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【独自解説】クリミア橋爆発を「テロ」と非難し報復、プーチン大統領の言動に見える“保身”と“焦り”…現実味帯びる核使用は「段階を踏みたいはず」専門家が解説
2022年10月12日 UP
ロシアは、ウクライナの首都キーウなど複数の都市に、80発以上のミサイル攻撃を行いました。その背景にどんな思惑があったのか?今後、核使用の可能性はあるのか?笹川平和財団上級研究員の小原凡司氏が解説します。
当初の情報では、キーウで複数の爆発があったという事でしたが、それにとどまらず、第2の都市ハルキウや西部リビウなど、ウクライナ全土でミサイル84発ドローン24機による攻撃があり、現地時間の10月10日において、14人が死亡し97人がけがを負ったということです。
Q.キーウの映像を見ていると、重要インフラだけでなく無差別な攻撃に見えますが?
(小原凡司氏)
「今回の攻撃は報復です。ウクライナの人々全てに恐怖を与え、ロシアが主張している領土へのウクライナの攻撃を、なんとかやめさせたいという意図があるのではないかと思います。そのために無差別に攻撃をして、恐怖を与えているのです」
Q.そのために朝の、人が動き出す忙しい時間帯を狙ったんですか?
(小原氏)
「こういった報復攻撃というのは、相手に恐怖心を植え付けなければいけません。そのためには実際に多くの犠牲を見せないといけないので、朝の時間を狙ったのだと思います」
プーチン大統領は、クリミア橋の爆発を「テロ」だとした上で、「ロシアの(参謀総長の)計画によってウクライナのエネルギー、軍事指揮、通信施設に関する大規模な攻撃が行われた。キエフ政権は、己の行動により、国際テロ組織と同等に成り下がった。我々の領土に対するテロ攻撃を遂行しようとする試みが続く場合、ロシアはそれに匹敵する規模の攻撃で応える」と、ミサイル攻撃はその報復であることを明言しました。
Q.このコメントでプーチン大統領の「ロシアの(参謀総長の)計画によって」という言い回しが気になるのですが?
(小原氏)
「プーチン大統領は、自らが戦争犯罪者となるのは避けたいのだと思います。今回も、軍がこういった情報を上げて、それに対する計画を練ったという形にしたいのだと思います。最近はそれほど追い込まれているので、こうした行為を取らざるを得ないのでしょう」
プーチン大統領が「テロ」としている「クリミア橋」の爆破では、橋の一部が崩落し、3人が死亡しています。小原氏によると「プーチン大統領にとって橋はクリミア併合の象徴。破壊されたことで精神的ダメージを受けている。ロシア軍へ物資を運ぶ重要な橋で、ロシア軍の兵力維持に影響を与えることは間違いない」ということです。
Q.プーチン大統領への影響はどのようなものでしょう?
(小原氏)
「精神的なダメージもありますが、クリミア半島は、プーチン大統領が一方的に併合し、一方的に領土だと言っているところであり、それが長く続いてきましたので、すでにロシア国内ではロシア領だと認識していると思います。今回のことでプーチン大統領は、自身の権威が落ちることを恐れていると思います」
Q.この戦争に与える影響は?
(小原氏)
「橋がどの程度の期間で修復できるかにもよりますが、南部、特にヘルソン州などで戦闘を行っている部隊に対する補給路を別に作らなければならなくなりますから、ロシア軍にとっては大きな打撃になると思います」
Q.ウクライナ政府やその特殊部隊などの関与はあったのでしょうか?
(小原氏)
「これは断定できません。しかしプーチン大統領としては、そう言わないと報復する相手がいなくなってしまいます。クリミアの象徴である橋を壊されたことに対しては、非常に大きな報復をしなければならないので、それが個人であったり小さなグループであると困るわけです。プーチン大統領としては、たとえ本当の相手が誰であったとしても『ウクライナやった、情報機関や特殊部隊がやった』と言うのだと思います。一方のウクライナも、自分たちがやったとは言っていませんしその証拠もないのですが、大きな戦果と捉えられるので、国内の士気を高めるためにも、『これは、始まりに過ぎない』という、実行をにおわすようなコメントを出したんだと思います」
Q.実際は誰が爆破を行ったのでしょうか?
(小原氏)
「クリミアにもロシア併合に反対する過激派がいます。ロシア国内に反対派がいるかもしれませんので、そういったグループが爆破した可能性もあります」
Q.ロシアの報復攻撃から見えてくることは何ですか?
(小原氏)
「ロシア国内の強硬派がプーチン大統領に、今回の報復攻撃を迫っている、という側面はあると思います。そして今回の攻撃を見ると、プーチン大統領の方が追い込まれているという感じがします。今回は報復といっても、陸軍が全面的に攻撃できるかといえばそんな余力はないので、ウクライナ国民に恐怖を与えるべく、ウクライナ国内にまんべんなく空爆を仕掛けている。その程度しかできない、ということだと思います」
Q.ロシア国内でこの戦争継続への反対意見は出ていないのでしょうか?
(小原氏)
「国営放送の中でも、『この作戦自体、失敗しているのではないか』という批判も出てきています。元々プーチン大統領が始めた侵略戦争ですから、戦う意義を感じないロシア国民も多いと思います。しかし自国が勝っていて、東部で戦闘をしている限りは、なかなか国民が本心を表に出すことはできないという国内情勢もあると思います」
Q.プーチン大統領としても、これ以上戦争はしたくないのでは?
(小原氏)
「正確に予想するのは難しいですが、軍事作戦としてロシア軍がウクライナ軍すべてを押し返すのは難しいですし、ウクライナ全土のロシア化は困難だとプーチン大統領が認めたので、この4州とどめたいと思ったわけです。にもかかわらず、ウクライナ全土にもう一度攻撃を仕掛けなくてはならない事態に陥ったのは、プーチン大統領としては墓穴を掘ったに等しいと思います」
Q.ロシアによる核攻撃はありますか?
(小原氏)
「ロシアは、アメリカなどNATO(北大西洋条約機構)諸国が、これ以上ウクライナに支援や軍事的介入をしないよう、核の恐怖をあおっているわけですが、戦術核にしても、一旦核兵器を使ってしまったら自ら核戦争に飛び込むことになりますので、これは最後の手段です。その前に核実験を行って、改めて核の脅威を西側に認識させるだとか、ザポリージャ原発をメルトダウンさせて、自分たちが攻撃していないと主張しながら核攻撃のようなことを引き起こすこともできますから、実際に核を使用する前に段階を踏みたいと思っているでしょう」
(情報ライブミヤネ屋2022年10月10日放送)


