12月9日(火)
伝統の町並みつくる「京町家」消滅の危機 残すのは建物ではなく○○【かんさい情報ネット ten.特集/ゲキ追X】
京都の伝統的で風情ある町並みを形づくる「京町家」。1864年の「蛤御門の変」で焼け野原となった京都市内に所狭しと建てられ、100年以上経った今でも京都に息づく人々の暮らしを支えています。しかし近年急速に取り壊しが進んでいて、このままでは消滅してしまう可能性も。背景と取り組むべき課題、そして、京町家を消さないために奮闘する人々を取材しました。
【特集】消える京町家は一日2軒以上…京都の歴史的町並みが消滅の危機 知恵と技術の結晶を次世代へ 保全の現場で奮闘する人々の想い

京都の景観を支える『京町家』
京都の伝統的で美しい景観を支える『京町家』。しかし、このままでは消えゆくかもしれません。歴史と文化を次世代へとつなぐため…伝統を守ろうと奮闘する人々を取材しました。
京町家の特徴は?向き合う大工のこだわり

大下工務店・大下尚平さん
大工・大下尚平さんは父の工務店を継ぐため、専門学校を出た後、大工として働き始めました。約20年前、ある京町家の改修を任されたのがきっかけで、京町家の魅力に取りつかれたといいます。
(大下工務店・大下尚平さん)
「自分が習ったことと全然違うから、どうやって直すんやろう、どうやって建てたんやろう、ということに興味を持って」

先人たちの知恵と技術の結晶
かつて、京都には日本中から人が集まってきたため、限られた土地に限られた資材で多くの家屋を建てる必要がありました。先人たちの知恵と技術の結晶が『京町家』を作り上げ、今なお京都らしい町並みを一手に担っています。

京町家の柱の特徴
大下さんの工務店では、京町家の改修を主に手掛けています。
(大下さん)
「柱は、大黒柱用の石の上にのっているだけです。お寺や神社と同じように、石の上に柱が立つのが特徴かと思います」

苦労の跡を見せない=京都流
(大下さん)
「竹小舞を編んだ壁の下地に、左官職人が土をつけます。京町家にとって一番大事なところです。裏を見たらしっかり仕事がしてあって、苦労の跡を見せないことが京都流なのかな」

復元を念頭に改修する
こだわりは、建てられたときの姿に復元すること。手作業で仕上げるため、一軒あたり1年以上かかる現場も珍しくはありません。
(大下さん)
「1本を抜き替えることもできますが、傷んでいる部分がここだけなので、目継で取り換える金輪継という継ぎ方にしています。復元を念頭に改修することが大事と思っています」
『100年前の姿にそのまま戻すことで、新たな100年の歴史を紡げる』という考えです。また、技術の継承も欠かせず、次の世代の育成にも力を入れています。
(大下さん)
「工事が終わったときに、近所の人から『長いこと工事してはったけど、どこ直さはったん?』と言われたのが嬉しかったです。どこを直したかわからないよう、さりげなく直すことにこだわっています」
一日2軒以上が消滅…存続の危機に瀕する京町家

京町家、存続の危機
大下さんがここまで真剣に京町家と向き合う背景には、“京町家の存続の危機”という京都市が抱える深刻な課題がありました。
(大下さん)
「僕がすごく良いプロポーションやと思っていた角の町家が、春ごろに取り壊されて、駐車場になりました。他の町家も、なくなったと思ったら新しくマンションが建って。なくなったら、元々何やったんやろうと記憶も失われて…」

一日2軒以上が消滅
京町家は近年、減少の一途を辿っています。2009年には約4万7000軒あった京町家も、現在は約3万5000軒程度に。平均して、一日2軒以上が消滅している計算です。

京町家は新しく建てられない
また、伝統工法が用いられている京町家は、現在の耐震基準では強度を測れず、新たに建てることができません。今残されているものを守らなければ、いずれ消滅してしまいます。
(大下さん)
「残していきたいけど、相続でその建物を手放さざるを得なくなると聞くこともあります。僕ら工事の人間ではどうにもならないことも、確かにたくさんあります」
京町家消失の最大の原因は?残すために奮闘する人々

