【改正少年法】18歳19歳が「特定少年」に 厳罰化図る改正に“更生”か“処罰”か、問われる理念

2022年4月1日から施行された「改正少年法」。事件を起こした18歳・19歳の少年を「特定少年」と位置づけ、刑事手続きの対象となる事件を拡大し、起訴された場合は実名報道が可能となるなど、一定の厳罰化が図られました。この改正を支持する声が上がる一方で、更生に繋がる適切な処分を受けられない恐れを懸念する意見もあがっています。少年犯罪被害者の遺族、非行少年の社会復帰を支援する施設、双方を取材する中で見えてきた課題とはー。

【特集】「改正少年法」ここが変わる! 18歳、19歳を“特定少年”とし実名報道も解禁に “処罰”か“更生”か…我々に問われる理念とは

18歳、19歳が「特定少年」に…厳罰化で懸念される課題とは

 2022年4月1日から施行された「改正少年法」。事件を起こした18歳、19歳の少年を「特定少年」と位置づけ、扱いを大人に近づけるため、刑事手続きの対象となる事件を拡大するなど、一定の厳罰化を図ることになりました。この改正を支持する声が上がる一方で、更生に繋がる適切な処分を受けられない恐れを懸念する意見も上がっています。少年の“更生”か“処罰”か、「少年法」の在り方とは―。

少年への“厳罰化”…是か非か 少年犯罪被害者遺族の思い

15歳で命を奪われた、大久保光貴さん 活発な少年だった

「小さいときの写真です。これが幼稚園のときで、まだ何もできないのにユニフォームだけ先に…。遊園地に行く時は、朝、開園時間から行って、夜の閉園時間まで一日遊ぶんですよ。もうびっくりするくらい元気で。だから毎回、『連れてきてよかったな』って思う子どもでした」(大久保巌さん)

 大久保巌さんの息子、大久保光貴さんは13年前、わずか15歳の若さで命を奪われました。逮捕されたのは、当時17歳の“少年”でした。

息子を少年に殺害された 大久保巌さん

「子どもが川で発見されたと警察から連絡があって。身元引受じゃなくて身元確認でした。そこから気が動転したような感じになって」(大久保巌さん)

 2009年、少年は光貴さんを大阪府富田林市の河川敷に呼び出し、二人きりの状況を作ると、「心理テストをしよう」などと、言葉巧みに光貴さんに目をつぶらせました。そして、無防備な光貴さんを隠し持っていた木づちで襲い、さらにバットで殴り続けたというのです。

逮捕された当時17歳の少年 一方的な思い込みによる犯行だった(廷内イラスト)

 殺害の動機について少年は、「光貴さんの彼女から相談されるうちに好きになった。彼女を困らせる光貴さんを許せず、この世から消すしかないと考えた」と話しました。一方的な思い込みによる犯行でした。

「自分の夢や、やりたいことをいっぱい持っている子どもで、私たちの生きがいでした」(大久保巌さん)

更生の可能性を重視する「少年法」による、事件の流れ

 逮捕された少年は、家庭裁判所に送致され審判を受けました。「少年法」は、少年の更生の可能性を重視します。そのため、少年事件はすべて家庭裁判所で処分が決められ、家庭裁判所は少年に原則、刑罰ではなく「少年院送致」などの保護処分を課します。しかし、殺人など、人の命を奪った罪を犯した場合は、検察に送られる「逆送」となり、大人と同じ刑事裁判を受けるのです。光貴さんを殺害した少年も逆送され、殺人罪で起訴されました。しかし、下された判決は「5年~10年の不定期刑」でした。

「死刑にはならないのは分かっていたが、間違って死刑になっても納得できないのに、その中での不定期刑ですよ。そこで裁判が終わりです」(大久保さん)

 判決を言い渡した裁判官は、「最も重い刑でも十分とは言えない。これを機に議論が高まり、適正な改正が望まれる」と、異例の言葉を付け加えました。

4月1日に施行された「改正少年法」

 「少年法」は厳罰化を求める世論の高まりを受け、改正が相次ぎました。そして、2022年4月1日に成人年齢が18歳に引き下げられたことで、「改正少年法」が施行されました。罪を犯した18・19歳の少年は、新たに「特定少年」と位置付けられ、逆送の対象となる事件が「強盗」や「放火」などにまで広げられたほか、起訴された場合は実名報道が可能となり、4月8日には初めて、甲府市で放火殺人を引き起こした19歳の特定少年について、逮捕された時には非公開だった実名が発表されました。
 
「改正自体は、基本的にはよかったなと思っています。民法では18歳以上が成人になるわけで、成人ということは大人ですよね。何でも自分でできるということは責任も伴うわけです。それが中途半端な状態に置かれていて、少年法だけは責任は大人と一緒ではないという状態なので、そこはさらに改正すべきだと思います」(大久保さん)

元浪速少年院長 菱田律子さん

 一方、専門家の中には、今回の少年法改正について否定的な意見も多いです。

「今回の改正だけはちょっと違うんじゃないかと。誰のための改正なのかっていう思いはありましたね」(元浪速少年院長 菱田律子さん)

