【ytvSDGs × 国循】
循環器病のエキスパートが贈る「健康への提言」vol.1

「自分の命は自分で守れる」、大津理事長が語る、その「秘策」
日本最先端の高度専門医療研究センターである国立循環器病研究センター(大阪府吹田市)。
記者をしていた私にとって「国循(こくじゅん)」は、国内有数の心臓移植の最前線というイメージがあります。今年、開設から45年となった国循(こくじゅん)とytvは、大津欣也理事長を迎え、医療セミナーを開催しました。テーマは、「心臓病の予防と最新治療」。
新型コロナ感染拡大「第8波」への警戒が強まっていますが、知られざるパンデミック「心不全」の急増という現実が今、私たちの社会に忍び寄っています。「自分の命は自分で守れる」、大津理事長が語る、その「秘策」とは。
(サステナビリティ部長 山川友基)

vol.1 心不全パンデミック…、私たちの体に潜むリスクを知る

国立循環器病研究センター・理事長の大津欣也(おおつ・きんや)です。今日は「心臓病の予防と最新治療」というテーマでお話しします。

このグラフは死亡率、わが国における死亡率の推移を表しています。今第一位は悪性新生物「癌(がん)」です。第二位が心疾患第、第三位が肺炎、第四位が脳血管疾患です。すなわち脳血管疾患を含む循環器疾患は日本人の死因の第二位です。二つを加えるとおよそ1/4の方が循環器疾患でなくなるということになります。

80歳以上の高齢者では循環器疾患が死亡死因の第一位を占めています。近年、健康寿命が、非常に注目されています。健康寿命というのは誰の助けもなく健やかに過ごせることですので、平均寿命と健康寿命の差というのが、「生きるために何らかの助けがいる」という時期になります。その差が短ければ短いほど元気で、死ぬまで元気でいることになります。しかし、上が男性、下が女性のグラフですが、男性ではおよそ9年、女性では12年ぐらいの差があります。つまりこの期間は誰かの助けがないと暮らせないということ。その差の要因が「要介護」になりますが、要介護が必要な疾患の内訳がこの円グラフです。脳血管疾患を含む循環器病は約1/5の要介護の主要な原因となります。従いまして循環器病の克服というのは国民健康に置いて非常に大事な意義を持つわけです。

循環器病疾患はたくさんありますが、心臓の病気で健康寿命と平均寿命の差を説明するために「心不全」についてお話しします。心不全とは何かといいますと、心臓というのはポンプでして、常に血液を全身に運んでいます。そのポンプ機能が低下して、末梢に充分な血液が行かない状態、それが心不全です。また心不全の特徴としてはだんだん悪くなって、生命を縮めるという病気で、原因はすべての循環器病疾患が心不全を引き起こしています。例えば高血圧、虚血性心疾患、これは心筋梗塞になります。心筋炎、これコロナで有名になりましたが、心臓に炎症が起こる病気です。それから先天性心疾患、それから弁膜が悪くなる弁膜症。このような病気すべての終末像が心不全です。そうすると心臓から出る血液が少なくなって症状が出てくるわけです。内訳ですが、一番多いのは虚血性の心疾患です。心筋梗塞ですね。二番目が心臓弁膜症。三番目が高血圧。それが心不全の原因となります。心不全は循環器疾患が年齢と共に増加すると同様に、心不全も年齢とともにその有病率は増加します。80歳以上でありますと、十人に一人は心不全患者です。

今全世界で「心不全パンデミック」ということが言われています。すなわち心不全の患者が非常な勢いでこれから増えていくことが予想されています。それはなぜかと言うと逆説的ですけれども、例えば心筋梗塞というのは、昔はかなりの患者が亡くなっていました。今は患者が長く生きることによって心不全になります。日本では心不全患者は毎年1万人ずつ増えていきます。日本でも「心不全パンデミック」が予想されています。それは高齢者社会と急性の心臓の病気循環器病が助かるようになったことが要因です。心不全で亡くなる方が少なければ、まだよいのですが、これは心不全と癌の予後を比べたグラフです。ガンと心不全の生存率はほとんど同じです。心不全はガンと同じくらい命を奪う病気であるということです。

心臓というのはみなさんご存知のように四つの部屋からできています。右心房、右心室、それから左心房、左心室です。静脈から帰ってきた血液は、右心房から右心室に行き肺動脈を通って肺へいきます。肺で酸素化された血液は肺静脈を通って左心房、そして左心室、そして大動脈を通って全身に運ばれます。そしてその部屋の間には弁膜があります。これは何のためにあるかというと、血液を一方通行にするためです。左心房と左心室の間には僧帽弁、それから左心室と大動脈の間には大動脈弁、右心室と右心房の間には三尖弁、右心室と肺動脈の間には肺動脈弁ということになります。心不全の症状というのはポンプ機能の低下ですので、まずポンプの流量が少ない症状が現れます。これは前方不全と呼ばれています。もう一つはポンプが先に血液を駆使することができないので後ろに血液がたまります。それが後方不全と言われます。これを考えると今、右心室と左心室を便宜上分かりやすく分けていますが、左心室が悪いと前方不全つまり末梢に血液が行けなくなりますので、腎臓に行かなくなると尿量の減少。頭に行かなくなるとめまい、立ちくらみ、あるいは末梢にいかなくなると、四肢の冷感が起こります。後方不全、左心室の方でございますけれども、肺に血液がたまりますから呼吸困難。特に座っているときは 呼吸困難は起こらないですが、寝たら起こる、これ起座呼吸と言いますが、これが心不全に非常に特徴的な呼吸困難です。右心室のほうですが、右心室の後方不全、後ろに血液が貯まりますと、浮腫それから頚静脈、怒張したり肝臓が腫大したりすると食欲不全、食欲低下、それから腹水がたまったり体重が増加したりします。心不全というのは、病気が起こって段々に悪化すると言いました。