京都市景観・まちづくりセンター
京町家を残していくうえでの課題のヒントを探るべく、『京都市景観・まちづくりセンター』の取り組みに同行しました。この団体は約30年前、京町家の減少や失われていく景色に危機感を抱いた人々によってつくられました。
京町家が消失する最も大きな原因は、持ち主に維持するための情報が行き届いていないことだといいます。
(京都市景観・まちづくりセンター 北川洋一専務理事)
「先祖代々引き継いでいる町家に住んでいて、結構傷んできているけど、何をどう直していいかわからない。相続をきっかけに滅失している町家もあります」

町家カルテとは?
そうした声を受け、取り組んでいるのが『京町家カルテ』です。大工や建築士と共に町家を調査し、構造や素材の把握はもちろん、改修が必要な箇所などを確認・記録します。どこが傷み、どう直すべきなのかを正確に把握することが、保全への第一歩となります。

実際に家を見て魅力を伝える
さらに、町家としての魅力や価値を明らかにすることで、次の世代の担い手の確保を手助けする狙いもあります。
(建築士・栗山裕子さん)
「『この建物はこれが魅力です』と言ってあげて、住まわれている方や次住まわれる方に『こんなところが素敵なんだ。ここを大事にしよう』と思ってもらえたら良いですね」

金銭面の悩みが多い
また、センターでは、連携する専門家とともに町家の活用について相談に乗ります。持ち主が一様に語るのは、金銭面の悩みです。同じ土地でもビルに比べると収益は劣る傾向にあり、新築に比べて固定資産税が割高になってしまうなど、町家を持ち続けるだけで経済的負担は大きくなります。

京都市『京町家条例』改正へ
そこでセンターは、公的な補助が及ばない町家に対しても助成金を出すなどの支援をしています。京都市も、7年前に全国に先駆け制定した『京町家条例』を、2026年度をめどに改正する予定です。固定資産税の軽減措置などを盛り込み、持ち主の負担を減らすことで減少に歯止めをかけたい考えです。

一部を助成金でまかなった
今回、男性が依頼したのは、祇園町にある町家の改修です。一棟約4000万円の費用は、一部を助成金で賄いました。完成すれば、町家の継承に理解があるテナントに貸し出したいといいます。

伝統的なものを残していけたら…
(京町家の持ち主)
「まちづくりセンターの方にご相談申し上げたら、見に来ていただいて、『これは残しなさい』ということになってしまって(笑)でも、京都の伝統的なものを残していけたらいいなと。どんどん衰退していきますから」
「工事したらおしまいではない」暮らしそのものを未来へつなぐ

大工には文化力・知識力も必要
普段の作業着姿からは打って変わって、着物を身にまとい、端正ないで立ちで現れた京町家大工・大下さん。この日は、以前改修を担当した町家でのお茶会に出席していました。大下さんが茶道を習い始めた背景には、濃茶よりも苦い経験がありました。
(大下さん)
「お茶室を作りたいというお客さんに対して、自分の知識がないから工事にならず、すごく悔しかったから、お茶を始めることにしました。大工さんの文化力や知識力がないと、意思疎通がうまくいかないかなと思います」

『職住一体』が基本の京町家
京町家は『職住一体』が基本。芸事や手仕事の場としても活用されてきました。こうした人々に大工として向き合うには、礼儀や文化・伝統に対する知識が欠かせません。

京町家を残すために大切なこと
京町家を残すことは、単に建物だけを残すことにとどまりません。不便さや少しの負担を補ってあまりある魅力に共感してくれる人を増やしながら、脈々と続く京都の文化や価値観・技術など、人々の暮らしそのものを未来へつないでいくことです。
(大下さん)
「京都という街の暮らし方、日本の文化も京町家にはたくさん詰まっているし、維持していくことが僕らの協力できること。工事したらおしまいではなくて、そこからお付き合いが始まっていくことが、大事なことのひとつです」
(「かんさい情報ネットten.」2025年12月9日放送)
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