8月9日(火)
日本初LCCピーチ 就航から10年…新戦略は“超ローカル”!空港から離れた京丹後市の地方創生、今あえて挑むワケ
2012年、関西空港を拠点に就航したLCCピーチ。「空飛ぶ電車」をコンセプトに地方と都市を結び、低コスト低運賃で人を運んできた。就航10年の今年に挑むのは、京都・京丹後市の地方創生プロジェクト。京丹後市ならではの魅力を深堀りして発信することで、市のファンを増やし交流人口を増やすことが目的だ。しかし、ピーチにとっては関西空港から離れた“空港から遠い地方”との連携は前例のないチャレンジ。なぜ今、“空港から離れた地方”に目を向けるのか?LCCピーチの新たな戦略を追う。
【特集】ピーチの新戦略は京丹後市の活性化!?「挑戦しながら面白がりたい」超ローカル地方とタッグを組む国内最大LCCの飽くなきチャレンジ精神

ピーチ、前例のない挑戦へ
3年ぶりの行動制限のない夏。大阪・関西国際空港には、たくさんの旅行客の姿がありました。日本初の格安航空会社ピーチの予約率は7割ほどで、2021年を約10%上回りました。これまで都市と地方を結んできたピーチは、地方を活性化し航空需要につなげるため、就航地の空港周辺の地域と連携してきました。
そして2022年、就航10年を迎えた今年のコンセプトは、『とんがって行こう。』挑むのは、拠点の関西空港から約200km離れた、豊かな自然が広がる京都北部の町・京丹後市とタッグを組むという、地域創生プロジェクトです。アフターコロナを見据えたLCCの、新たな戦略とは―。
プロジェクト始動、一方で厳しい反対意見も…

「ピーチ・アビエーション」ブランド戦略部長 小笹俊太郎さん
今回、地方創生のプロジェクトを担うのは小笹俊太郎さん。2022年8月時点で累計販売数2万5000個の、行先を選べない旅のおみくじ型カプセル、「旅くじ」を手掛けたヒットメーカーです。
「10年経って、我々の課題として、ただ安い運賃で動いてもらうだけで成立しなくなったところがあるので、単なる旅行じゃない新しい地方との関係の持ち方を模索していきたいなと思っています」(「ピーチ・アビエーション」ブランド戦略部長 小笹俊太郎さん)
そんな彼が選んだのが、京都府京丹後市。関空から大阪や神戸をはるかに通り過ぎた”地方創生”に取り組むのは前例のない挑戦です。

日本海でとれた新鮮なハタハタ
5月、現地を訪れた小笹さんが新たな魅力を深堀りするため、まず向かったのは鮮魚店でした。
「すごく新鮮ですね。これはハタハタ?」(小笹さん)
「ハタハタですね。一夜干し、煮つけ、から揚げにしてもおいしいですね。小さいものは」(店員)
京丹後市は冬のカニをはじめ、日本海でとれる海の幸が豊富です。

甘さが売りのタマネギ
野菜や果物の宝庫でもあり、タマネギは有機栽培でメロンのような甘さが売りです。おいしいごはんに、のどかな風景も広がりますが、京丹後市を訪れるのは93%が近畿圏からの観光客。「東京から最も遠い町」とも言われ、海外や遠方からの観光客の誘致が課題となっています。

京丹後市 政策企画課 檜秀憲さん
今回のプロジェクトについて、京丹後市の職員は、
「観光地としての知名度が高くない現状があるので、発信力のあるピーチと協業することで、京丹後の魅力を広く発信できるんじゃないかと。まずは市を知ってもらい、ファンを増やしていくことが重要だと思っています」(京丹後市 政策企画課 檜秀憲さん)

