【南海トラフ】巨大地震がもたらす被害を「富岳」がシミュレーション

40年以内に約90%の確率で発生するとも言われる南海トラフ巨大地震。「震度7」の激しい揺れが予想されますが、実際にもたらされる被害はどれくらいのものなのか?その予測を、世界一の計算速度を誇るスーパーコンピューター「富岳」がシミュレーションしました。その結果明らかになった“想定外の被害”、そして今後の課題とは?
(かんさい情報ネットten. 2022年3月11日放送)

【特集】巨大地震がもたらす被害をスーパーコンピューター「富岳」がシミュレーション 軟弱地盤が揺れを増幅 新耐震基準でも倒壊の危険が… 正しい対応で被害がない世界に!

今後40年以内に90%の確率で来るという南海トラフ巨大地震

 今この瞬間にも訪れるかもしれない危機、それが南海トラフ巨大地震です。東日本大震災と同程度のM(マグニチュード)9クラスの大地震が、今後40年以内に90%程度の確率で起きると予想されています。この地震による激しい揺れは、どのような被害をもたらすのでしょうか?

巨大地震の被害をスーパーコンピューターでシミュレーション

スーパーコンピューター「富岳」

 いま日本ではその被害を予測する研究が進められています。その一つが世界一の計算速度を誇るスーパーコンピューター「富岳」によるシミュレーションです。研究に取り組むのは神戸大学 都市安全研究センターの大石哲教授です。

神戸大学 都市安全研究センター 大石哲教授

(神戸大学 都市安全研究センター 大石哲教授)
「“想定外”をなくすという計算を行う上では『富岳』はかなり強力で、世界で一番強いコンピューターだと思います」

震源から遠い神戸でシミュレーションその結果は…

今回シミュレーションを行った神戸市

 南海トラフ巨大地震が起きた場合その揺れは関西一円に及びます。今回は、想定されている震源域から比較的遠い「神戸市」の“揺れ”の被害を予測します。シミュレーションでは、地盤のデータだけでなく、市内の建物の建てられた“日付”や詳細な“構造”など、市が持つ「資産税台帳」のデータも活用して、「富岳」が市内の建物を一棟ごとに解析しました。ただし、地震の被害は震源の場所や深さによって変わってくるため、これは飽くまで数百パターンあるシミュレーションの一つです。

被害が想定される黒い点

(大石哲教授)
「神戸市全域で、地図上黒く表してあるところは、揺れている場所ですので、これを見ると、広い範囲で揺れます」

今回のシミュレーションでの揺れは神戸市内の広い範囲で震度5強から6弱程度になります。さらにある傾向も…

予想以上の被害になる軟弱地盤と建物の痛み

(大石哲教授)
「地震の波が比較的ゆっくりの波なので、それに共鳴する建物、例えばすごい高層のビルなどは、大きく揺れることになります」

長い周期の揺れが被害を増やす

 阪神淡路大震災のように直下型の短い周期の地震では揺れが小刻みになり、大きな建物は揺れにくいのですが、南海トラフ大地震の場合、揺れの周期が長い上に、神戸はやわらかい地盤が多く揺れが増幅されるため、ゆっくり大きな揺れとなって、ビルなど高い建物がしなるように揺れるといいます。

 このシミュレーションでは神戸市内全域のビルやマンションのうち269棟に被害が出る恐れがあるという結果が出ました。

シミュレーション結果以上の被害が出る建物の痛み

Q.被害を少しでも小さくするために何をすればいいのでしょう?

(大石哲教授)
「こんな風に“ひび”が入っていると嫌だなという印象です。ひびなどが入っていると、建物の強度がシミュレーションより弱くなっているので、被害が大きくなると思います」

 今回のシミュレーションでは建物にすでにある損傷は考慮していません。こうした損傷があるとわずかな揺れでも被害が出る恐れがあるため、補強工事が必要になります。さらに南海トラフ巨大地震ではやわらかい地盤で揺れが強く伝わる特徴があるため、建物が建っている土地の地盤を知ることが重要だと言います。

軟弱地盤による地面の凸凹

 (大石哲教授)
「この場所は、地面が凸凹していますよね、最初は平らに作ったと思うんですが、地盤がやわらかいところは沈んでいきます」

 同じ時期に建てられた同じ構造の建物でも、やわらかい地盤だと、かたい地盤より揺れがおよそ2倍も大きく伝わる場合があるといいます。そのため、震度6強から7程度で倒壊しないとされる1981年以降に建てられた“新耐震基準”の建物でも地盤がやわらかければ、全壊する危険性があることもわかりました。神戸市内全域で半壊から全壊の被害が出るとされた住宅は実に1万棟近くになるといいます。

地域の地盤を知って、正しい対応で被害をなくす

兵庫区 鵯越(ひよどり)地区

被害が想定される地域の一つ兵庫区の鵯越(ひよどり)地区では住民説明会が開かれました。

(大石哲教授)
「南海トラフ巨大地震は大きくゆっくり揺れるので、緩い地盤は影響を受けやすいんです…」

(住民)
「この地盤がどうかというのは調べられるのでしょうか?」

(大石哲教授)
「国土地理院がそういった情報を出していまして、鵯越地区より少し東側は、平均的にやわらかい地盤が入っています」

地域のリスクが分かったことで、住民の意識にも変化があったようです。

ひよどり地区防災福祉コミュニティ 森田拓委員長

(ひよどり地区防災福祉コミュニティ 森田拓委員長)
「揺れることについては変わりがないので、各家庭で揺れ以上の耐震対策をしなければいけません、家具の転倒などを考えて減災に努めていきたいです」

(大石哲教授)
「最新のシミュレーション結果をみなさんが見て、正しく理解して正しい行動を起こしてもらえるようにして、地震は起こるけれども、被害はない、特に命の被害はない世界にしていきたいと思います」


(「かんさい情報ネットten.」 2022年3月11日放送)

ホームページ上に掲載された番組に関わる全ての情報は放送日現在のものです。あらかじめご了承ください。

過去の放送内容