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山上容疑者の新たな供述

【独自解説】“旧・統一教会”「今はトラブルない」に“被害者救済”弁護士が反論「事実に反する」 高額献金、政治との関係・・・その実態とは?

 奈良市で安倍元首相が銃で撃たれ死亡した事件で、逮捕された山上徹也容疑者は母親が入信する“旧・統一教会”(世界平和統一家庭連合)に恨みを抱くようになった経緯について、母親が教団に多額の寄付をするなかで「祖父の土地を勝手に売り払い、教団につぎ込んだ」と供述していることが明らかになりました。

安倍元首相銃撃の理由

 また、「2021年9月に宗教団体が設立したNGO(UPF=天宙平和連合)の集会に寄せられた安倍元首相のメッセージを見た」とも供述していて、教団と安倍元首相につながりがあると思い込み、安倍元首相に殺意を募らせ、犯行に及んだとみられています。

“旧・統一教会”の霊感商法などは社会問題に

“旧・統一教会”(世界平和統一家庭連合)は1954年、韓国・ソウルで創立され、その後日本でも活動を始めました。1980年以降、悩みにつけ込み、不当に高額な壺や印鑑を買わせる霊感商法との関連、教団の決めた相手と結婚する『合同結婚式』、教団名を隠した信者の勧誘などがあり、社会問題化していました。2009年には「姓名鑑定を装い客の不安をあおり、高額な印鑑を売りつけた」として、教団関連の印鑑販売会社の社長らが逮捕され裁判では有罪となり、物品販売が教団の組織活動の一環であると認定されています。

消費者被害や宗教・カルトの法律問題に詳しい紀藤正樹弁護士

 12日、教団に対する反論会見を開いた全国霊感商法対策弁護士連絡会にも所属する紀藤正樹弁護士が、教団の実態について解説します。

“旧・統一教会”への献金の実態とは?

 教団の田中富広会長によると、献金の種類としては、毎月の収入の10分の1を教団に献金する「十一条献金」や、「月例献金」「無記名献金」「礼拝献金」「祝福(結婚)の感謝献金」などがあるということです。

献金についての主張が対立

 それらの献金について田中会長は11日の会見で、「献金は本人の意思に基づいている。破綻を知った上でさらに献金を要求することはない」などと説明していますが、教団の被害者を支援する全国霊感商法対策弁護士連絡会は「借金をさせてでも献金をさせている。自己破産した信者はたくさんいる。それを白々しくしゃべることは許されない。資産がなくなった場合は『借りるだけ借りてこい』と借金させて献金させている」などと主張しています。

Q. 教団では「富を神に捧げなさい」、という考え方なのでしょうか?
(紀藤 正樹弁護士)
「全ての私有財産は全て神のものだから、神側に返しなさいという教義があります。万物復帰という教義で、万物は神側に返しなさいという教義があるがゆえに、熱心な人であればあるほど、自分の財産を全て教団に投げ出します。そのために生活ができなくなって破綻させられます」

Q. 教団は悩んでいる人や困っている人に入会を勧めていくのでしょうか?
(紀藤弁護士)
「最初から“罪”を前提に入会を勧めます。ただし、最初は“罪”の話をせずに、ビデオセンターというところに誘われます。もう一つ、大学には『原理研』という入会ルートもあって、今の会長の田中氏は原理研ルートです。そういうところに集められた人は最初、『人生の勉強をしましょう』とか『社会の勉強をしましょう』から始まります。教団に入ってしまうと“罪の概念”つまり人間には“原罪”(生まれ持った罪)があり、それをぬぐうためには“罪の精算”をしないといけないと教えられるんです。その罪の精算の方法の一つがお金『献金』です。献金で教団に貢献しないといけないと教えられるんです」

信者に本を3000万円で買わせる?

