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“かけ子”として関与した女に懲役3年の判決

【独自解説】「殺す」と脅され逃げられず…闇バイト “かけ子”のフィリピンでの生活と恐怖支配の実態 専門家が解説

 フィリピンから強制送還された特殊詐欺グループに“かけ子”として関与した女(27)に、懲役3年の判決が下りました。この裁判で、フィリピンを拠点とした詐欺グループの支配の実情や、巧妙化された“かけ子”の手口など驚くべき実態が明らかになりました。元警視庁刑事の吉川祐二氏と犯罪ジャーナリストの石原行雄氏がその“実態”を解説します。

“かけ子”の女に実刑判決

女は「窃盗罪」で実刑判決

 ことし3月、フィリピンから強制送還・逮捕された渡部被告、今村被告らによるフィリピンを拠点とした特殊詐欺グループ事件。そのグループで闇バイトの“かけ子”になったという山田李沙被告(27)は、仲間と共謀し高齢者からキャッシュカードを盗むなど罪で窃盗罪に問われていました。その山田被告に8月18日、判決が下り懲役3年の実刑となりました。

元警視庁刑事 吉川祐二氏

Q.グループのリーダーは渡辺被告と言われていますが、さらに上の組織が絡んでいる可能性はあるのでしょうか?
(元警視庁刑事 吉川祐二氏)
「さらに反社会勢力や半グレ集団などが絡んでいることは十分考えられます」
Q.そこまで摘発できますでしょうか?
(吉川氏)
「そこまで行くのが警察の仕事です。実際いま、“かけ子”や“受け子”がどんどん捕まって、指示役までも逮捕されていますので、そこが突破口になって、上まで摘発することは十分考えられます」

きっかけは”闇バイト”

なんとなく“かけ子”だと思いながらフィリピンへ

 山田被告は2019年、X(旧ツイッター)で「闇バイト」と検索し、応募したところ、すぐにフィリピン行きのチケットが送られてきたといいます。山田被告は「なんとなく“かけ子だな”」と認識しながらもフィリピンに渡りました。フィリピンに到着後、首都マニラ近郊にある廃ホテルに向かました。ここが渡辺被告がリーダーを務める組織のアジトだったといいます。

被告らのフィリピンでの生活

 そこでの生活は月曜日~金曜日の午前8時~午後5時まで、遅い時は夜中の1時まで、売り上げるために電話をしていたそうです。詐欺グループのメンバーは、山田被告について、「1日に何度もだましに成功して“無双状態”だった。2か月で2000万円以上の売り上げを計上した」と語っています。山田被告は「“かけ子”は電話するだけ、犯罪ではない」と仲間に言われ、「犯罪意識は少なかった。カードを実際に盗んでいるわけではないので犯罪行為はやっていないと思った」と話しています。そして、自分を警察官だと思い込んで電話をするほどのめり込んでいたといいます。“かけ子”としての報酬はなかったそうですが、渡辺被告などの幹部からプレゼントや現金をもらっていたということです。また、小島被告などと共に知事やマフィアのボスと酒やカラオケを楽しむこともあったそうです。

犯罪ジャーナリスト 石原行雄氏

Q.報酬がもらえないことは多いのですか?
(犯罪ジャーナリスト 石原行雄氏)
「約束の報酬を支払わないのが反社の犯罪の基本です。人の財産を奪う犯罪をしているのですから、そういうことをする者が、自分の手下の素人に約束通りの支払いをするわけがないのです。しかも、きちんと支払わないということによって、やめたいと思っても『ここで辞めたら今までの報酬がもらえないんじゃないか』と思って、ずるずると続けてしまうということもあります」

Q. 知事やマフィアのボスと酒やカラオケを楽しむのは何のためですか?
(石原氏)
「知事やマフィアと会わせるのは、一種のご褒美でもありますが、『組織はこういう実力者とも繋がっているから、逃げようとしても無駄だぞ』という脅しにもなります」

Q.闇バイトに応募してしまう人は、その組織に依存してしまうのでしょうか?
(石原氏)
「私も、応募者を装って覆面取材をすることが多いのですが、実際のリクルーターは親身に話をきいてくるのです。例えば、私が『リストラされた中年で借金があって困っています』みたいな設定で話をすると、『どういう借金がいくらあるんですか?どういう仕事やって今どれだけ大変なんですか?頑張ってますね。じゃあ私が力になってあげますよ。いい仕事紹介しますよ』と言ってきます。そうやって心理的に取り込むということもありますし、相手の弱みや情報を引き出してうまく手駒にしようという目的もあります。社会的に報われないという思いがある。あるいは借金があって明日までに何とかしないといけないというときに、“出し子”の仕事を与えられて、5万円でとりあえず金利だけは払えた…となると、指示役に依存してしまうことは考えられます」

