【ytvSDGs×地球研】
地球環境のエキスパートが贈る
「未来への提言」第三弾

緊急提言、地球環境を守るため「分断」を回避せよ!
国連気候変動枠組条約第27回締約国会議(COP27)が会期を延長し、11月20日に閉幕しました。「先進国vs.新興・途上国」の決裂をギリギリで回避した、主要課題は「損失と被害」。「気候変動による被害を補償せよ!」と迫った新興・途上国に対し、先進国は基金の創設に合意しましたが、具体策は来年のCOP28に持ち越されました。いま若者たちのイライラは、世界各国で「エコテロリズム」と呼ばれる過激な行動を引き起こしています。環境問題には国家間対立に加え、「世代間ギャップ」が深刻化しています。気候変動にブレーキをかけるため、「分断」を乗り越えなければならない、地球研(ちきゅうけん)からの「緊急提言」です。
(サステナビリティ部 山川友基)

谷口真人 副所長(総合地球環境学研究所)の提言
『「知識集約型社会」の創造-地域の価値と未来社会のデザイン-』

総合地球環境研究所・副所長の谷口真人です。知識集約型社会の創造、地域の価値と未来社会のデザインということでお話したいと思います。

私たちが今どの様な社会に生きているかという背景と認識ですが、一万年前ぐらいから始まったと言われている完新世という時代は比較的、暖かい時代で、定住化が進み、農耕文明が発達した時期です。その後、産業革命を迎え、工業化が進み、化石燃料をたくさん使うことで工業と経済が発展しましたが、一方で温暖化という問題が進んできました。また「緑の革命」では、化学肥料を人工的に作るようになり、食糧の増産ができましたが、一方で、汚染の拡大や水資源の枯渇が広がりました。さらに都市化が現在も進行していますが、都市化が進むと「都市の外」の外部環境により強く依存する社会になります。さらに、グローバル化、情報化が進んで均質な価値観が広く世界に広がっていくと同時に、定量化社会の中で格差が広がっているのが現状です。地球環境には色々な要素がありますが、限界をすでに超えているようなものもあります。境界を超えることがさらに連鎖的につながっていく。そういう危機を今抱えていると思います。

その中で私たちが考えるべきことは、人類がどのように「持続可能な社会」を構築できるかということです。その先にあるのは、「私たちはどう生きていけば良いのか、人はどのように生きるべきか」という課題があると思います。地球環境という「自然」と持続可能な社会という「社会」ですね。それから人はどのように生きるべきかという「人」の問題があり、自然と社会と人はつながっていると認識です。これがSDGsの色々な項目ともつながっています。タイトルである「地域の価値と未来社会のデザイン」では、多様な地域の価値に基づいた未来社会をどうデザインしていけばよいのか。

そういう話をする時に、持続可能な社会のための「新しい関係性概念」について話をしたいと思います。私たちが生きて行く上で必要な水、エネルギー、食料、労働など色々な資源がありますが、一方で社会活動のプロセス、生産、流通、分配、消費、廃棄プロセスもあり、色々なステークホルダー(利害関係)があります。これらにはそれぞれ関係性があります。お互いの「トレードオフ」、つまり片方をとると片方がダメになるという関係や、「シナジー」のように両方がウィンウィンになる関係もありますが、その関係性を理解した上で、自然の中の物理的なつながりに加えて、人間社会の中での社会・経済的な貿易のようなつながりであったり、環境的なつながり、フットプリント(footprint)という言葉もありますが、カーボン、ウォーター・フットプリント、窒素フットプリント、色々な環境的なつながりがあります。これらの関係性を含んだ新しい概念を「ネクサス概念」といいます。このネクサス概念を用いることで、地域と地球の制度設計と社会デザインの実装を行うという考え方になります。

