【ゲキ追】大阪 「淀川」“舟運”復活の可能性… 実現に壁? 流域の街に広がる期待

かつて、“水の都”と呼ばれ、人の移動や物流に川を利用してきた大阪。その川の中でも「淀川」は平安時代から、およそ1200年にわたって大阪と京都を結ぶ大動脈でした。人が行きかうだけでなく、コメを運んだり、大阪城の石垣の石を上流から運ぶなどの物流にも盛んに使われました。古くから重要な交通・物流インフラとしての歴史を持つ「淀川」。万博を控え、その「淀川」を活用しようというプロジェクトが始まりました。“陸上交通”が発達した今、再び航路として活用する狙いとは? その可能性と課題をゲキツイします。

大阪府 吉村洋文知事(1月21日)

 大阪府の吉村洋文知事は1月21日の会見で、「大阪のベイエリアと京都を、淀川で繋ぐ。非常に力も入れているし、期待もしている」と発言した。そして、近畿を貫く一級河川「淀川」。その下流で、国による工事が1月24日に始まった。新たに生まれるのは、淀川河口の大阪湾と京都を船で結ぶルートだ。
(吉村洋文大阪府知事)
「“水の都”大阪府という中で舟運(しゅううん)、ここにまだまだ力を発揮できると思うので。これは大阪・関西の経済成長にとっても重要だと思います」

 かつて“水の都”と呼ばれ、人の移動や物流に“川”を活用してきた大阪。中でも、「淀川」は重要な交通インフラだった。この淀川を再び活用しようというプロジェクトが幕を開けた。陸上交通が発達した今、再び航路として活用する狙いとは?その可能性と課題を取材した。

万博までに完成を目指す 「淀川舟運」に必要なもの

大阪市と枚方市を結ぶ観光船

 大阪市中心部を流れる「大川」。大川は淀川から分岐し、大阪湾へと流れこむ川だ。大阪・天満橋の船着き場から出発する観光船のツアーは、この大川を北上し、淀川へ向かう。大阪市と枚方市を結ぶこのツアーでは、約2時間の船旅が楽しめる。乗客からはこんな声が。

(乗客)「土手から見るのとではまるで違う。水鳥もこんなにいるなんて…感動しています」
(乗客)「普段見えない景色。もう少し大阪も売りにしていい素敵な景色じゃないですか」

 この観光船のように、船を使って川で人や物を運ぶことを「舟運(しゅううん)」という。大阪の新たな可能性として、今この舟運が注目されている。

2025年、大阪・関西万博の開催予定地「夢洲」

 そのきっかけの一つが2025年に開催が予定されている大阪・関西万博だ。その予定地は、淀川の河口の南西に位置している人工島「夢洲(ゆめしま)」。大阪府や国は万博期間中、地下鉄など陸上の交通機関の混雑を緩和するために船を活用したい考えだ。しかし、観光船が運航する大川は大阪湾に流れ込むにも関わらず、海へ出ることは難しいという。一体なぜなのか?

観光船が運航する「大川」 水面に近い位置にかかる橋が多くある

 実は、大川を通って大阪湾に出るまでには、全部で42本の橋がある。しかし、地盤沈下で川の両岸が低くなっているため、橋の多くが水面近くにかかっている。そのため船は橋の下ギリギリのところをくぐって通過することになるのだ。その上、海に近いため満潮に近づくと水位が上がる。

(大阪水上バス 企画宣伝部 岸田俊徳課長)
「下流に行きますと半数ぐらいの橋がくぐれない。もちろん潮位が低いときは通ることができますが、毎日は絶対通ることができないです」

 船で大阪湾に出るルートは大川と淀川の2本。では、もうひとつの淀川はどうだろうか?

船の行く手を阻む「淀川大堰」

 実は淀川には、河口から約10キロ地点、大阪市内にまたがる全長約700mの大きな堰、「淀川大堰(よどがわおおぜき)」がある。1983年に完成して以来、この施設に阻まれるため、船はこの場所を通ることができない。一体何のためにあるのだろうか。

(淀川河川事務所 副所長 岸本健司さん)
「基本的には水をせき止めています。まずは海からの塩水が入らないようにせき止めています。雨が降って洪水になった時は上からどんどん水が入ってきますので、邪魔にならないよう引き上げます」

堰には最大3メートルの水位差がある

 淀川大堰の上流側は水道用の水が取られているため、海の潮位が高い時には海水の逆流を防ぐ必要がある。また、洪水が起きる恐れがある場合は、川の水を海に逃がす役割も果たしている。そのため、堰で上流側の水位を下流側より最大3メートル高くしていて、船が通ることはできない。この問題を解決するため国が新たに建設を始めたのが、「閘門(こうもん)」という水門だ。一体どのようなものなのか。

淀川と大川をつなぐ地点にある「毛馬閘門」

 実は、閘門はすでに大阪市内に存在している。淀川と大川をつなぐ地点に作られた「毛馬閘門(けまこうもん)」だ。閘門には、2つのゲートが備わっている、前方のゲートの下には水路があり、船がゲートの中に入ると、水が送られてゲート内の水量が増え水位が上がる仕組みだ。水がエレベーターのような役割を果たすことで、船は水位が違う川を進むことができる。
 
