ウクライナ侵攻から2年 
人道危機の最前線で活動するNPOスタッフの現地リポート①
いま私たちに必要とされていることとは・・

ヤマカワ目線
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻から2月24日で2年となります。現地で難民、避難民の救援活動を続けているAAR Japan「難民を助ける会」の報告会にファシリテーターとして参加しました。ニュースの中、首都の呼び名が聞き慣れていたロシア語の「キエフ」からウクライナ語の「キーウ」に変わった違和感が時の流れとともに薄れてしまう中で、最前線の現場から発せられた「声」は、今も過酷な現実の中で、懸命に生き抜こうとする大勢の人々がいることをあらためて気づかせるものでした。2024年2月3日(土)に開催された報告会をダイジェストでお伝えします。
(サステナビリティ部長 山川友基)

AAR東京事務局兼関西担当の中坪央暁(なかつぼ・ひろあき)です。ウクライナ人道危機2年ということで、私たち職員から報告します。私どもは2022年2月24日にロシア軍の軍事侵攻が始まった直後から、私が隣国ポーランドに第一陣として飛び、支援活動を開始しました。全体像をニュースベースでおさらいすると、ロシア軍とウクライナ軍の死傷者は50万人をこえるといわれています。侵略を受けているウクライナの民間人の死者は、数百人の子どもを含めて1万人以上が犠牲になっているといわれています。

また、人道危機の観点でいうと、周辺国、EUなどの周辺国に逃れた難民の人たちが800万人。国内の比較的安全な所に止まっている、いわゆる国内避難民と呼ばれる人たちが600万人いるといわれています。日本国内にも避難してこられた方々が現在およそ2100人(今年1月)おられます。ウクライナの首都キーウと、隣国のモルドバの首都のキシナウに現地事務所を置いて、難民支援、国内避難民支援を続けています。

2023年11月、南部の港湾都市・オデーサに行ってきました。黒海の真珠ともいわれる大変美しい街です。世界遺産の街でもあります。ミサイル攻撃の直撃を受けたオデーサの大聖堂です。この世界遺産の歴史地区にも攻撃が加えられていて、このように大聖堂が大破していました。ドームの真ん中の聖堂のど真ん中に、ミサイルが落下しました。私が会ったおばあさんたちは、「ここは本当に私たち市民の心のよりどころである。建設された時、私たちはみんなでお金を持ち寄ってこの大聖堂を建てた。それをロシアが壊してしまうなんてとんでもないことだ」と口々に訴えていました。

このウクライナ人道危機ですが、キーワードの一つは、難民の9割は女性と子どもたちということです。すでにニュースで皆さんご承知と思いますが、ウクライナ当局はロシアとの戦争を戦い抜くために、18歳から60歳までの成人男性は原則、国内にとどまり、海外に出てはいけないということで、難民の大半はこのように女性と子ども、とりわけ若い女性と若い母親と幼い子どもが大部分を占めております。この家族は私が昨年11月、まだ戦闘が続いている南部のニコライウというところで会った家族ですが、30歳すぎのお母さんが4人の子どもたちを連れて、安全な所に避難していました。

昨年来、私たちが始めている新しい事業に、南部の国内避難民支援というものがあります。ヘルソン州という今も激戦が続いている黒海に突き出たクリミア半島ですが、今はロシアに占領されています。その付け根にあるヘルソン州で激戦が続いていて、このヘルソン州やミコライウ州から逃れて来た、あるいはそこにとどまっている国内避難民の人たちへの支援を現地のNGOと協力して実施しています。先ほどご覧いただいたこの人たちが、ロシア軍の占領下から逃れてきた人たちです。

左側の黄色いセーターを着た女性ですが、この方は自宅に突然、ミサイルが落ちてきて自宅が全焼し、14歳の娘さんが大やけどを負って、今もリハビリ中であると話をしていました。この戦争はいつ終わるのかというのは、もう誰にも分かりません。プーチン大統領は軍事侵攻を強めるということを宣言しています。また、ウクライナ政府側はあくまで領土奪還まで戦い続ける、という声が今も多く聞かれますが、他方で早期停戦を望む声も多く出てきています。ただいずれにしてもこの戦争はまだまだ長く続くであろうと思われます。

領土奪還の声である世論がまだ大半を占めるとはいいながら、私がボロディアンカで会った、ある中年の女性はこんなことを話していました。「私には2人の息子がいたけれども、一人は今から三年前に、東部戦線で戦死してしまった。もう一人の息子も今兵士としてロシア軍と戦って。愛する息子2人とも失ったら、私はもう生きてはいけません。この戦争はいったい、いつ終わるのでしょうか?」、という問いかけが私に投げかけられました。しかしそれは一年前のことですので、その後、その息子さんがどうなっているかはわかりません。徹底抗戦という勇ましい声がある一方で、こうした母親の気持ち、市民の気持ちもまた偽らざる本音であろうと思っております。

 