この図で関西地域を見ていただくと赤い部分と青い部分、それから黄緑、オレンジなど色々なものが入っています。「赤い地域」は水資源もエネルギー資源もたくさん使って、経済が成り立っているところです。太平洋ベルト地帯の瀬戸内海の都道府県は、重工業中心に水もエネルギーもたくさん使って経済が成り立っている県として赤い地域に分類されます。一方で、「青の地域」は、あまり水資源、エネルギー資源、労働資源を使わずに経済が成り立っているところです。資源をそれほど使わなくても経済が成り立っているわけです。観光もその一つです。特徴の違いに応じて、例えばカーボンニュートラルに向けてどうするのか、分類することで、それぞれの類型の対策ができると同時に、「赤い地域」で良い取り組み、先進的な取り組みができると、赤いグループの中で横展開ができていく可能性があります。ただ、地球環境問題の場合はそれぞれの地域で自然も社会も複雑で多様な構造をしていますので、社会実装していく時には技術のように簡単ではありません。それぞれの地域の構造に応じた対応が必要です。その地域の中で色々なステークホルダーがいますので、時には衝突やトレードオフが出てきます。それをどうやって価値を共有していくか、そのためのコミュニケーションが必要です。このコミュニケーションですが、色々な社会課題、地球環境も含めた課題がありますが、その地球環境を含めた色々な課題、リスクを乗り越えるためには、自分自身と他者、それから社会の間でリスクを共有し、相互理解するコミュニケーションが必要になります。地球温暖化の場合も適応策という温暖化に対してどう対応するかという問題と、温暖化を減らすために緩和策というカーボンをどう減らしていこうかという考えがありますが、適応策の方は直感的に考えられますが、緩和策は数値を使って頭で考えなければなりません。直感と感情と論理的な考えをつなげないといけません。もう少し広げていくと、利己的な考え方と、利他的な考え方を人間はもっていますが、そこをどうやってつなげていくかということになります。こういうリスクコミュニケーションを含めたコミュニケーション方法の開発が必要で、人の生き方と価値、行動と社会変容を地球環境につなげていくというアプローチをとっています。

地域の価値をどのように未来の社会にデザインしていくかということで、これまでの土地集約型、労働集約型、資源集約型の社会から、どうやって「知識集約型社会」に変えていくかということです。現状として、人と社会と自然が実際にはつながっているが、それを分断する要素がたくさんあります。

これは「空間の分断」ですが、陸と海という自然界の境界があります。アメリカとメキシコの国境といった、人間が作った分断もあります。裕福な人が住んでいる場所とそうではない人が住んでいる、そういう空間的な分断が非常にはっきりと見えます。それから「時間的な分断」もあります。東日本大震災の前と後の岩手県大槌町の写真ですが、時間的な分断と人の分断というものも進んでいます。地球温暖化に対してどういう価値を持っているかということでは、5年間の変化ですが、温暖化への「懐疑派」が二割ぐらいはいます。一方で、温暖化を警戒する人は徐々に増えています。人の分断、時間の分断、空間の分断を見ながら、それをどうやってつなげていくかということで、その一つに私たちが持っている価値観の中の「恩恵と被害」の関係性があります。例えば、水の恩恵と水の被害ということでいうと、生きていく上で水が必要ですので、水の近くに住み、産業を近いところに作ります。その一方で、水に近づきすぎると洪水や津波など災害による大きな被害を受けます。 その恩恵と被害の相克が生きていく中でありますが、その境界をどこに定めるかは私たちが決めることができます。

それは地域の文化や価値と大きくつながっています。被害と恩恵の境界の新たな設定は地球環境問題と人の生き方を再考することになります。現在、自然災害は非常に増えています。気象災害、水害、そして地震のような災害もありますが、気象災害が大変増えていますが、標高一メートルのウォーターフロントに住む人口は増え続けています。アジアでは過去20年間で30%も増えています。私たちは水に対する恩恵を受けたいという要求とともに、そのために被害が増えてしまうという、「被害と恩恵」の関係をどう考えるのかという問題があります。
もう一つは、「均質性と多様性」という考え方です。水に関していうと、ボトル水や工業水は一定の水質基準であり、基準を整えないと使えないので。均質な水資源を要求されます。これがないと私たちは生きていけないし、産業も成り立たない。一方で多様な水や多様な環境がないと、人間だけではなく生き物もそうですし、また多様な環境は物理的、化学的なものだけではなく、生物多様性につながります。それが社会でいうと、私たちの言語の多様性につながります。それが食の多様性、文化の多様性につながります。均質性を求めながら、多様性をどれぐらい担保できるかがもう一つの課題だと思います。均質化されたものは、経済価値、効率性、利便性に基づいて、多量に生産・消費されます。一方で、自然や社会が持つ多様な環境をどうバランスをつけていくか。これが重要な問題だと思います。

