変わる“クマ前線” 関西で“空白地域”にクマ出没なぜ?冬眠の季節は?人とクマとの距離のとり方とは

全国的にクマの目撃・被害が相次ぐ2025年。まもなくクマが冬眠するとされる時期だが、関西では、これまで生息域とされていなかった“空白地域”での出没情報が多数。その原因を取材すると様々な異変が。人とクマの距離をどうとるべきか。今できる対策は。“クマ前線”をゲキ追しました。

【特集】“空白地域”にも出没…クマ増加の背景は?良いエサ場を持つ個体=冬眠入りが遅い可能性も 共生へのカギと対策

“空白地域”に出没…なぜ?

 全国的にクマの目撃・被害が相次ぐ2025年。関西では、これまで生息域とされていなかった“空白地域”での出没情報も多く、住民からは不安の声があがっています。そんな中、冬眠するとされる12月になっても活動を続けるクマも…。人とクマとの距離を、どう取るべきか?共生へのカギを取材しました。

“空白地域”で58件の目撃情報 新たな問題も

市内各地で目撃情報相次ぐ

 取材班が向かった京都・木津川市では、2025年5月、記録に残る2007年以降初めてクマが目撃されました。その後10月頃から増え始め、11月20日までに目撃や足跡発見の情報は58件。駅などに近い市街地を含め、市内各所に広がっています。

 住民たちからは「怖いのであまり外へ出ないようにしている」といった声が聞かれ、小・中学生たちは市が配布した『クマよけの鈴』をつけて登校していました。

センサーカメラで出没を録画

 さらに市は、11月からセンサーカメラの設置を始めました。クマの目撃情報が寄せられる地域に取り付け、出没が相次ぐ場合に捕獲用のオリを設置したい考えです。職員は毎朝、パトロールをかねてカメラの設置場所へ向かいます。カメラに反応があり、録画があった場合は、市役所に持ち帰って内容を確認します。この日映っていたのは、クマではなくシカでした。

『学習放獣』が基本だが…

 ただ、“空白地域”ならではの新たな問題もあります。クマを捕獲した際は本来『殺処分』ではなく、不快な刺激を与えて山奥に返す『学習放獣』が基本です。しかし、クマが生息していないはずの木津川市では、住民から放獣の理解を得るのが難しいといいます。市は京都府に対し、駆除を前提とした捕獲許可を求めていく方針です。

増えた原因は「保護がうまくいきすぎた」去年のクマが定着か

森林総合研究所・大西尚樹さん

 そもそも、なぜ2025年は“空白地域”での目撃が相次ぐのでしょうか。

(森林総合研究所・大西尚樹さん)
「2000年に入るあたりまでクマは全国的に数が少なく、特に関西地方・中国地方は個体群が孤立していて、数も少なくなっていました。そのため、有害駆除や狩猟の禁止もしくは自粛によって、個体群を保護したのが、うまくいきすぎたという状態です。数が増えて分布域が広がり、クマの“空白地帯”だった所に入ってきています」

今年は『ドングリの凶作』が原因ではない?

 一般的に、クマが人里に下りてくる大きな要因となるのは『ドングリの凶作』です。ただ、2025年の関西は事情が異なるといいます。大西さんは、「今までいなかった地域でクマが目撃されるようになったが、今年凶作だから来たわけではないと思う。去年、凶作だったので人里に下りてきて、そこに定着した可能性もある」といい、すでにクマが定着しつつある可能性があるというのです。

『ガバメントハンター』雇用に大きな効果 シカ対策にも

根本的な対策に挑む自治体も

 いわゆる“対症療法”だけでなく、根本的な対策に挑む自治体があります。兵庫・豊岡市では、有害鳥獣が出やすい山すその木を30~40メートル幅で切り進め、人とのすみ分けを図っていて、2025年度内の完成を目指すといいます。豊岡市農林水産課の西村文紀さんは、「獣も人が怖いので、隠れながらゆっくり出てくるという性質がある」と話していました。

『緊急銃猟』に向けた訓練の様子

 さらに豊岡市は11月21日、県内で初めて『緊急銃猟』に向けた訓練を行いました。“市街地にクマが出没し、公園の倉庫に居座っている”という想定で、「銃猟以外の方法では的確な捕獲が困難なこと」など4つの条件を満たすか判断し、狙撃するまでの手順を確認しました。

『ガバメントハンター』が最前線を担う

 訓練で最前線を担っていたのは、3人の『ガバメントハンター』です。ガバメントハンターとは、狩猟資格を持ち、クマなどの鳥獣対応にあたる自治体職員のことで、豊岡市では2014年から会計年度職員としてハンターの雇用を始めました。

豊岡市・有害鳥獣主任対策員 岡居宏顕さん

 そのうちの一人、神戸市出身の岡居宏顕さん(56)は、自然豊かな環境に惹かれて豊岡に移住し、市の職員として働いています。

(豊岡市・有害鳥獣主任対策員 岡居宏顕さん)
「生き物を観察することが好きで、ずっと観察しているうちに生き物のことに詳しくなって。そこで得た知識を、農林業被害などを抑えるために使えることに気がつきました」

痕跡をマップに記す

 この日は、町内会長から依頼を受け、住宅付近の柿の木の調査へ。野外で鳥獣対策に向けた調査を行うのが岡居さんの業務です。伐採業者と共にクマなどの痕跡がないか確認します。