ウクライナ国内事業を担当しています、東マリ子(ひがし・まりこ)と申します。2020年3月からウクライナ西部中部の4州とキーウ市で国内避難民と障害者への支援を実施してきました。先ほどの動画にもありましたが、国内の避難民が身を寄せた修道院の写真です。国内避難民の生活に関わる食費や光熱費と子どもが多いので、子どもたちが学んだり、遊ぶための環境を整備したり、遠足などのイベントにかかる費用をサポートしました。

これは高齢者施設に設置したスロープです。高齢者の中には障害者も非常に多くて、こちらの施設には車椅子利用者がたくさん住んでいます。傾斜がきつくて凸凹のスロープしかありませんでしたが、スロープを設置したことによって、車いす利用者を含め、誰もが行き来できるようになりました。二つの病院において、バリアフリーのバスルームを備えた病室を合計3室整備して、車椅子でもシャワーやトイレが利用できるような部屋になり、障害のある方でも安心して入院治療が受けられるようになりました。また、障害者施設や高齢者施設に対して電化製品や家具などを供与しました。こちらの写真はリネン乾燥機ですが、これ以外に大型の冷蔵庫や冷凍庫、業務用の調理釜、パン焼き器、食洗機などです。

様々なものを用意して、この施設では、もともと100人から150人以上の障害者が暮らしている中で、さらに国内避難民、数十人を受け入れているので、施設に非常に大きな負担がかかっていました。そういう中で、新たな資機材を提供することによって、職員の方の負担を軽減することができました。こちらは介護用の入浴機器です。寝たきりの方を入浴させるための風呂です。移動式になっていて、リフトで寝たきりの方を運びます。140キロまで対応可能で、導入する前は職員の方が2人がかりで、一人が椅子に座らせて体を押さえて、もう一人はふくような形で非常に負担が大きくて、重労働だったのですが、こちらの機器を導入することで、効率がアップして負担を軽減することができました。

先ほどの説明にもありましたが、ロシア軍によるインフラ施設への攻撃によって、ウクライナ全土で停電が頻発しました。日によっては4時間程度しか燃料が使えないということもありまして、そういった中で障害者施設や障害者団体に発電機を供与して、知的障害者の団体の活動施設にはソーラーパネルを設置しました。障害者の中には、知的障害者や精神障害者、特に支援が届きにくい人たちがいますが、こういった方々が健康な暮らしを送るためには、医師によるカウンセリングが欠かせません。ウクライナでは、医師やソーシャルワーカーが十分な報酬を得られていないという問題があり、こうした医師やソーシャルワーカーの料もカバーすることによって、カウンセリングを実現することができまして、非常に職員の方々からも感謝された事業です。

こちらはレスパイトケアというものですが、レスパイトというのはひと休みという意味で、これは障害者を介護する介護者の方が、普段全く体を休める時間がなくて、そういった中でも自身の心と身体を労わるために、一時的に障害者と離れて、少し休んでいただこうという趣旨のプログラムになっています。こちらの団体の活動ですと、知的障害者が8人一グループで10日間の共同生活を送り、その間に介護者の方に休んでいただきます。知的障害者の方々は、精神保健福祉士や、ソーシャルワーカーのサポートを受けながら、共同生活をして、その中で生活能力や社会性を少しずつ身につけていきます。

高齢者や車椅子利用者にとって紙おむつは欠かせない必需品ですが、今回の戦争では、様々なものがウクライナ国内で値上がりした中で、特に紙おむつの値上がりが、非常に大変だという話です。こういった方々に、紙おむつやトイレットペーパーとウェットティッシュなどの衛生用品を配布しました。昨年10月から新しい事業で南部に活動範囲を広げ、国内避難民と地元住民の方を対象とした現金給付と食料配布を実施しているところです。食料配布はこのような形で、一ヶ月分の食料をダンボールに入れて配布しますが、中身はパスタや缶詰、瓶詰、コーヒー、砂糖、塩などが入っています。

AARは、イギリスの地雷除去団体を通じてウクライナ国内の地雷、不発弾の除去もサポートしています。こちらの写真はキーウ北東部にある地雷原を訪問した時に撮影したものです。ウクライナは国土の3割が地雷不発弾に汚染されていると見られていて、非常に深刻な問題となっています。これらを全て除去するには数十年かかるとみられています。

この赤い三角のところが地雷不発弾がすでにあることが分かっている地域で、黄色い三角はその可能性があるとされている地域です。青いところが、地雷不発弾による事故が発生してしまって、その件数の多い地域を表しています。地雷不発弾は爆発すると、非常に甚大な被害をもたらし、トラックが真っ黒焦げになり、人の腕や足を吹き飛ばしてしまうような非常に危険なものです。このように除去活動を行います。機械を使うこともできますが、使える場所が、色々な条件を満たしていなければならず、手作業に頼る部分が大きい作業になります。費用も時間も膨大にかかります。支援にあたっても、一年二年という短期間ではなく、長期的に支援して行く必要があります。AARは2022年9月から支援していますが、24年も引き続き資金提供を通じて、ウクライナでの地雷不発弾の除去活動を支援して行く予定です。ありがとうございました。