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【ナゼ】住みたい街1位・吉祥寺で救急病院が相次ぎ廃院…“国の政策”が背景に?「特徴があまりない地域密着型の病院は厳しい」 吉祥寺の話だけじゃない、今後起こり得る“病院の倒産”を専門家が解説
2025年4月11日 UP
都心へのアクセス良好、井の頭公園など豊かな自然、日が落ちればディープな飲み屋が軒を連ねるハモニカ横丁…住みたい街ランキング6年連続1位・吉祥寺(東京・武蔵野市)。そんな大人気の街で今、救急病院が相次ぎ廃院し、住民は危機に直面しています。背景には“国の政策”が?今後どうなる?医療ジャーナリスト・森まどか氏の解説です。
■国が打ち出した政策が原因?救急病院の廃院が相次ぐ背景
吉祥寺駅周辺では、2015年9月に『松井外科病院(91床)』が廃院し、診療所に。2年後の2017年9月、『水口病院(43床)』が廃院。2024年4月には『森本病院(74床)』が廃院して診療所へ移行し、地域で24時間受け入れ可能な病院は『吉祥寺南病院(125床)』だけとなっていました。
ところが、『吉祥寺南病院』は築50年以上が経ち、病棟は老朽化。武蔵野市によると、現行の耐震基準を満たしておらず、電気設備の劣化も激しく建て替えが必要でした。当初、病院の隣に新しい病院を建て替える予定で、2022年には完成しているはずでしたが、コロナによる経営悪化や建築資材の高騰により計画自体が頓挫。2024年9月末をもって診療休止となりました。近くのエリアに救急病院がなくなったことで、近隣住民、特に高齢者の間で不安が広がっています。
Q.都市部でも病院がなくなっているんですね?
(医療ジャーナリスト・森まどか氏)
「背景には、高齢者が増えて医療費も増えているので、国が『入院から在宅へ』という流れを打ち出していることにあります。その中で、診療報酬で加算をつけられない状況が続き、地元密着の個人病院から発展したような中小病院の経営が非常に厳しくなっている形です」
Q.国が『入院から在宅へ』という流れに舵を切ったことが、根本原因なのですか?
(森氏)
「そうですね。『手厚い医療が必要なところにはしっかり診療報酬をつけて、そうではないところはなるべく在宅で、地域全体で見ていきましょう』となっているので、特徴があまりない地域密着型の中小病院の収益を上げるのは、かなり厳しくなってくると思います」
(森氏)
「また、人件費や光熱費が上がっていて、さらにコロナをうまく乗り越えられなかった中小規模の病院が非常に苦労していて、外来に患者が戻らなかったり、健診や人間ドックに人が来なくなったりして、かなり倒産しています。地方だと、後継者の問題などもあります」
■相次ぐ廃院で見えた『二次救急』病院の弱み 周辺への影響は?
救急医療体制は、自力で来院できる軽症患者(症状:軽・緊急性:低)は『初期救急』、入院や手術が必要な患者(症状:やや重・緊急性:やや高)は『二次救急』、二次救急では対応できない命の危険がある重症患者(症状:重・緊急性:高)は『三次救急』と、3段階に分かれています。
今回、吉祥寺駅周辺で廃院や診療中止などとなったのは、全て『二次救急』の病院でした。森氏によると、「今回閉院した病院はリハビリなどが中心の病院ではなく、急性期病院としてやっているために、診療報酬的に厳しくなった」ということです。
Q.少子高齢化が進む中で、これは仕方がない流れなのでしょうか?
(森氏)
「高齢化が急速に進み医療費が増えている中で、『医療費を抑えなければならない』という今の日本の医療の流れだと、どうしても仕方がない面はあります。日常で具合が悪くなったら診療所に行けばいいですが、夜間や休日など診療所が閉まっているときに急変したら、特に高齢者は本当に急変しますので、そういった方を搬送できる病院がなくなるのは、非常に懸念されると思います」
Q.吉祥寺でもこんなことが起きるなら、地方に行けば行くほど医療は崩壊していると思っていいんですか?
(森氏)
「地域性によると思いますが、地方では人口減少という東京とはまた別の問題も起きてくるので、そこで医療が成り立たたず閉院になる所もあります。一方、吉祥寺の場合は、街で考えると、1つは産婦人科中心の病院とはいえ10年間で4つの病院が閉院したのは大きいと思いますが、吉祥寺がある『北多摩南部』医療圏としては、“全体での救急の充足度”は切迫した状態にはなっていません」
ただ、周辺の病院への影響について、三次救急である武蔵野赤十字病院の黒崎雅之院長は、「吉祥寺南病院が多く受け入れていた脳神経・整形外科を中心とした救急患者が、前年同月比で1.3~1.5倍に増えている。緊急事態への対応として、例えば、整形外科の医師の手術中に新たな整形外科の救急患者が来た場合、脳神経・消化器外科の医師が患者対応するなど、外科の医師間でカバーし合っている」と話しています。
■事業継承に向け新たな動きも…立ちはだかる物価高騰・都市計画の壁
そんな中、新たな動きが。別の団体が事業を継承し、受け継ぐ話が持ち上がりました。武蔵野市が出した事業継承の条件は、『①二次救急医療機関としての機能を有する』『②災害拠点連携病院としての機能を有する』『③できるだけ多くの病床を有する』でしたが、2025年3月5日、東京都内の病院を経営する法人が継承すると発表しました。
しかし、病院の建て替えには数年かかる見込みなうえ、建設予定の敷地が原則『病院を建設できない用途地域』で、都市計画の変更などが必要だということです。
Q.病院を建ててはいけない用途地域があるんですか?
(森氏)
「周辺の方の住環境を守るという観点から都市計画があり、その中で『住宅専用の地域』『低層の建物専用の地域』などがあって、病院は住宅ではないので、そこに合わないと建築できません」
Q.物価が高騰する中で、病院の建て替えに数年かかってしまうと、もっと予算がかかる可能性がありますよね?
(森氏)
「建築コストだけではなく全ての物価が上がっているので、そういった問題は出てきます。だから今後は、今回引き継ぎ先として決まったような“体力のある病院グループ”みたいな所が、吸収していく形になっていくと思います」
(「情報ライブ ミヤネ屋」2025年3月21日放送)


