利用者減少で赤字…存続危機の「ローカル線」 人々の足を支える“ライフライン”、公共交通のあるべき姿とは

利用者が減少し、赤字が続く地方を走る路線、ローカル線。“存続”か“廃線”か…自治体と事業者の間で議論は平行線をたどっています。国の検討会では一定の基準より利用者が少ない路線について、改善策を協議する場を設けるよう言及されたものの、いまだ具体的な道筋は示されていません。岐路に立つローカル線の実態と、我が国の公共交通のあるべき姿を模索します。

【特集】利用者減少で赤字…存続危機の「ローカル線」 人々の生活を支える公共交通のあるべき姿とは

”存続”か”廃線”か…岐路に立つ「ローカル線」の実態

 私たちの生活の足である鉄道。交通を支えるライフラインが今、存続の危機を迎えようとしています。JR西日本は2022年、初めて赤字路線の収支を発表しました。今後も収益が見込みづらい「ローカル線」について、今の状態を維持し続けることは、困難だと明らかにしたのです。

 一方、国の検討会は『一定の基準より利用者が少ない路線について、改善策を協議する場を設ける』よう言及しましたが、具体的な道筋を示すことはしていません。”存続”か、”廃線”か…。そんな中、自治体と事業者が手を携え、他の交通手段に切り替えた地域もあります。岐路に立つ「ローカル線」、地方交通の実態を取材しました。

現実味を帯びる「ローカル線」廃線の危機に住民らも戸惑い

兵庫県佐用町を走るJR姫新線

 のどかな景色が広がる兵庫県佐用町。人口は1万5000人ほどで、その半数近くは65歳以上と、年々、過疎化が進んでいます。この町の人々の生活を見守ってきたのが、JR姫新線の佐用駅です。国土交通省の検討会が基準とした、1日・1km当たりにどのくらいの利用者がいるかを示す「輸送密度」が、1000人を下回る区間の1つです。

「輸送密度」が1000人未満の関西の路線(2019年度時点)

 JR西日本によると、関西で該当するのは、「姫新線」のほか、兵庫県の「加古川線」と「山陰線」、京都府の「小浜線」の4つの路線です。現実味を帯び始めた”廃線”の危機に、住民らは戸惑いを隠せずにいます。

「神戸や姫路など、東の方に出るためには姫新線が必要ですから、なくなったら困るという気持ちだけです」(乗客)

「佐用町の象徴です。私たちも長いこと汽車で通勤していたから、やっぱり存続してもらいたいわなあ」(住民)

佐用町 庵逧典章町長も危機感

 佐用町のトップも、危機感をあらわにしています。

「廃線となると、これは大変に大きな問題なります。高校などの通学範囲からすると、たくさんの子どもたちが毎日通っています。そういう生活自体が成り立たなくなってしまいます」(佐用町 庵逧典章町長)

生徒の約半数が姫新線を使って通学している佐用高等学校(兵庫県佐用町)

 佐用駅から15分ほどの場所にある、兵庫県立佐用高等学校の全校生徒の約半数は、姫新線を使って通学しています。

「ここまでくる手段が電車以外にないので、すごく困ります」(生徒)
「廃線になると、親に送ってもらうしか方法がなくなるので、きついですね」(生徒)

自治体自ら建物の建設や周辺道路の整備を行った

 佐用町も、ただ手をこまねいている訳ではありません。住民のライフラインを守るため、30年ほど前から、姫新線を存続させるための取り組みを進めてきました。利用を促進するため、学生の通学定期券代を補助、5人以上のグループには片道分の切符代を負担しています。さらに町内にある3つの駅については、総額3億5000万円ほどをかけて、建物の建設や周辺道路の整備などを行いました。

「JRだけにお願いするのではなく、地域がみな力をあげて、自治体も一緒になって、みんなで支えてきた鉄道なんです。存続させて、鉄道の機能を残すためには、どういうやり方や意義があるのか、国に考えて頂かないといけないと思っています」(佐用町 庵逧典章町長)

有事にも活躍 「収益面では測ることのできない」鉄道の役割

JR西日本 長谷川一明社長

 2022年4月、赤字路線の公表に踏み切ったJR西日本。新型コロナウイルスの影響で主力の運輸収入が激減し、グループ全体の最終的な損益は、2年連続で大幅な赤字となりました。これまでは利用者が多い新幹線や、都市部の路線で得た収益でローカル線を維持してきましたが、コロナ禍に加え人口の減少も進み、支えきれなくなってきています。

「私どもとしては、鉄道網は可能な限り維持して守っていく必要があると思っているが、(巨額の赤字で)経営的に厳しくなってきているというのも事実です」(JR西日本 長谷川一明社長)

