9月16日(火)
ゴミ・騒音に住民戸惑い “制度の不備”に事業者・行政も困惑 特区民泊は地域と共生できるのか
特区民泊を巡っては、騒音やゴミ問題を訴える大阪市への苦情件数が増え、新規受け入れの停止などが検討されています。そんな中でも事業者の新規申請は増加し“駆け込み”需要が。特区民泊を巡る問題を断ち切ることができるのか、ゲキ追しました。
【特区民泊】深夜に花火・騒音・ゴミ散乱…迷惑行為に「何のメリットもない」住民怒り “退場ルールがない”制度の現状と地域共生への課題

“特区民泊”の現状と課題
急増する外国人観光客に対応するため、9年前に始まった“特区民泊”。全国の9割以上の特区民泊が集中する大阪市では、宿泊者による迷惑行為や騒音問題など、周辺住民とのトラブルが相次いで報告されています。特区民泊が地域と共生するには?現状と課題を取材しました。
「民泊ができてもメリットはない」生活環境の変化に戸惑う近隣住民

大阪市に全国の9割以上が集中
『特区民泊』は、国内や海外からの旅行やビジネスでの利用など、宿泊需要を取り込むため、国が一部の地域に限定して導入した制度です。万博の開催によって宿泊需給のひっ迫が懸念されてきた大阪市には、全国の約95%にあたる6700ほどの施設が認定されています。

住宅街で花火を振り回す男性
ホテルや旅館などと比べると、立地エリアや営業日数などの制限が大幅に緩和され、マンションの空き部屋や空き家などが活用されることが多い特区民泊。2024年9月、大阪市東成区の閑静な住宅街にも開業しました。
しかし、近隣住民からは「民泊の前で2~3人で酒を飲んでいて、夜はうるさい」という声があがっていて、映像(住民提供)には、人々が寝静まる午後10時半ごろ、民泊施設の前の道路上で突如花火を始めた男性の姿が…。その後、もう1人の男性が現れると、壁をよじ登ろうとしていました。2人はその後、民泊施設の中に入って行ったといいます。
(近隣住民)
「苦情連絡先の電話番号は書いてあるが、電話しても通じない・出ないことが多々ありました。警察が電話しても出なかった」

協定書を作成していたが…
町内会は、民泊の開業前に管理会社との間で協定書を作成し、「花火・爆竹等の禁止」や「ゴミ出し」「喫煙」のルールなどを定めていましたが、開業後、ルールを逸脱する行為が相次いで起きているといいます。

近隣住民との間に軋轢
近隣住民らは、「ゴミ箱に蓋ができないぐらい、溢れ出る感じでゴミが散乱していた。火事が一番怖い」「地域として何のメリットもない。店があるわけではないので何の儲けもなく、迷惑を散らされるだけ」と話していて、特区民泊によりもたらされた“生活環境の変化”に戸惑いを隠せません。
4割以上が中国系?経営・管理ビザが目的か

民泊は“木造密集市街地”にまで
観光や宿泊施設に詳しい阪南大学・松村嘉久教授は、ここ数年、大阪市内で特区民泊が急増するのを目の当たりにしてきました。生野区の鶴橋から桃谷にかけての“木造密集市街地”にまで、特区民泊が増えてきているといいます。

阪南大学・松村嘉久教授
(阪南大学・松村嘉久教授)
「今、民泊は郊外に広がっていて、大阪だと環状線の外側にも広がっています。民泊で採算が取れない所が多いが、民泊ができているのは、経営・管理ビザで移民につながるところにあります。多少高くても、土地や物件を買うわけです」

経営・管理ビザが目的か
外国人が民泊を経営する場合、日本への在留資格となる『経営・管理ビザ』を取得でき、一定の条件を満たせば、3か月~5年の間、日本に滞在することができます。このビザ目的に民泊を経営する外国人も多くいるとみられ、松村教授の調査では、大阪市内の特区民泊の4割以上を中国人・中国系法人が運営しているということです。

突如届いた家賃の値上げ通知
急増する特区民泊の中には、周辺住民の生活に大きな影響を及ぼしかねないケースも発生しています。2024年3月、大阪市浪速区のマンションの住民に突如届いたのは、管理会社から家賃の“値上げ”を求める通知です。その後、送られてきた書類には、「マンションで民泊を開業する」と記載されていました。

