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ウクライナの情報戦を指揮する若きデジタル相

【独自解説】ウクライナのIT戦略は最年少大臣が指揮!戦時下でも行政手続き可能なアプリ「Diia」でロシア軍の情報を収集 驚きの“電子戦”を徹底解説

 東部・南部がきわめて厳しい状況にある一方で、首都キーウではロシア軍を撃退するなど徹底抗戦の構えを見せているウクライナですが、その陣頭指揮を執るのが、ウクライナ史上最年少のデジタル大臣です。その大臣が指揮するIT戦略を、ウクライナ情勢に詳しい 神戸学院大学の岡部芳彦教授と軍事ジャーナリストの黒井文太郎さん専門家2人が解説します。

注目の若きデジタル相フェドロフ氏

ウクライナのフェドロフ デジタル相

 注目されている、フェドロフ副首相兼デジタル相(31歳)ですが、大学卒業後にSNSに特化した広告会社をキーウに設立しました。そしてゼレンスキー大統領が出馬した大統領選挙で、デジタルアドバイザーに就任し、勝利に導いた後、副首相兼デジタル相に任命されウクライナ史上最年少の大臣となりました。

ウクライナ情勢に詳しい 神戸学院大学 岡部芳彦教授

Q.ゼレンスキー大統領は元コメディアンや俳優で政治経験がなかったんですが、この人がサポートして大統領になったとも言われているんですか?
(神戸学院大学 岡部芳彦教授)
「ゼレンスキー氏が大統領になったことに、かなりの影響があったと思います。フェドロフ氏本人に会ったときも本当に若いなってイメージがあって、やはりデジタル相はこうあってほしいなと思いました」

SNSを駆使するゼレンスキー大統領

Q.ゼレンスキー大統領のSNSをプロデュースして、細かい指示をしているのはフェドロフ氏だといわれていますが…
(岡部芳彦教授)
「フェドロフ氏は、ゼレンスキー大統領のSNS戦略に影響を与えていると思います。大統領府には、PRスタッフも入っているので、チームでいろいろ相談しながら効果的に発信していると思います」

フェドロフ氏は、多国籍企業にロシアからの撤退を求める書簡を送付、さらに企業に送った手紙や返答をSNSで“そのまま”公開しています。そして「○○はいつ?」などの“つぶやき”もしています。

軍事ジャーナリストの黒井文太郎さん

Q. 黒井さん、紛争地帯では、昔から“情報戦”というのはあったと思いますが、これは全く新しい手法ですよね。
(軍事ジャーナリスト 黒井文太郎さん)
「とにかくアピールをたくさんして行くと言うことですね、それをフランクな形で展開するというやり方は、非常にPR戦略としては長けていると思います」

戦争の常識を覆したウクライナの電子戦

ウクライナ国防省は進攻直後“ハッカー”にサイバー攻撃などを要請

 ウクライナの国防省は、ロシア軍の進攻直後に民間の“ハッカー”(ITセキュリティーの専門家)に国内の重要インフラの防御と、ロシアへのサイバー攻撃を要請しました。その要請を受けて、国内外のハッカーがロシアのサーバーを攻撃。そしてハッカー集団「アノニマス」もロシア国営テレビをハッキングしました。さらに、ロシア軍の捕虜のメッセージもインターネットで発信しました。

Q.ウクライナには、国内に相当な数のハッカーがいるのでしょうか?
(岡部芳彦教授)
「ウクライナは、東ヨーロッパのシリコンバレーといわれておりIT産業が盛んな国なので、IT産業の人たちがフェドロフ氏などの呼びかけに応じてIT軍に参加をして、ハッキングを試みているという現状だと思います。ハッキングが元々の仕事だったわけではなくて、IT技術者が参加しているということです。この戦争が始まったときにまさかロシアの大統領府のウェッブサイトが見られなくなるとは思っていませんでしたが、かなりの威力を発揮していると思います。ロシアからの情報発信も阻止しているように思います」

フェドロフ氏 イーロン・マスク氏に支援要請

 フェドロフ氏は、宇宙開発企業スペースXの創設者イーロン・マスク氏に対してSNSで直談判をして、人工衛星でのネット環境の構築を要請しました。これにマスク氏がすぐに対応したことによって偵察・攻撃でドローンの投入が可能になったといいます。