 民間企業であるJRは、利用者の少ない不採算路線をそのまま放置するわけにもいかないのです。

鳥取大学工学部 谷本圭志教授

 しかし公共交通に詳しい専門家は、鉄道には収益面では測ることのできない、重要な役割があると指摘します。

「鉄道は、色々なところが繋がって、ネットワークをなしていることに意味があります。平時もさることながら、有事・災害のとき迂回路として使う、そういう使い方もできます」(鳥取大学工学部 谷本圭志教授)

「輸送密度」が関西で最も低い区間のあるJR加古川線(兵庫県・谷川駅)

 兵庫県丹波市にあるJR谷川駅。この駅を通る加古川線の一部区間は、「輸送密度」が関西で最も低く、基準の1000人を大きく下回っています。しかし、この路線が多くの人々にとって、まさに“ライフライン”になった時がありました。

谷川駅にあふれかえる乗客(丹波新聞/1995年1月29日付)

 1995年1月に起きた「阪神・淡路大震災」は、関西の交通網に大きな打撃を与えました。高速道路は倒壊し、鉄道も私鉄を含め、大阪と神戸を結ぶ路線が全て寸断されたため、人々は加古川線を使って迂回し、大阪と神戸の間を行き来しました。当時発行された地元紙・丹波新聞の記事には、谷川駅のホームが乗客であふれかえり、車両は通常の1両から3両に、駅員や便数を増やして対応したことが記されています。収益性も追求せざるを得ないため、事業者任せではこういった有事も考慮した交通網を作り上げることは難しいのです。

「今、国は及び腰で前に出てきていませんが、国全体のネットワークは国が考えることなので、積極的に議論して頂きたいです。今一度、鉄道の役割を再考して、どういう路線なら残すべきという議論が本来あるべきだと思います」(鳥取大学 谷本教授)

公共交通手段は「バス」に 住民の利便性と採算性の両立を目指す地域も

7つの町からなる北海道・日高地域

 一方、“廃線”を余儀なくされ、ほかの交通手段に切り替えた地域があります。北海道の日高地域は、日高山脈のふもとに和歌山県と同じくらいの広大な土地を誇り、7つの町からなっています。この地域では鉄道の“廃線”に伴い、2021年4月に公共の交通手段を「バス」に転換しました。ダイヤの見直しや停留所を増やすことで、交通の利便性を保とうとしています。この日の便には最大で10人ほどが乗り合わせていました。

「バスも便利になりました。足が悪くても乗れるからね」(乗客)

かつて人々の生活を支えていた、JR日高線は廃線に

 この地域も、かつては鉄道が人々の生活を支えてきました。1937年に開通したJR日高線は、苫小牧市と様似町の間の海岸線、約150キロを結び、観光客や沿線住民に愛されてきましたが、2015年には高波が、さらにその翌年は台風が襲い、線路はいたるところで寸断されてしまったのです。

 JR北海道が試算した、復旧にかかる費用は実に100億円以上でした。赤字路線である上に莫大な復旧費用もかかるため、沿線の自治体も“廃線”を受け入れ、2021年、約116キロの区間がその歴史に幕を下ろしました。

鉄道から「バス」への転換

 JRが自治体などと話し合い、代替案として導き出したのが“バスへの転換”でした。JR北海道は、地元の2つのバス会社と乗客データなどを共有し、住民の利便性と採算性を両立させた、持続可能なバスダイヤの設計に取り組みました。例えば、朝は高校生が通学で多く利用するため、高校に向かうバスを1台追加し、日中は、移動手段をもたないお年寄りなどに向けて、スーパーなどがある都市部に出かけやすいダイヤにしています。

「鉄道での運行を望む声は当然ながらありました。本当に地域に必要な交通体系はどうかと、自治体の皆様も真剣に考えて頂いて一緒になって協議ができたので、このようなダイヤができたと考えています」(JR北海道・地域交通改革部 海原邦夫専任部長)

「バス」への転換、住民の声は?

 住民たちはバス転換について、どのように感じているのでしょうか。

「自宅のある厚賀には店がないの。2軒あったけど1軒無くなって、ちょっとした買い物は、中心部の静内の方にいきます。停留所は近いし、駅なら歩かないといけないから、私たちはかえってバスの方が良いかもしれません」(乗客)

「8時に遅れたらもうバスがないので、便数を増やして欲しいです」(高校生)

新ひだか町 総務部 柴田隆部長

 しかしコロナの影響もあり、乗客数は当初の見込みには至っておらず、新しいバス路線も赤字です。今もJRとバス会社、そして自治体が手を携え、それぞれの状況を理解しながら、この地域の公共交通のあるべき姿を模索し続けています。

「我々としては、現実的な部分をみながら、冷静に方向を決めていきます。国や北海道とも議論しながら、背負うところは背負ってもらいながらやっていきたい」(新ひだか町総務部 柴田隆部長)

 “存続”か、廃線”にして他の手段に切り替えるのか?「ローカル線」は岐路に立たされています。人々のライフラインを維持するために、自治体や事業者だけでなく、国が先頭に立ってその道筋を示すことが求められています。

(「かんさい情報ネットten.」 2022年9月6日放送)

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