幹部からは厳しい意見も…
しかし、ピーチ幹部からは“関空からの遠さ”に当然、厳しい意見がでました。6月、大阪市内で行われた会議の場では、
「空港があまりにも遠すぎる。京丹後の方を前に申し訳ないけど、そこでやる意味・意義があるのか、いまいちわからない」(ピーチ幹部)
それに対し、現地に入ったメンバーは、
「もう1回行きたいと思えたのは、我々が一緒にやる上で大事なこと。それを形にできれば自然といいものができていくんだろうなと思います」(ピーチ 橋本理さん)
「チャレンジなんです」(ピーチ 航空事業企画室 福島志幸室長)
「市としてもチャレンジです。大変うれしく思っています」(京丹後市 檜さん)
「しょっぱなから失敗したくないんだよな(笑)」(ピーチ 福島室長)
“距離を越える価値”を生む「地元独自の魅力」

郷土料理の普及に取り組む上田照子さん(87)
距離を越える新たな魅力を探すため、ピーチが目を付けたのは、京丹後ならではの“食文化”です。京丹後市在住の上田照子さん(87)は、地元の食材を使った郷土料理の普及に取り組んできました。
「レシピ本をパッと見ただけでも、結構見たことがないメニューがあります」(ピーチ 小笹さん)
「京丹後の魚の食べ方は、骨まで食べるんですよ。無駄なくしっかりと」(京丹後市職員)
「焼いたものを炊いたりしてね」(上田照子さん)

“長寿の秘訣”のレシピ本
京丹後市は100歳以上のお年寄りの数が、全国平均の3倍以上いる長寿の街。厳しい自然の中で生まれた保存方法や調理法を活かし、自然の恵みをふんだんに使った食事が、長寿の秘訣だという調査結果があります。
「食文化の継承の意味でいうと、若い方も作って食べられていますか?」(小笹さん)
「作らないですね。だんだんと」(上田さん)
「旅行で来た人が食べる機会はありますか?」(小笹さん)
「ない。そういうところがないですね」(上田さん)

「ピーチ・アビエーション」森健明CEO
7月、ピーチの森健明CEOも、実際に京丹後市を訪れていました。当初は慎重な姿勢でしたが、あえて今挑む意味を探し、心が動き始めていたのです。
「我々は供給者の論理で、“空港が遠いから行かないだろう”と思うじゃないですか。でも、お客様からすると、実は距離が課題だとしても、そこに行きたいと思ったら、どんなことをしても行きますから。あまり供給側の論理でモノを考えない方がいいんだろうなと」(森健明CEO)
少子高齢化で、旅客の減少は避けられません。しかし、ピーチが意欲ある地元の人々と独自の魅力を磨いていけば、国内外から人をつなぐ架け橋になれるかもしれないのです。
「京丹後で、もしこの新しいビジネスモデルが成功すれば、このカタチでの展開をさらに他の自治体に展開することができる。そうすると日本国中にチャンスが出てくるんです。IoT、インターネットが物事をつなぐ、という言葉がありますが、僕はPoT(Peach of Things)なんです。ピーチが物事をつなぐ役割になる。圧倒的低コストで、何度も行ったり来たりすることで、地域をつなぐことができる。つないだ先でどうするのかは、その自治体や企業の努力が問われるんです」(森CEO)
コロナ禍を乗り切る…LCCの対策と進化

2019年11月、ピーチとバニラエアが経営統合
2012年3月、ピーチは低コストで低運賃、「空飛ぶ電車」をコンセプトに、就航しました。LCC元年のこの年、国内LCCが続々と誕生。インバウンドの需要も拡大し、各社が国際線を開設するなど大手との競争も激しくなる中、ピーチは2019年に同じANAホールディングス傘下のバニラエアと経営統合し、国内最大のLCCに躍り出ました。しかし、その矢先にコロナが直撃します。それでも国内線を11路線開設して機材の回転率を上げながら、ANAとの連携も強化。ピーチが、強い観光需要のある路線を受け持ち、経営資源の効率化を図ってきました。