特殊詐欺グループの手口 複数の“かけ子”が1人をだます

特殊詐欺グループ “かけ子”の手口

 特殊詐欺グループの手口ですが、複数の“かけ子”が1人の人をだますという構図のようです。まず “かけ子”が警察官を名乗って金融機関名を聞き出します。山田被告はこの役割です。続いて“財務局の職員”を名乗る“かけ子”が「キャッシュカードと暗証番号を書いた紙を封筒に入れて保管してください。あとで職員が確認をしに行きますので」と伝えます。さらに日本国内にいる共犯者に指示を出して情報を共有する係がいて、ここまではフィリピンにいます。そして、実際に情報提供を受けた日本の共犯者が、被害者の自宅に行き、『財務局です』と言って、カードの入った封筒をすり替えて現金を引き出すという手口だそうです。それぞれの“かけ子”への報酬は引き出した金の5%で、残りはフィリピンへの渡航費や携帯電話代、食品などとして幹部や日本国内の共犯者に渡っていたそうです。

Q.かなり数多く電話をしないと、成功しないと思いますが、できるものですか?
(吉川氏)
「やっただけ自分の報酬になるというのが一つのミソになっています。たくさん電話をして、たくさん成功して、報酬を膨らまそうという考えで電話をかけまくっています。これが管理する上の者の目的でもあります。『君たちはどんどん動けばそれだけお金になるよ』というのを植え付けているのが見受けられます。」

Q.闇バイトは、「だれでもいいから入れてしまえ」という感じで募集しているのですか?
(石原氏)
「“かけ子”や“受け子”は使い捨ての駒ですから、逮捕されたら代わりをどんどん補充しようということです」

無報酬で脅しも…

報酬はなく 「殺す」と脅され

 報酬をもらっていなかったという山田容疑者ですが、報酬を要求しなかったわけを「上の立場の人は怖い人だったので、言えなかった」と話しています。また、休むことも許されなかったということで、藤田容疑者から「お前は、ゲロ吐いてでも仕事しろ」と言われたそうです。また、辞められなかったわけを、「一度『殺す』と脅され、怖いと思って逃げる勇気がでなかった」「ホテルから逃げた男性が心臓発作を起こし、薬を与えられず放置され死亡届を出したときはそれを聞いて殺人だと思った」とも証言しています。

Q.この藤田容疑屋など上の人間も、さらに上から脅されているということはないのですか?
(石原氏)
「“かけ子”などに報酬を支払わないことも含めて、上にある反社会組織に上納金などをかなり厳しく搾取されていると思われます。闇バイトグループでビッグボスと言われていた人物も、悠々自適な楽しい毎日かというと、犯罪をやらされて、恐怖で支配されているということは十分考えられます」

死ぬまで犯罪で生きていくのは嫌になった

 山田被告が拘束されるきっかけは、ことし1月、「死ぬまで犯罪で生きていくのは嫌になって、大使館に行ったら逮捕された」といい、その後フィリピン当局に拘束され、現地の収容施設に入れられます。「解放されて、自由で、楽になって、刑務所に入っても日本に帰りたいと思った」と語り、ことし3月、日本に強制送還となります。そして、フィリピンから日本に向かう機内で逮捕されました。

(吉川氏)
「闇バイト応募しようと思った人は、今回山田被告が3年間という懲役刑を受けたという事実をしっかりと見極めてほしいと思います。一番下の“かけ子”でも執行猶予も全くなしで、3年間の懲役刑を受けた。これが1つ大きなポイントになってきます」

闇バイトに申し込んでしまったら…相談窓口

 もし闇バイトに関わってしまい、悩んでいたら警察に相談をしてください。警察相談ダイヤル#9110、ヤング・テレホン・コーナー03-3580-4970などとなっています。

(「情報ライブ ミヤネ屋」2023年8月21日放送)

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