多様性のつながりで言うと、地球が持続的に循環する多様な大気や水に加えて、それが生命、種の結果として、生物多様性が生まれ、人類史の結果として、文化の多様性ができています。それに基づいて私たち人のアイデンティティができています。地域の価値と未来社会の創造のために。 知識集約型社会をどう作っていくかを考えたときに、人社会、自然、田舎の中にある均質性と多様性を踏まえて、これまでのような経済と環境の二項対立ではなく、自然環境と人間社会の連関がどうなっているか、知識集約型社会の創造が必要だと思います。
地球ができて46億年、生命が生まれて38億年経ち、長い歴史の中で私たちは生活を営んでいますが、SDGsウェディングケーキの一番下の階層が水、大気という地球が生まれてからずっと循環しているもの、さらに陸の生体、海の生体というものが。 生命が誕生してから続いている生命史の結果、私たちの今の地域あるわけです。その上に人が誕生し、社会経済活動を成り立たせている。こういう構造を理解することが、地域の価値と社会未来の創造のために必要だと思います。

冒頭で地球環境の限界と連鎖による危機があり、それを乗り越えるためには、人類はどのように持続可能な社会を構築できるのか。その先に人はどう生きるべきかという話をしましたが、色々な課題があります。自然に関する地球環境、 温暖化の問題、そして水の問題、生物多様性の問題、窒素の問題もあります。その中心には社会をどのように持続可能にしていくのか、健康の問題もありますし、都市の問題もあります。それを考える時にどのようにつなげて考えていくかということで、それぞれの学問分野は「知の進化」ということで専門分野を進めています。ただ、それだけをやっていると、縦割りのタコツボ化しますので、知の探索といわれている広く多様な知識も必要ですし、それを融合していく統合的な考えも必要です。色々な知見もありますので、科学知識だけではない知見も踏まえながら、この知識集約型の社会を作っていくのだと思いますが、そのプラットフォームとして地球研としても活動していきたいと思っています。

プロフィール

谷口 真人(たにぐち まこと)
筑波大学大学院博士課程地球科学研究科修了、理学博士。
オーストラリアCSIRO水資源課研究員、奈良教育大学教育学部天文・地球物理学講座助手・助教授・教授。
その間、アリゾナ大学水文・水資源学科客員研究員、フロリダ州立大学海洋学科客員助教授。
その後、総合地球環境学研究所助教授・教授を経て、現在、総合地球環境学研究所副所長。
日本地下水学会学会賞、日本水文科学会学術賞を受賞。
現在、日本学術会議連携会員、JpGU大気水圏科学プレジデント、Future Earth Nexus KAN運営委員。


総合地球環境学研究所(Research Institute for Humanity and Nature)とは……

「地球研(ちきゅうけん)」。2001年に地球環境学の総合的研究を推進する研究所として設立され、2004年に大学共同利用機関・人間文化研究機構の一員になった。モットーは「地球環境問題の根源は、人間の文化の問題」。自然科学的なデータ基盤を前提にしつつ、人文・社会科学的な視野を幅広く取り入れた研究を実施することで、国際的評価が高い。

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京都気候変動適応センター(Kyoto Climate Change Adaptation Center)とは……

2021年、京都府、京都市及び総合地球環境学研究所が、地域の自然と社会の状況に応じた気候変動適応の推進に資するため、地球研に設置した。京都という⻑い⽂化・歴史をもった地域から社会と⽂化のあり⽅を考え、気候変動問題を探っていくことをミッションとする。

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