1匹500円以上⁉秋の味覚が大ピンチ!“サンマ”が歴史的不漁、日本有数の水揚げ量を誇る港を緊急取材!食卓にサンマは届くのか?【かんさい情報ネットten.特集/ゲキ追X】

脂がのった秋の味覚「サンマ」が恋しい季節。しかし、そのサンマが危機に直面しています。水揚げ量はここ数年、右肩下がりで減り続け1匹100円程度だった価格が高騰しています。サンマは、私たちの食卓に届くのか、歴史的不漁の背景をゲキ追しました。

【特集】秋の味覚「サンマ」が歴史的不漁で大ピンチ!中国など外国船と奪い合い、以前は“出回らないサイズ”が市場に…日本有数の水揚げ量を誇る港町にも異変

サンマが直面する危機

 秋の味覚「サンマ」が危機に直面しています。9月下旬になり、大阪のスーパーでは1匹200円前後で販売されるようになりましたが、身は小さく、「以前は市場に出回ることはなかったサイズ」だといいます。歴史的な不漁が続く背景を探ると、日本のはるか沖合で海外船との壮絶な“奪い合い”が…漁場で、いったい何が起きているのか?東北の港町を緊急取材すると、町全体に“異変”が起きていました。

最近は1匹216円も…「この大きさは加工用だった」

「市場に出回ることのなかったサイズ」

 9月26日、大阪府八尾市のスーパー「フレッシュマーケットアオイ八尾山本駅前南店」に並んだサンマ1匹の税込み価格は216円。9月4日に取材した際は500円を超えていましたが、市場に出回る量が安定しはじめ、歴史的な不漁だった去年よりは入荷が増えているといいます。

 ただ、216円のサンマの重さを計測すると、100グラム前後。鮮魚担当の徳野土師明さんは、「このサイズは以前は市場に出回ることのなかったサイズ」と指摘します。

 一方、脂がのった150グラム前後のサンマの価格は626円で、一昔前まで100円前後だった頃と比べると価格は約6倍。今後も「大きいサイズは入荷量が少なく、どこまで値段が下がるかは読めない」といいます。

海水温が上昇 群れが沖合に

水揚げされたサンマは小ぶり

 従来、サンマは夏場にかけて黒潮に乗って太平洋を北上し、秋になって水温が下がると北日本の沿岸に近づくように南下します。秋になれば北海道や東北地方の近海で、盛んに漁が行われていました。

 ところが、海水温の上昇などにより、冷たい水温を好むサンマの群れは、ここ数年、日本の近海には現れず、漁場ははるか沖合に移動しました。取材した岩手県大船渡市のサンマ漁船の乗組員は、「以前は漁場まで数時間だったが、いまは2日半かかる」といいます。原油の価格高騰も重なり、大船渡のサンマ漁船の場合、燃料費は約2倍になり、1回の漁で約500万円かかるといいます。

 沖合になるほど、エサとなるプランクトンが少なくなるため、身が小さく脂がのっていないサンマの割合が増えているのです。9月15日、大船渡で水揚げされたサンマ32トンのうち約半分は、100グラム以下のサイズでした。

 大船渡市内で飲食店を営む佐々木正夫さんは、「昔から知っているお客さんからすると、やっぱり全然物足りない。小さなサンマはミンチにして、お椀のネタとして出すのが定番だったが、いまはそれを焼き物にする時代になった。寂しい限りだ」と嘆きます。

公海上で外国船と奪い合い…処理水放出後も「船の数は変わらず」

赤い灯りを照らす外国船

 サンマの群れが移動した沖合の漁場は、日本の排他的経済水域の外にある公海上になります。別のあるサンマ漁船の乗組員が9月20日前後に撮影した映像には、真っ暗なはずの広い海に、赤い灯りを照らす大型船がひしめき合っていました。

 大船渡のサンマ漁船の船長を務める澤田幸二さんは、「海外の漁船は照明を真っ赤にするから、遠くからでも外国の漁船がいるとわかる。何倍もの大きさの漁船が約100艘いる中に、突っ込んでいかないといけない」と現状を口にします。

 太平洋上でサンマ漁を行っているのは、最近では主に台湾・中国の船で、日本がサンマ漁の解禁日に設定している8月20日よりも前から漁を始めているといいます。魚の大小問わず捕獲し、3000トンクラスの大型の母船もあり、捕獲したサンマは洋上で冷凍した上で、加工用として本国に運搬しているとみられています。