 淀川大堰に新たに作られる閘門は横幅が大きく、大川を走る観光船であれば同時に4隻が通ることができる。工事は1月24日スタートし、完成は2025年の予定だ。京都と大阪のベイエリアが結ばれることになり、観光客の往来が増えることが期待されている。さらに、メリットは観光以外にも。

陸上交通が麻痺し、宅困難者が発生した大阪北部地震(2018年)

 大規模災害が大阪で起きた場合、陸上交通が麻痺し、約146万人が帰宅困難者となる恐れがあるが、舟運は代わりの移動手段になりうる。また、1995年の阪神・淡路大震災では、淀川河口の堤防が損壊したが、船で土砂を運びいち早く復旧させることができた。災害への備えや復旧の手段としても舟運は活用が期待されている。

舟運の可能性 流域の町に広がる期待

江戸時代の淀川(提供:枚方市)

 淀川は、平安時代から、約1200年にわたって大阪と京都を結ぶ大動脈だった。人が行きかうだけでなく、米を運んだり、大阪城の石垣の石を上流から運ぶなど物流にも盛んに使われた。最盛期には約1000隻の舟が淀川を行き交ったといい、陸上交通が発達した昭和の半ばに廃止されるまで舟運は暮らしに欠かせないものだった。

枚方名物「くらわんか餅」

 大阪と京都の中間に位置する枚方市も、かつて舟の中継地点の宿場町として栄えた。街には今も、その名残がある。枚方名物として売られているのは、江戸時代に売られていたという「くらわんか餅」だ。


(市立枚方宿鍵屋資料館 片山正彦さん)
「『くらわんか』というのは『食べませんか』という意味です。枚方の辺りに差し掛かりますと、小さい船が、お酒・餅・ごんぼ汁という地域の名物を売りつける商売があったそうです。その小さな船を“くらわんか舟”と言ったそうです」

枚方宿地区まちづくり協議会 田中誓子会長

 街の人々は、舟運の復活に期待を寄せている。

(枚方宿地区まちづくり協議会 田中誓子会長)
「ここは草津に続いて大きい宿場町やから、舟の往来もあった、そういうところから賑やかな街道になった。舟運事業がこっちの方に伸びてきたら、楽しめることをとても期待しています」

伏見みなと広場(京都市伏見区)

 期待の声は淀川の上流に位置する京都市でも。京都市は伏見区の淀川流域を船の拠点として再び整備する方針だ。
 
(伏見区役所 地域力推進室 早崎真魚企画課長)
「もともと伏見港という港があり大阪と舟で繋がって淀川舟運が盛んに行われていた所です。淀川舟運復活によって大阪と伏見が繋がって、新たな人の流れ、玄関口になることに期待しています」

 航路が京都まで伸びれば、歴史ある伏見の街並みや桜で有名な「背割提」なども楽しむことができ、さらに魅力的な船旅になりそうだ。

京都と大阪湾を結ぶ「舟運」復活に立ちはだかる壁

水深が浅く、船の運航が難しいポイント存在する

 観光に、防災に、期待が高まる舟運。しかし、実現には壁も立ちはだかる。2020年の国の調査では、京都を流れる宇治川など3つの川が合流し、淀川へと変わる場所の水深は、0.5~1mほどしかなかったという。
 
 京都と大阪を結ぶ川には、このように水深が浅く船の運航が難しいポイントが複数存在している。国は川底を深くする工事を計画しているというが、具体的な日程は決まっていない。さらに、問題はこれだけではない。

観光庁・運航業者の実証実験(1月10日)

 1月10日、観光庁や船舶の運航業者が、河川用の船が海上を運行可能かどうかを検証する実証実験を行った。淀川を通って万博会場に行くには川用の船で大阪湾を渡らなければならない。しかし…比較的凪いでいた大阪湾の走行でも立っているとかなりの揺れを感じてしまうのだ。

 川用の船は水面から船底までが浅いため安定せず、波で大きく揺れてしまう。一方、船底までが深い海用の船は海の航行では安定しているが、水深の浅い川を進むと川底に接触する恐れがある。川でも海でも安定して運航するには課題が残されている。

川でも海でも安定して運航するには課題がある

(大阪水上バス 船舶業務部 大江幸弘部長)
「通常、川では50cmのうねりがあるとかなりの揺れを感じる。この辺りは緩くても50cm程度の波には達しているということになります。最悪どれくらいの波まで対応できるのか、これからも研究していかなければならないです。川の方から一気通貫で来る船にするのか、継接点をどこかに設けて船を乗り換えて揺れない船に変えるのかというのも、いろいろ検討の余地があると思います」
  
 再び、人や物を運ぶ航路へと姿を変えようとしている淀川。課題を乗り越え、流域の街に賑わいを運ぶことはできるのだろうか。

(読売テレビ 「かんさい情報ネットten.」 2022年1月25日放送)

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