Q.イーロン・マスク氏が個人的に支援したのですか?
(軍事ジャーナリスト 黒井文太郎さん)
「マスク氏が提供すると言ったその直後に、数千台と言う送受信機がウクライナに提供されて、あっという間に配備されたんですが、こういうことができたのは、おそらくアメリカの情報機関が前から準備していたんだと思います。フェドロフ氏とマスク氏という若い起業家の二人のやり取りが話題になったわけですが、そういったことを話題にすることでアメリカ政府の関与の影を薄めたんじゃないかと思います」

戦時下の国民支える政府公認アプリ「Diia」(ディーア) 行政手続きからロシア軍の位置情報把握も可能

行政サービス100%オンライン化を目指す「Diia」

 ウクライナには、Diia(ディーア)という政府公認アプリがあります。2019年デジタル改革庁が開発したアプリで行政サービスの100%オンライン化を目指すアプリです。国民の4割以上がダウンロードしているということで、現時点で72の行政サービスが使えます。例えば住民登録や所得税の支払い、運転免許の更新や罰金の支払い、確定申告もこれでできるといいます。さらに、
免許証やパスポート学生証などといったデジタル証明の役割も担います。

Qこのアプリはほとんどのウクライナ国民が使っているのですか?
「ウクライナでは、高齢者の方もスマートフォンを使っているのを見かけますが、多くの方がこのアプリを使っていると思います。Diiaと言うのは『国家と私』という意味のウクライナ語の略でして、まさに国と個人が直接繋がることができるもので、『スマートフォンの中の国家』というゼレンスキー政権の政策の中核となるアプリケーションだといえます。また情勢の変化に合わせて必要な機能はどんどん実装して行きますので、たとえば新型コロナワクチンの接種証明もすぐに搭載されていました。」

アプリがウクライナ軍の作戦にも貢献

「Diia」はこの戦時下、国営テレビのニュースを配信したり、検問所での身分証明ができたり、被災保障の申請などもできると言います。

Q.ほかにも、このアプリがウクライナ軍の作戦にも役立っているということなんですが
(軍事ジャーナリスト 黒井文太郎さん)
「ロシア軍の目撃情報の提供という機能があります。この機能で、ロシア軍がどこにいるかが分かるので、ドローンを飛ばして詳しい場所を特定して攻撃を行うなど、今回の戦争でウクライナを守ることに大きな役割を果たしました」

Q.スマートフォンに情報を集中することにデメリットはないのでしょうか?
(岡部芳彦教授)
「ロシアが設けた人道回廊に逃げたウクライナの方たちは、そのスマートフォンの中の情報で『ロシア寄りか?ウクライナ寄りか?』を選別されていると言う報道もあります」

さらにウクライナ政府は暗号資産での寄付を受け付けていて、4月21日までに約77億円以上の寄付が集まったということです。

Q.暗号資産だとウクライナ政府にダイレクトに届くからでしょうか?
(岡部芳彦教授)
「その通りです。またこの方法は戦時だから始まったことではなく、ゼレンスキー政権は、この“仮想通貨で国を発展させよう”という政策を1年以上前から打ち出していたということも背景にあります」

日本の企業がオンラインでウクライナ技術者を支援

大阪のIT企業がウクライナの技術者をSNSで募集

 大阪市にあるIT事業などを展開しているネクストエイジという会社は、高いスキルを持っているのに戦争で職を失ってしまったウクライナのIT技術者を支援したいと、SNSで技術者を募集し一緒に作業をしてこの方たちに報酬を支払っているという事です。国の内外でリモートでの作業を行っています。今では高いパフォーマンスの仕事をしてくれる重要なパートナーになっているそうです。

静岡の企業が発注 ドイツに避難しているウクライナ人がデザイン

 一例ですが、静岡の企業が、ウクライナ支援のステッカーをネクストエイジに発注、それをドイツに避難しているウクライナ人クリエイターのユリアさんがデザインして、報酬として約25万円が支払われました。

Q.戦争が終わった後も継続できそうな取り組みですね。
(岡部芳彦教授)
「これが支援だとか援助ですと、長続きしないと思うのですが、この戦争がなければ出会わなかった日本企業とウクライナのクリエイターなどが出会って、“仕事として”ウィンウィンの関係を築けるという意味で、今後すごく注目されると思います」


(情報ライブ ミヤネ屋 2022年4月22日放送)

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