂粉乳』になります。つまり、バターを作る=需要の少ない脱脂粉乳が多く出る、というカラクリです。

背景に“バター不足”やコロナ禍も…酪農家を悩ませる需給のバランス

戦後、学校給食として提供

 脱脂粉乳は常温で保存でき、日持ちするだけでなく、たんぱく質など多くの栄養分を含んでいます。そのため、第2次世界大戦後には、『ユニセフ』などの支援団体が学校給食として子どもたちに提供していました。

世間の流れは脱脂粉乳から牛乳へ

 その後、より味が優れている牛乳の生産量が増えたことから、脱脂粉乳が注目されることはなくなっていったといいます。そんな脱脂粉乳の在庫量が問題になり、酪農家や乳業メーカーは頭を抱えてきました。

キャノングローバル戦略研究所・山下一仁研究主幹

 専門家は、2014年頃からの“バター不足”が関係していると話します。

(キャノングローバル戦略研究所・山下一仁研究主幹)
「バターの需要を均衡させようとすると、バターを作るときに出る脱脂粉乳が余ってしまいます。一気に生産したのではなくて徐々に増やしたから、2021年に9.8万トンと、脱脂粉乳の在庫量がとんでもないところまで増えました」

コロナ禍もあり、脱脂粉乳の在庫量が急増

 2014年以降、脱脂粉乳の在庫量が徐々に増加。バター不足で増え続ける中、さらにコロナ禍になり、在庫が増えることになりました。外食産業で使われていた牛乳の消費が減ったため、酪農家は廃棄を避けようと、牛乳にするべき生乳を保存がきくバターや脱脂粉乳の加工に回したからです。

『森林ノ牧場』山川将弘代表

(『森林ノ牧場』山川将弘代表)
「牛乳の生産は、需給のバランスを取るのがすごく難しい産業です。コロナで消費が減ったら、牛乳が余ると当然わかっているので、じゃあ牛乳を減らせるかと言ったら、それは端的に言えば、牛を殺さなければいけないんです。それが酪農家にできるかと言ったら、なかなかできないです」

コロナ禍が明け在庫約5万トン減

 コロナ禍が明けた今は、乳業メーカーや酪農家などで構成される団体『Jミルク』が牛の飼料を国産の脱脂粉乳に置き換えるなど臨時の対策事業を行い、在庫は徐々に減ってきています。しかし、一般社団法人Jミルク・生産流通グループの山崎将至部長は「国が輸入バターを輸入して、足りない分を補っているのが現状」と話していて、そもそもの“バター不足”に陥らないよう、対策を続けています。

脱脂粉乳を使った製品が続々登場!業界を救う未来は来るのか―

乳酸飲料や人気の焼き菓子に変身

 一方で、脱脂粉乳や無脂肪乳の価値を高めるための動きが相次いでいます。『森林ノ牧場』では、無脂肪乳を乳酸菌で発酵させて、砂糖を加えた飲料を開発。甘酸っぱい味が特徴です。

 また、大阪や東京の店舗で行列ができるほど人気の焼き菓子『バターのいとこ(プレーン味)』は、ここで作った無脂肪乳をメインとして使っています。

(『森林ノ牧場』山川代表)
「乳製品加工だけを見たら、バターが売れればスキムミルクはいらないかもしれないけど、酪農家とつながっている産業から見たら、90%がスキムミルクなら、そっちがむしろメインで、バターと同じように扱って価値にしていくのが、当然の考え方だと思っています」

大手乳業メーカーが新たな取り組み

 また、他の企業でも、新たな取り組みが。大手乳業メーカー『明治』は、脱脂粉乳をメインに使用したサワーを2025年3月中旬に販売しました。

食品以外にも活用

 さらに、2024年11月には、東京の企業が脱脂粉乳を繊維に練り込み肌触りを良くしたTシャツを販売するなど、食品以外にも活用が広がっています。

2025年のバレンタイン商戦にも動き

 この動きは、バレンタイン商戦にも。関西初進出となるブランド『ミルクスター』は、生クリームと脱脂粉乳を混ぜ合わせたシュークリームが売りで、期間限定でチョコレート味を販売していました。

脱脂粉乳を使ったシュークリーム

(パティシエ)
「生クリームだけだと水分が増えてしまうが、水分量を増やさずにミルク感・乳味を増すために、脱脂粉乳を入れています」

“めっちゃミルク”なシュークリーム

 味に深みを出すため、クリームだけでなく生地にも脱脂粉乳を使用。脱脂粉乳を入れることで、どれぐらい味が変わるのか?ミルク味のシュークリームを試食してみると…。

(山本記者)
「ミルクの風味が増して、すごく美味しいです。めっちゃ“ミルク”です…!」

スイーツで身近に

 週末には、合わせて100個以上売れる日もありました。

Q.このシュークリームは、脱脂粉乳を使っているのが売りですが…?
(来店客)
「そうなんですか!“粉ミルク”のイメージがあるけど、おいしいならいいかな(笑)」
(来店客)
「スイーツに入っていたら、身近に感じることできると思います」

酪農業界の支援につながる

(開発担当者・東裕太さん)
「脱脂粉乳を使った商品がたくさん売れていくのは、酪農業界の支援につながっていると思うと嬉しいです。来春・次の夏に向けて新商品を展開して、脱脂粉乳が広まっていくといいと思っています」

脱脂粉乳が業界を救う⁉

 活用が広がり、認知度が上がれば、業界を救う可能性を秘める『脱脂粉乳』。バターやヨーグルトに並ぶ乳製品になる未来は、来るのでしょうか―。

(「かんさい情報ネットten.」2025年2月11日放送)

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