ここが心筋梗塞になったところですが、この部分が弱いので非常に引っ張られます。この心臓内腔が大きくなる。それによってホルモンが出て正常であった心筋にも影響を与えてその機能を落としています。そういうことによって心臓は段々機能が低下しているわけです。高血圧になると、その圧に対抗しようとして、心臓が肥大します。いわゆる心肥大と呼ばれる病気ですが、心臓の細胞が肥大するだけだったらいいのですが、それとともに繊維も増えます。そうすると心臓の機能が落ち、機能からすると心臓に圧力がかかって、だんだん心臓を拡大して心不全になります。ポイントは何らかの循環器疾患があると、だんだん心臓が大きくなって機能が落ちること。つまり心不全の状態になるということです。それを病気の進展ということでステージに分けています。ステージAからDです。まずステージA、これは心臓病になりやすい方です。いわゆる高リスク群と言われます。高血圧とか糖尿病、肥満、動脈硬化あるいは家族歴がある方、あるいはメタボリックシンドロームと言われる方です。今メタボ検診と言われるのはこのメタボリックシンドロームを検出しようとしているわけです。その状態が長く続くと心臓の病気がおこります。心筋梗塞、心肥大、あるいは弁膜症でも症状がない弁膜症。いわゆる無症候だけれど、心臓に病気がある状態になります。それが長く続くと次は心不全が進行して有症候群のステージCになります。そうすると息切れ、疲労感、それから運動がなかなかできなくなるということが起こります。これがまたどんどん続いていくと治療抵抗群となって入院を何回も繰り返して、また最後には亡くなってしまうということになるわけです。これが今A、B、C、D、と申し上げました。

縦軸が身体機能です。どれだけ皆さんの体が動けるかということですが、ステージAはほとんど変わりません。Bも変わりませんが、一旦心不全が発症するCになりますと、それが悪化し、最後には亡くなってしまいます。これを見ると「心不全は4回予防できる」ことが分かります。まず、不適切な生活習慣です。運動不足とか食べ過ぎ、喫煙、塩分の取り過ぎ、このような生活習慣の乱れからいわゆるステージA高血圧、糖尿病、高脂血症になる。そこが1回。それから生活習慣病と言われる状態から心臓病、心筋梗塞や心肥大あるいは無症候性の弁膜症になる、これが2回目。次はいったんそういう病気が起こっても心不全を発症しないつまり症状が起こらないようにする3回。それからそういう状態になっても、難治性の心不全にならないようにする4回目ということです。今の医学では、心臓病が一旦発症するとそれを完全に治すことがなかなかできません。心臓の細胞が再生しないからです。最も大事なのは、不健全な生活をしない、そこから生活習慣病に移ることを予防することです。がんは予防できませんけれども、循環器病は予防できます。特に4回もチャンスがあり最初の2回は、1回目は生活習慣をただしていただくこと、2回目は適切に治療を受けていただくこと、高血圧、糖尿病など検診で引っかかったら必ず治療する、そうすれば予防できる病気なのです。

Vol.2 持続可能な健康へ・・・食生活と体の関係を徹底分析

循環器病チャリティーゴルフとは

『循環器病チャリティーゴルフ』は、心筋梗塞や脳卒中などの循環器病を征圧する一助になればと、1988年に 読売テレビ・読売新聞社・報知新聞社の3社がスタートさせた社会貢献事業で、今年35回目を迎えます。この医療セミナーは、2022年10月3日(月)に読売テレビ本社にて開催されました

大津 欣也(国立循環器病研究センター理事長)

<経歴>
1983年(昭和58年) 大阪大学医学部卒業
1983年(昭和58年) 大阪大学医学部附属病院研修医(第一内科)
1984年(昭和59年) 米国国立保健衛生研究所国立老化研究所研究員
1988年(昭和63年) トロント大学バンティングベスト医学研究部研究員
1991年(平成3年) ニース大学生化学センター客員研究員
1992年(平成4年) 大阪大学医学部附属病院医員(第一内科)
1997年(平成9年) 大阪大学医学部助手 (第一内科)
2002年(平成14年) 大阪大学大学院医学系研究科講師(兼任)
2005年(平成17年) 大阪大学大学院医学系研究科助教授(循環器内科)
2008年(平成20年) 大阪大学医学部附属病院科長(循環器内科)(~H22.3)
2012年(平成24年) 英国キングスカレッジロンドン循環器科教授
英国心臓財団教授(BHF Chair of Cardiology)(兼任)
2014年(平成26年) 大阪大学未来戦略機構招へい教授(兼任)
2018年(平成30年) 大阪大学重症心不全内科治療学寄附講座特任教授(兼任)
2021年(令和3年) 国立研究開発法人 国立循環器病研究センター 理事長

国立研究開発法人 国立循環器病研究センター

循環器病研究振興財団