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“疑惑”の渦中にあるカミラ・ワリエワ選手(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

【独自解説】ワリエワ選手“ドーピング問題”でCASが文書を公表、食い違うロシアとWADAの主張…今後の動きを現役・CAS仲裁人が解説

 北京五輪フィギュアスケート女子で、金メダル最有力とみられていたものの、まさかの大乱調の結果4位に終わったカミラ・ワリエワ選手(15歳)。波乱の原因となった“ドーピング問題”について、CAS(スポーツ仲裁裁判所)が、WADA(世界反ドーピング機構)とロシア側、双方の主張をまとめた文書を公開しました。CAS仲裁人の立教大学教授・早川吉尚(はやかわ・よしひさ)弁護士が解説します。

ワリエワのコーチの態度をバッハ会長が非難…IOCに責任は?

演技後、コーチから叱責されるワリエワ選手(写真:AFP/アフロ)

 2月17日に行われたフィギュアスケート女子フリープログラムで、これまでの姿からは想像できないミスを連発したカミラ・ワリエワ選手。演技後、呆然としリンクを後にすると、ROCのエテリ・トゥトベリーゼコーチからはこんな声が…

(エテリ・トゥトベリーゼ コーチ)
「気を抜いていたでしょ!なぜ戦うことをやめたの?説明しなさい。トリプルアクセルの後から集中できていなかったわ。何か良く分からないものまで付け加えていたし」

 さらに、「なぜ気を抜いていたのか 説明しないさい」と厳しく問い詰める姿も見られました。

ワリエワ選手のコーチ陣に対するバッハ会長の発言(2月18日)

 ワリエワ選手のコーチ陣らの対応に対し、IOC(国際オリンピック委員会)のトーマス・バッハ会長は2月18日、「彼女を慰めたり、助けようとする行動ではなく、冷ややかな雰囲気を感じた。彼女を拒絶するようだった。こんなにも冷たい態度をとれるのかと考えた。」と述べています。

Q.バッハ会長はこのような発言をされていますが、そもそもロシアは国家ぐるみでドーピングをしていたことで、2018年平昌五輪から制裁処分中です。そんな中IOCは、ROCに個人参加として五輪出場を認めているわけなので、今回のワリエワ選手のドーピング疑惑に対して、IOCとしてはもっと毅然とした態度を取らなくてはならないのではないでしょうか?

(CAS仲裁人 早川吉尚弁護士)
「なかなか難しい問題で、ロシアの選手のほとんどは、ドーピングと関係なく一生懸命やっています。例えば日本に置き換えたとき、ある選手がドーピングをやっていることが発覚して、そのためにすべての日本人選手が出場できないということになると、やはり努力をしている個々のアスリートにとっては非常にかわいそうだと思います。それはオリンピックの精神に反することになるので、今は一定のドーピングに関する基準をクリアすれば、出られるようになっています。」

 また早川弁護士によると、IOCは以前リオデジャネイロ五輪の時に、ロシアの組織的なドーピングがあったとWADA(世界反ドーピング機構)から報告があったにも関わらず、個々の協議団体に選手の出場の判断を委ねたため、ロシアの柔道の選手が堂々と出場していたということもありました。

(CAS仲裁人 早川吉尚弁護士)
「今現在のIOCは、ロシアという国を一律に排除するというところは進歩していますし、IOCはワリエワ選手が特例として五輪に出られるとしたCASの判断を厳しく批判しています。段階的ではありますが、IOCのドーピングに関しての判断は厳しいものになってきていると、私は思います。」

