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“迷惑動画”の代償は―

【独自解説】相次ぐ“迷惑動画”の背景に、自覚のない“炎上動画”投稿者の増加…原因に「親の影響」防止策は「SNSは包丁と同じと教えるべき」専門家が提言

 飲食店やスーパーなどで撮られた“迷惑動画”の投稿・拡散が相次いでいます。しかし、軽い気持ちで投稿したことで、一生が台無しになる事態にまで発展する恐れもあります。未成年のネットトラブルに詳しい安川雅史氏が解説します。

増加する投稿者からの相談、自分の非が分かっていない人も

「全国ICTカウンセラー協会」代表理事・安川雅史氏

 安川雅史氏は、高校の教師だったのですが、生徒と向き合ううちに「勉強よりも子どもの悩みを解決したい」と考えるようになり、不登校やひきこもり、いじめなどに巻き込まれた子どもの支援活動を始めました。2008年からは、文部科学省の「学習指導要領」の検討委員や「ネットの安全安心全国推進会議」の委員も務めています。現在は、全国ICTカウンセラー協会の代表理事を務め、ネットトラブルを抱える未成年の駆け込み寺的な存在です。また、SNSで問題がある書き込みや動画を監視して、学校と相談のうえ削除依頼の代行などもしています。

Q.回転寿司店や牛丼チェーン、スーパーなどで撮影された“迷惑動画”ですが、最近増えたのでしょうか?昔からあったのでしょうか?
(安川雅史氏)
「昔からありました。例えば2019年にバイトテロというのがありましたが、そこから2~3年経つと、当時のことを忘れた子どもたちがまた投稿している、ということがあります」

Q.今回のことがあってから、相談件数は増えていますか?
(安川氏)
「増えています。以前は毎月の相談件数は一桁でしたが、メディアで“迷惑動画”の報道がされると『自分が載せている動画は問題じゃないか?』と不安になって『削除したいけど、削除の仕方が分からないから教えてほしい』といった相談が増えていて、月に20件ぐらいになっています」

SNSを巡る相談例

 実際に安川氏に寄せられた例ですが、「投稿した動画が炎上しないか心配だ」や、「違反行使をしていて、それを隠れて撮影された動画が拡散してしまった」「学校に批判が殺到してどうしよう」といった相談があるということです。さらに悪質な例としては、「“炎上動画”を脅しのようなかたちで撮影・投稿されて悪者になってしまったが、どうすればいいか」という相談もあったそうです。安川氏によると「最初は反省というよりも、『誹謗中傷・悪口を言われているから消してくれ』という相談の方が多い」といいます。

Q.最初は被害者として相談してくるのですか?
(安川氏)
「そうです。『なぜか悪口を言われている』という相談で来ます。そしてよく調べてみると原因を作っているのは相談者なんです。そこに気が付かなくて『なんで、こんな動画載せたぐらいでたたかれるんだろう』という感覚なんです。そしていろいろ話をして、自分があげた動画が世間を不快にしていたり問題になっている、ということに気が付くと、反省の言葉が出て来ます」

Q.脅されて“炎上動画”を撮らされたというような場合は「いじめ」なので、他の対応が必要ですね。
(安川氏)
「学校の中でからかわれている子どもは、いろいろ言われると逆らえないんです。それで“炎上行為”をしてしまって、さらに自分がたたかれるということで、精神的に追いつめられて相談に来るケースもあります。本人が意図的に載せたのか、載せられてしまったものなのかという区別をすることが必要です」

住所特定、実家に投石、就職もできず…“迷惑動画”投稿者の代償

“迷惑動画”を投稿したAさんのその後

 面白半分に“迷惑動画”を投稿した、有名大学に通うAさんは、投稿した動画が炎上したあと、まず大学に批判が殺到して、大学に通えない状態になりました。そして、家族の名前や住所がネット上に晒されてしまいます。次に、友達しか見られないはずの彼氏と撮影したプライベートな写真がネット上に拡散してしまい、友達不信になってしまいました。その後、家族への影響が広がり、実家に落書きや投石をされ、父親の会社や役職なども特定されて、会社にも批判が殺到します。その影響で、父親は体調を崩し入院して、さらに妹は学校でいじめにあってしまいます。Aさん自身もネット上に名前が出ているので、アルバイトに受からない、就職活動で面接に進めないなどで、3年後にようやく就職できたということです。当時のことをAさんは、『炎上中は、動画が拡散されるだけでなく、誹謗中傷に耐えきれなかった。生きるのがつらかった』と語っています。

Q.気軽に上げた動画で、一家全体が大変なことになるということですね
(安川氏)
「投稿した本人も『悪いことをしたので自分がたたかれるのは分かるんだけど、妹や家族に迷惑をかけて償いきれない。生きているのがつらい』と言っています」

炎上動画・誹謗中書を消すには?