「ジェットスター・ジャパン」片岡優社長
一方、「最低価格保証」を売りに、成田空港を拠点に就航したジェットスターは、機材6機を海外のグループ会社に移し、減便や一部の路線を廃止。徹底的なコスト改革でコロナ禍を乗り切ってきました。
「今まで無駄になっていた部分をもう一度見直してコストを下げることによって、アフターコロナで、より安い運賃をより多く提供できるようになった」(ジェットスター・ジャパン 片岡優社長)
ジェットスターもJALとの連携を強化し、グループで経営資源や顧客基盤を活かします。そんな中、今後のカギを握るのは「新機材」です。

ジェットスターの新機材「エアバスA321LR」
ジェットスターが7月に就航した「エアバスA321LR」。新型エンジンでCO2排出量20%減、座席数は従来の1.3倍あります。コロナで就航が遅れましたが、巻き返しを狙います。
「我々の中では“ゲームチェンジャー”と呼んでいます。コストにも環境にもやさしい機材になっている。今後、積極的に導入することで1席あたりのコストを下げられるんです」(片岡社長)
ピーチでも新機材が2021年末から就航しています。CO2排出量を減らし、座席数は1.2倍となる218席。座席の足元も広々していて、いずれは中距離国際線への導入を見据えています。コロナ禍でもその進化は止まりません。
京丹後市の活性化、キーワードは「長寿」 プロジェクトの行方は―

“長寿食”のレシピ動画を撮影
京丹後市のファンを作るため行きついたのは、おばあちゃんの作る“長寿食”。広く伝えていくために、レシピ動画を作ることにしました。調理をしてくれるのは、上田照子さんです。まずは「干し魚煮」を作る工程から、撮影を始めました。調理中に味見をした上田さん、「甘すぎる」と言ってボトルの醤油をつかみ、豪快にお鍋に投入します。
「目分量が一番」(上田さん)
「いつもご家庭ではそうなんですか?」(ピーチ 橋本理さん)
「そうなのですよ」(上田さん)
「ご家庭で作っていただいている感じで大丈夫です(笑)。普段、この魚は煮物以外でも食べますか?」(橋本さん)
「から揚げにするんです。から揚げが一番おいしい」(上田さん)
「一番おいしい?!干し魚煮を作るのに、そんなこと言ってしまって(笑)」(橋本さん)
「ははは、ごめんなさい(笑)」(上田さん)

レシピ動画はふるさと納税の返礼品に
パワフルなおばあちゃんが京丹後の魅力。「人」も「空気感」も、ありのままを大切につめこみます。
「この鯖缶は水煮でしたか?」(上田さん)
「水煮です」(小笹さん)
「あら~、本当は味付きで良かったに~」(上田さん)
「あははは(笑)」(一同)
完成したレシピ動画は、ふるさと納税の返礼品と一緒に届け、寄附額アップとともに返礼品を通して地域を知ってもらい、人を呼び込む作戦です。

年内発売の「長寿」がテーマの旅行商品
7月末、無事にプロジェクトの発表にこぎつけました。返礼品として、ピーチの航空券と市内の宿泊券のセットを用意するほか、『長寿』をテーマにした旅行商品を、年内をめどに発売します。高速バス大手の「ウィラー」とも連携し、関空から京丹後までバスや電車で移動が楽しくなるような仕掛けを作るといいます。
「京丹後は長寿の町だと聞いていますが、限りない可能性や未来があると感じています。ピーチの経験を活かし、京丹後市の交流人口の拡大、地域の活性化に貢献できると確信しています」(ピーチ・アビエーション 森健明CEO)

京丹後市の活性化、ピーチの挑戦は続く
「地方の課題の解決は、答えが見えているものではないので、挑戦しながらおもしろがって、課題をひっくり返すようなことができたらいいと思います」(小笹さん)
どんな時代でも、前例のないことに挑み続ける。次の10年を占うチャレンジは、始まったばかりです。
(「かんさい情報ネットten.」 2022年8月9日放送)
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