(豊岡市・有害鳥獣主任対策員 岡居さん)
「思いっきりホテルの寮のところ。やばいね、このルートを絶対に断たないと…」

木の伐採が逆に危険を招くことも

 住民の安全確保のため、付近の4か所の木を伐採しました。そこには、あるポイントがあるといいます。

(豊岡市・有害鳥獣主任対策員 岡居さん)
「集落の外周の山際に柿の木があったとして、クマが来ているからといってその柿の木を切ってしまうと、クマは集落内部にある柿に行きます。だから、どういう動線・どういう目的で来ているかを完全に読んでからでないと、逆に危ないことになるんです」

ハンター雇用に効果

 豊岡市は、かつてシカによる食害に悩まされていました。ガバメントハンターを雇用する前はほとんど捕獲できなかったといいますが、導入後は年間の捕獲数が5000頭以上に。雇用の効果を感じていました。

 豊岡市農林水産課の西村さんは、「知識のある方、地域で調査に携わっていただいている方を育てて、地域の有害鳥獣被害対策を進めたいと考えている」としています。クマ対策の切り札として、市は来年度予算を増やし、ハンターの増員を視野に体制を強化する方針です。

専門家と地元住民が『集落環境点検』 気をつけるべきは?

『集落環境点検』に同行

 相次ぐ目撃情報に、住民たちも自ら対策しようと動き始めています。取材班が同行したのは、京都市が2025年度から始めた『集落環境点検』です。専門家と地元住民が一緒に街を歩き、クマの出没対策の現状や課題を確認する取り組みです。

(参加者)
「干し柿をいっぱいしているのですが、あれはいけませんか?」

(野生動物保護管理事務所・菅野慎主任研究員)
「はっきり言ってしまうと、ダメなんです。よく干し柿以外にも玉ねぎなど乾燥で干している方がいますけど、屋外に置いておくと動物のエサになってしまうので、あれも実はダメです」

気をつけること①ゴミの捨て方

 我々の生活に忍び寄るクマ。どのようなことに気をつければ良いのでしょうか。

 その①は『ゴミの捨て方』です。菅野主任研究員によると、カラスよけとしては十分な金属製フレームのゴミ捨てネットも、クマよけには不十分だといいます。例えば生ゴミのにおいがしていたら、クマはフレームを壊してメッシュの布も破って食べてしまうため、ゴミ自体が誘引物になります。

気をつけること②灯油の保管

 その②は『灯油の保管』です。クマは揮発性の物質のにおいを好むため、寒い冬を支える灯油のほか、ガソリンやペンキなどの扱いにも注意が必要です。菅野主任研究員によると、屋外に置かれた缶に微量でも残っていたらにおいがするため、屋内にしまうのが原則的に正しいということです。

人為的に冬眠状態に誘導 動物園の取り組み

東京・上野動物園のクマ

 そして、これからの季節に気になるのは、クマの冬眠についてです。ニホンツキノワグマ2頭が飼育されている東京・上野動物園では、約20年前から“ある取り組み”を行っています。秋に向けてエサの量を調整し、冬眠に耐えられる体づくりを行った後、専用の部屋で人為的に冬眠状態に誘導します。今は14歳のメスが冬眠準備中です。

冬眠前、エサの量は普段の倍

 上野動物園・鈴木仁課長によると、クマが食べるエサの量は普段4キロですが、冬眠前は一番多い時で倍の8キロになるそうで、エサは小松菜やさつまいも・フルーツなど植物性のものが中心ですが、クマは基本的に雑食で、煮干しなど動物性のものも食べるということです。

冬眠中のクマの様子を展示

 また、冬眠中のクマの様子をリアルタイムで展示し、来場者が確認できるようにしていますが、展示を通して伝えたいことがあるといいます。

(上野動物園・鈴木課長)
「動物たちが、どういう暮らしをしているか、本来どういう生態を持っているかを見ていただくことによって、親近感も湧きますし、理解も深まると思いますので、多少は恐れみたいなものが和らぐかなとも思います」

いつ冬眠?共生へのカギ

人里に出ている個体=冬眠が遅い?

 12月に入り、朝晩の冷え込みも強まりますが、安心できる日は近いのでしょうか。森林総合研究所・大西さんは、「人里に出ている個体は、良いエサ場を押さえているので、なかなか冬眠しないと考えられる」と話しています。

 クマは本来、エサが少ない冬を乗り切るために冬眠するとされますが、専門家は「冬眠の開始が遅くなるのではないか」と指摘します。その冬眠のタイミングは、どのように決まるのでしょうか。

(森林総合研究所・大西さん)
「それは個体によって違います。私たちは眠気に左右されて、自分の意思でベッドに行くじゃないですか。でもクマに関しては、自分の意思というよりもホルモンバランスで冬眠に入っていく感じなので、人里に出ている個体については12月下旬まで活動している可能性があると思います。もしかしたら年越し1月まで出ているかもしれません」

未然に防止=『共生』へのカギ

 しばらくは、引き続き注意が必要です。そして、クマはこれから冬眠に入り、春にはまた活動が始まります。その習性を正しく理解して生活圏に寄せ付けない、長期的な目線で未然に防ぐことが『共生』へのカギとなります。

(「かんさい情報ネットten.」2025年11月27日放送)

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