Q. “迷惑動画”を投稿した人に対して、反省した後はたたくのを止めないといけませんよね。
(安川氏)
「“迷惑動画”を投稿した人も今後の人生がありますから、誰かが守らなければなりません。投稿した人間に対しての誹謗中傷やデマ、プライバシーに関しては、削除依頼を送っているのですが、全てを消せるわけではありません。また、本人が投稿したものに関しては、時間が経てば消えるというものではないのです。誰かが保存していれば、一旦ネット上から消えたとしても、忘れたころにまた載ってしまいます。また、『まとめサイト』に載ると、消すのがほとんど不可能になってしまいます」

家庭や学校でやるべき対策「SNSは包丁と一緒」

“迷惑動画”で問われる罪

 “迷惑動画”は、場合によっては罪になります。亀井弁護士によると、迷惑行為をした人は刑法の「威力・偽計業務妨害罪」に問われ、3年以下の懲役または50万円以下の罰金を課せられる恐れがあるといいます。迷惑行為を撮影・投稿した人も、同じ罪に問われる恐れがあるということです。加えて、民事の損害賠償請求をされる恐れも大きいといいます。しかし、ただ同席していただけであれば、罪には問えないのではないかということです。

Q.ネットへの投稿を気軽に考えている人が多いと思いますが、場合によっては恐ろしい事態が待っているということですね
(安川氏)
「ただの“悪ふざけ”のつもりが、自身の一生を狂わせてしまうだけでなく、家族の心にも傷を残してしまいます」

気軽な動画掲載には親の影響も

Q.“迷惑動画”は、なぜ無くならないのでしょうか?
(安川氏)
「まずは親の影響があります。“子ども自慢”の親で、たくさんの動画をネットに載せている人がいますが、そうすると子どもは『勝手に撮ってもいいんだな・勝手に載せてもいいんだな』という感覚になっていきます」

家庭や学校でできる対策

 安川氏は、家庭では「一日10分、子どもの目を見て話す時間を作る。どんなことが社会で注目されているのか、子どもが巻き込まれているニュースは何か、向き合って話をすることが大切だ」と言います。

Q.やはり親子のコミュニケーションですか
(安川氏)
「子どもたちは、やって良い事と悪いことを何気ないコミュニケーションの中から学んでいくものです。動画を載せなくても『迷惑行為をしてはいけない』ということは、普段の親子のコミュニケーションの中から自然に学んでいくものです」

Q.親子間だけではなく、学校では教えないのでしょうか?
(安川氏)
「多くの学校は、業者を呼んで一方的に講習をしているだけです。やはり、子どもたちに考えさせないとだめで、一方通行ではなく、『不快な思いをした』とか『過去に画像を載せられて不安に思った』とか、子どもたちの意見を活発に発展させていく中で、『自分たちがした事がまずい事だ』と気付かせないと、“迷惑動画”はなくなりません」

中学生・高校生のSNS事情

 若者のSNS利用率は、6~12歳までで36%、13~19歳でだと9割以上となっています。また、中学生の男性25.6%・女性33.9%が「SNSなどに勝手に写真をアップされた」という経験をしていて、高校生になると半数以上に上ります。

Q.子どもにスマートフォンを持たせる、SNSをする、というときに親が気を付けることは?
(安川氏)
「スマートフォンを持つ、SNSをする、ということは、包丁を使うのと同じだと考えられます。まずは使い方をちゃんと教えて、いろいろな危険性があるのだと分かった上で使わせないとだめです。問題が起こってから慌てるような親になってはいけません」

(情報ライブミヤネ屋2023年2月14日放送)

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