早朝に工事音、部屋に水漏れ…
(マンションの住人)
「管理会社に電話しても、すごいカタコトで話のニュアンスも伝わらなくて、工事の方もカタコトで。工事が終わったら天井の壁紙を張り替えてと言ったら『わかったわかった』と言っていたが、工事が終わっても何の音沙汰もなく…」

住民3分の2以上が退去
住人の男性は管理会社との間で、いずれ引っ越すことを条件に家賃は据え置かれていますが、この1年半の間でマンションの住民3分の2以上が退去を余儀なくされたといいます。マンションの下には、中国語で書かれた資材が積み上げられていました。
地域と共生する民泊施設も 現在の制度の“抜け穴”

マンション一棟丸ごと民泊に
大阪市此花区で2025年6月に開業した『THE RISE 大阪ユニバーサルベイサイド』は、約200室ある新築マンションを“一棟丸ごと民泊”としたことで、波紋を呼んだ施設です。“自宅のような快適さ”を売りに、部屋の中にキッチンや洗濯機などを配備し、民泊の特徴である長期滞在を意識した作りになっています。

一部の近隣住民が反対
開業前は、一部の近隣住民が反対する署名活動を行っていたといいますが、地域と共生するために、どのような対策を取っているのでしょうか。
(THE RISE 大阪ユニバーサルベイサイド・浅蔭祐樹支配人)
「事業者のほうでゴミは全て回収して、最終的には我々で分別して、ゴミを出すところも配慮してやっています」

近隣住民らの指摘に対応
また、開業後も自主的に月に一度は近隣住民との協議の場を設定していて、路上駐車が多いと指摘を受けたことから、24時間監視できる体制を取っているといいます。浅蔭支配人は、「路上駐車の場合は声かけして、それでも応じない場合は、警察への通報も行っている。この地で共存・共栄していくために必要なことだと思っているので、継続して取り組んでいきたい」と話しています。

『信和不動産』原田大資常務取締役
『信和不動産』原田大資常務取締役は、今の特区民泊の制度の問題点について、「今は大きい罰則がない。今後、制度設計で、特区民泊として運営をきっちりやっている事業者と、そうでない事業者との明確な線引きをしてもらうといい」と指摘しています。
自治体の“離脱”相次ぐ 求められる制度改革とは?

対策に動き出した自治体も
様々な制度の不備が指摘される中、ついに自治体も対策に動き出しました。2025年8月、大阪・寝屋川市は特区民泊からの離脱の意向を表明し、府内の27の市と町も、府の調査に対して離脱の意向を示しています。(2025年10月2日現在)

大阪市も『対策チーム』立ち上げ
全国の9割以上が集中する大阪市も『対策チーム』を立ち上げ、今後の対応を協議しています。大阪市・横山英幸市長は、「騒音やゴミ出しも含め、地元住民とのトラブルが指摘されている。早急に課題の解決に向けて進めたい」としています。

大阪市議の勉強会
阪南大学・松村教授も、「立ち入り検査や行政的指導、最悪の場合は認定抹消などのルールを設定していないため、“退場ルール”がないことも大きな問題だ」と、制度を改善する必要があると指摘します。
松村教授は、大阪市議の勉強会でも、「最初から主張しているが、制度設計するときに留意すべきだった点は、民泊は住宅なので、居住環境とすみ分ける立地制限は絶対に必要。家の隣に毎日入れ替わり立ち代わり外国人が入ってくるのは、子育てしている人間からすると信じられない。その辺りの想像力が欠如していた」と主張していました。
また、大阪市議・永井広幸氏からの「特区民泊から撤退することは可能なのか?」という質問に対しては、「特区民泊から撤退したら、“闇民泊”時代に戻るのでは。需要があれば、必ずアウトローは出てくる」との見解を示していました。
一方で、新規受け入れの停止については、「“玉石混交”のものを淘汰するルールを作るまで、一時的に新規の受け入れを停止するのはアリだが、未来永劫にやめるのは強引。大家族で泊まれるなど、特区民泊独特のニーズはある。適切にコントロールする形で、良いほうに誘導していく」としています。

観光立国の理想とは―
(松村教授)
「訪れる人がたくさん来ることで住みにくくなるのは、本末転倒。観光立国の原点に返って、『住んでよし』は確保しながら訪れる人をつくっていく。訪れる人が来れば来るほど『住んでよし』が高まるのが、本来の理想です」
住む人にとっても訪れる人にとっても“気持ちの良い制度”への改革が、今、求められています。
(「かんさい情報ネットten.」2025年9月16日放送)
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