 少年院の院長も経験し、37年にわたり非行少年と向き合ってきた菱田律子さんは適切な保護処分を受けられない少年が増えることを懸念しています。

「少年」と「特定少年」では保護処分の判断が異なる

 更生が重視される「少年法」のもとでは、性格や家庭環境などが考慮され、一人一人の状況にあったやり方で更生を目指します。そのため、たとえ万引きなどの軽い罪であっても、少年院へ送るべきだと判断されるケースもあるのです。しかし、「特定少年」になると、処分は罪の重さを基準に決められるため、少年を取り巻く環境が十分に考慮されず、処分が更生につながらないおそれが懸念されているのです。

「大した事件でない場合、そのまま刑事処分されれば、起訴猶予になるか、罰金か、執行猶予かで終わってしまう。それでいいのかと言われると、それはほとんど野放しにするのと同じです。結局、誰も面倒見ないということになってしまう」(菱田さん)

加害少年の中にある“被害者性” 適切な支援の在り方とは

少年の社会復帰を支援する 野田詠氏さん

 少年の更生と処罰は、どのようにあるべきなのでしょうか。大阪府内にある児童福祉施設。少年院を出た後、帰る先がない少年や虐待などの理由で、家庭から逃れてきた少年が暮らしています。施設を運営する野田詠氏さんは、11年前からNPO法人「チェンジングライフ」を運営し、食事の準備など身の回りの世話をして、少年の社会復帰を支援しています。

「わかりやすく言ったら、親みたいな感じの距離で接してくれますね。求めていたという感じではありますね」(ホームを卒業した少年)

自身も4度の逮捕を経験したという、野田さん(当時18歳)

 自身も少年時代、バイクでの集団暴走や窃盗などを繰り返し、4度の逮捕を経験。19歳の時には少年院に送られました。そんな野田さんは、「更生できたのは、母親など周りの大人たちが最後まで見捨てなかったからだ」と話します。

「自分自身が道をそれてしまって、本当に困っているとき、行く当てがないとき、人生迷っているときに手を差し伸べてもらうと、それのおかげで生き直すきっかけになったりするので。子どもたちとか自分と同じような経験をしたような人たちに、手を差し伸べる必要があるなと」(野田さん)

近所のアパートでも、非行少年の自立を支援している

 野田さんは施設の運営のほかに、近所にアパートを借りて非行に走った経験がある少年の自立を支援しています。

「少年院を出てから半年後ぐらいにここ来ました。おばあちゃんが嫌になって、普通にめんどくさい。それで出るという話になって、出てきた」(少年院を出所した少年)

 この少年のように家庭に問題がある場合は、保護処分の延長として公的機関やNPOが運営する施設で支援を受けられることもあります。しかし、今回の法改正で保護処分の対象とならない「特定少年」が増えることで、罪を犯した少年が更生につながる支援を受けられなくなる恐れがあります。野田さんは、ほぼすべての非行少年が家庭環境に大きな問題を抱えていると話します。
 
「加害少年の中にある被害者性というのは、確かにあります。親からご飯を食べさせてもらっていない、虐待されていた、親が警察に捕まって出てこないとか。まず環境整えてあげることが大事かなと」(野田さん)

少年の話を聞く野田さん

「見してや、運転免許証」(野田さん)
「野田さんにまだ見せてなかったですよね」(少年院を出所した少年・18歳)
「いいねぇ。免許あるって、うれしいやろ?」(野田さん)
「なんか大人の階段上った気がします」(少年)
「むしろ職質してくれないかな、って思わへん?」(野田さん)
「ちょっと思いました。笑」(少年)

 野田さんが支援を続ける18歳の少年は、15歳の時に窃盗や暴力行為などで少年院に入所しました。非行に走ったのは、「家族に自分の姿を見てもらいたい」という気持ちからだったと言います。

「僕がしてきた人様に迷惑かけること、喧嘩したとか他人の物を盗んだ時に、未成年であったらお巡りさんは絶対に親を呼びますよね。親は絶対に来ないといけないから、それで『自分を見てよ』という遠回しの喧嘩をしていたなって僕は思うんですよね」(少年)

 16歳の時に少年院を出たものの、実の父は暴力団員で、同居していた母親は離婚と再婚を繰り返し帰る場所はありませんでした。そんなときに手を差し伸べてくれたのが、野田さんだったのです。

「自分がする行動で悲しむ人、喜んでくれる人がいる。資格取りましたとか、単なる資格でしょと思うけど、それを取れただけで一緒に喜んでくれるんです。『よくやったな』とか」(少年)

「18歳、19歳はまだ未熟」 少年の“更生”に必要なものとは…

 これまで多くの非行少年と接してきた野田さん。少年による凶悪犯罪に対する厳罰化には理解を示す一方、少年の更生のためには、それぞれの環境にあわせた支援が欠かせないと話します。

「18歳、19歳って経験不足ですよね。頑張っているけど、まだまだ未熟で大人扱いしてはいけないんじゃないか思うんです。責任を求めるのは、自覚が出るからいいと思うんです。ただ、保護と教育が抜け落ちる可能性があると思うんです。更生の機会を奪われることで困るのは、我々社会で暮らしている人だと思います」(野田さん)

 少年の“更生”と“処罰”。時代の変化の中で、少年法の理念をどのように守っていくか…改めて問われています。

(「かんさい情報ネットten.」 2022年4月5日放送)

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