 福島第一原発の処理水放出により、中国は8月から日本産水産物を全面禁輸にしていますが、澤田さんは「(中国を含む)外国の漁船の数は変わっていない」と話します。長時間、同じ場所にとどまっていて漁をしていると、「群れがいる」と察知し、外国船が煌々と照明をつけて近づいてきて、サンマの群れをおびき寄せようとするなど、まさにサンマの『奪い合い』の状況が起きているのです。

漁の解禁から3週間以上も…水揚げゼロ サンマの街に異変

気仙沼の閑散としたサンマのセリ場

 日本有数のサンマの水揚げ量を誇っていた宮城県気仙沼市。毎年秋には、豊漁を祝って市場で塩焼きがふるまわれていました。ところが、取材した9月14日、漁の解禁から3週間以上が経ったにもかかわらず、港にはマグロやサバなどが水揚げされているものの、肝心のサンマの姿が見当たらず。

 長年、気仙沼でサンマ漁船の水揚げを仲介する岩槻英一さんは、「漁場が沖合になり、燃料費を少しでも抑えるために、北海道東部で水揚げする船が増え、気仙沼まで来てもらえなくなった」と話します。

飲食店ではカツオを主役にしたフェアに

 気仙沼市の鮮魚店の店頭には、水揚げされたばかりの魚の中に、北海道から運ばれたサンマが並ぶことに。飲食店では、サンマの水揚げがないため、『再びカツオときどきサンマ祭り』という、カツオを主役にしたフェアを行っていました。サンマは冷凍保存していた去年のサンマを提供せざるを得ないといいます。

 サンマの不漁は、地元経済にも暗い影を落としています。市内の水産加工工場「ミヤカン」では、サンマの缶詰を定期的に製造していましたが、原材料の仕入れ値がここ数年で6倍以上に…青魚の缶詰の大半をサバやイワシに切り替えサンマ製品を作るのは1年にわずか数日だけになったといいます。

 ミヤカンの福島庸夫社長は「地元の方にも親しんでいただき、絶やしてはいけない商品だが、今ここまでの生産になってきてしまうと大変切実な問題」と訴えます。

 サンマの不漁は、水産業だけでなく、小売りや梱包、配送など、サンマの水揚げによって循環していた街全体に大きな打撃を与えているのです。

漁獲量を増やすために…養殖の可能性は?実現には様々な課題も

世界で唯一の“生きた”サンマの展示

 サンマの漁獲量を増やす方法はないのでしょうか。福島県いわき市のある水族館「アクアマリンふくしま」では、2000年の開館当初から世界で唯一サンマの展示を行っていて、生きたサンマを見ることができる貴重な施設です。

 サンマは、神経質で傷つきやすく、生きたまま運ぶことが難しいため、水族館では、水槽内で産卵・ふ化させることで展示を行っています。こうした知見を生かし、サンマの「養殖」が可能かどうかを検証する基礎研究を関西大学などと共同で本格的に始めました。

 サンマを養殖できれば安定供給できますが、アクアマリンふくしまの山内信弥さんは、「展示のために100~200匹ぐらいいれば十分な数なんですけど、養殖だと(採算をとるために)何万匹という魚を育てられないといけない」と話します。

 寿命は長くても2年のサンマを150匹飼育するのに、水槽などの設備費や電気代などかかる費用は1000万円以上。採算性を考えた場合、コストが大きな壁となります。「養殖対象のタイ・ブリ・マグロなどは『高級魚』で、『大衆魚』のサンマと真逆の位置にある。ブランド化するとかしないと、養殖をするメリットがない」と山内さんは指摘します。

 サンマを手ごろに楽しむには、今のところ、海の資源の回復を待つしかないようです。

サンマ激減で各国に漁獲量の上限も…どこまで守られる?

食卓にサンマは並び続ける?

 漁獲量が激減する中、2015年に設立された国際機関「北太平洋漁業委員会」には、日本や中国、台湾など9つの国・地域が参加し、今年3月、2024年までの2年間について、サンマの漁獲枠を約25%削減し、年25万トンを上限とすることで合意し 各国の漁獲量の上限についても定められています。

 ただ、2022年の各国の漁獲量と比較すると、厳しい制約を課しているとはいえず、上限を超えた国に対して罰則があるわけではありません。水産庁の担当者は、「上限を超えた場合、2025年以降の漁獲枠の交渉で不利になるなど、一定の抑止効果はある」としていますが、中国などの諸外国がどこまでルールを守るかは不透明な状況です。

 海水温の上昇に外国船との競争など、複雑な要因で不漁が続く秋の味覚「サンマ」。この先も、私たちの食卓に並び続けるのか、その未来はまだ誰にも分からない状況が続きます。

(「かんさい情報ネットten.」2023年9月26日放送)

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