CAS仲裁人 早川吉尚弁護士

Q.今回、ワリエワ選手が北京五輪に出場したことについてどうお考えですか?
(CAS仲裁人 早川吉尚弁護士)
「私がもし今回の仲裁人に入っていれば、『原則通り、この物質が出た段階でワリエワ選手は出場できないと判断すべきだ』と述べていたと思います。今回確認されたような、悪質性の高い物質が出た場合は“黒”の裁定が出る場合が多いので、出場させてしまうと、後からトーナメントがぐちゃぐちゃになってしまう可能性などがあります。大会運営のことも考えて出場できないルールになっているんですが、私が出場させないと判断するのには、もう一つの要因があります。選手を保護するためです。彼女は周りの選手から、『ドーピングをやったかもしれない』という冷たい目に加え、『なぜ、あなただけ特別扱いなのか』という2つの目で見られるところが気の毒です。そういう環境に彼女を置くこと自体が間違いで、出場させないことが、彼女の健康や将来の為にも良かったと思います。本当に悲しく思って見ていました。」

「B検体」の分析が行われた場合(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

Q.なぜ、このA検体が陽性になったのかというのは、これは粛々と突き止められていくということですか?
(CAS仲裁人 早川吉尚弁護士)
「はい、これはロシアのアンチドーピング規律委員会が判断をします。その判断の検察官役をするのが、ロシアのアンチドーピング機関『RUSADA』で、被告人にあたるのがワリエワ選手、ということになります。」

Q.RUSADAはちゃんとしているんですか?
(CAS仲裁人 早川吉尚弁護士)
「偏った判断をする疑いがないわけではありません。そもそも暫定保全措置も、この機関が判断を下していますので、ロシア選手の為にロシア寄りの判断をする可能性がないわけではありません。」

CASが文書を公開 異なるロシアとWADAの主張

 CAS(スポーツ仲裁裁判所)は、国際オリンピック委員会によって設立され、スポーツで起きたトラブルを、裁判所ではなくスポーツ界の枠内で解決を目指すことを目的とした、一審制の仲裁機関です。仲裁人には、89か国・382人が登録しており、日本人は早川さんを含め4人います。今回の北京五輪には、通常部として9人、アンチドーピング部として4人が参加しています。

(CAS仲裁人 早川吉尚弁護士)
「オリンピック期間中は、アンチドーピング部が一審、通常部が二審という形が、CASの中で取られます。今回の判断は通常部のものです。」

CASの公開文章(2月18日)

 CASから公開された文書によると、ワリエワ選手の検体から検出された「トリメタジジン」は2.1ng/mLでした。ロシア側は「『トリメタジジン』の検出濃度はWADAの制限を下回る。パフォーマンス向上目的ではない」とし、「祖父の薬が、食器などを介して混入した可能性が高い」と主張。一方WADAは、「検出濃度から意図的な服用は明らかで、“偶然混入”の科学的根拠なし。祖父が『トリメタジジン』を使っていた処方箋がない」と主張している、としています。

Q.ロシア側とWADAの言い分が違いますが、どう真実を突き詰めていくんですか?
(CAS仲裁人 早川吉尚弁護士)
「数字自体は動かせないので、この数字がどのような運動能力の向上があるかということが、科学的に証明できれば明白なので、それを前提にCASが判断をしていくということになります。」

Q.CASは、関係者を実際に呼んで聴取をして、裁定を下すのですか?
(CAS仲裁人 早川吉尚弁護士)
「そうです。通常の裁判と同じ手続きですので、証人からの聴取もありますし、証拠の提出もされます。例えば、本当に食器を介して、錠剤がワリエワ選手の体内に入るのかというような実験もなされると思います。」

ドーピング違反があった場合の資格停止処分(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

 ワリエワ選手の処分について、「自分で飲んだ場合」「周りのスタッフが飲ませた場合」「本人が知らない間に第三者に飲まされた場合」で、最長2年間の資格停止処分になる場合もあれば、資格停止されることがない可能性もあります。

Q.まずは、彼女がどうやって「トリメタジジン」を摂取したのか、というところを示してあげないと、彼女がかわいそうですよね?
(CAS仲裁人 早川吉尚弁護士)
「そうですね。そのためにも、そこが徹底的に明らかにされていくことになります。」

(情報ライブ ミヤネ屋 2022年2月18日放送)

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