 また、全国霊感商法対策弁護士連絡会は、「教団は単なる本を信者に常識外れの3000万円で買わせている。1冊3000万円の理由は教団の創始者の文鮮明(ムン・ソンミョン)氏の署名があるからだ。また、1人1冊ではなく、4冊も5冊も売りつける場合があり、5冊の場合1億5000万円になる」と主張しています。これに対して、教団の広報部は、取材に対し「あの本は貢献してくれた信者に対して授与したもので、売り物として販売したものではない。1990年代後半に授与したもので、現在は授与していない」と説明しています。

Q. 教団がここで言う貢献とはどういったものでしょうか?
(紀藤弁護士)
「貢献とは3000万円払うことなんです。3000万円出さなければ救われないということです。払えない人の中には分割払いをさせられている信者もたくさんいます。信者になるとこうやって借金漬けの状態が続いてしまいます」

“旧・統一教会”をめぐるトラブル

2009年以降のトラブルについての主張

 田中会長は現在の教団について「2009年にトラブルがあったのは周知の事実。当時発表した声明文で一番強調されたのが、コンプライアンス(法令順守)、それ以降末端に至るまでコンプライアンスの徹底をしている。2009年以降そのようなトラブルはない」と説明しています。
これに対して、全国霊感商法対策弁護士連絡会は「教団の説明は全くのウソである。2022年の1月に73歳の女性の献金被害について損害賠償請求通知書を出して、ほぼ返金してもらった。2016年の被害なので、2009年以降の事件だ」と反論しています。

2021年の最高裁の決定書には田中会長の名前が…

Q.2009年以降にもトラブルがあったのを田中会長が知らなかったという可能性は?
(紀藤弁護士)
「例えば、令和3年(2021年)の最高裁の決定書に、田中会長の名前が出ています。これは2015年~2017年頃の霊感商法の被害に対して、教団の上告が棄却されたというものです。田中会長が言っていることはウソとすぐわかるのに、なぜこんな主張をするのか全く分かりません」

霊感商法の被害額

 全国霊感商法対策弁護士連絡会によると、教団の霊感商法の被害額のピークは1987年の163億9826万円で、その後少なくはなっていますが、2009年以降2021年まででも合わせて161億4935万円に達しています。

Q.これは、全国霊感商法対策弁護士連絡会で把握している数字で全容ではないということですか?
(紀藤弁護士)
「そうです。また、調べてみたのですが、安部元首相銃撃事件の山上容疑者の件は全国霊感商法対策弁護士連絡会に連絡はなく、この数字には入っていないようです。ですから、埋もれた被害というのは他にも多数あると思われます」

“旧・統一教会”と政治との関係

教団は安部元首相の祖父の岸元首相との関係について「岸元首相は、私たち法人との関係というよりも、創設者(文鮮明氏・韓鶴子(ハン・ハクチャ)氏)が推進する平和運動に強く理解を示してくれた。(韓国から来た教団が)日本に根付くときに岸本首相が何か特別な計らいをしたとか、影響を与えているということはまずない」と説明しました。
 全国霊感商法対策弁護士連絡会は「韓国の“統一教会”が世界的に広く認知されていることを知らせるため、岸元首相と文鮮明氏が握手している写真などが掲載された分厚い写真集がある」と主張、元信者も「岸元首相の写真を見たことがある」と証言しています。

Q.こういう写真があるということは岸元首相と教団は何か利害が一致していたのでしょうか?
(紀藤弁護士)
「当時は、朝鮮戦争が終わって10年ほどしかたっていないころで、政府も国民も危機感を持っていました。教団は“勝共”(共産主義に勝って南北の統一をする)を掲げて日本政府に取り入っていて、政府と利害が一致したんです。ですから岸元首相が教団と関わりを持ったというのは、当時の情勢からすると止むを得ない面もあると思いますが、それが現在まで続いているのは問題です」

Q.信者からお金を搾取していくことは当時からあったのですか?
(紀藤弁護士)
「韓国ではかなり早い段階で、文鮮明氏の側近が逮捕されたりして、違法な活動がしにくくなりました。アメリカでも1980年代に文鮮明氏は脱税で捕まって刑務所に入っています。ヨーロッパでも規制の目が強く、あえていうと日本だけが教団が野放図に活動できている状態でした。教団は1970年代に霊感商法を思いついて、全国霊感商法対策弁護士連絡会ができた1987年頃が霊感商法の活動がピークでしたが、これが社会的に問題になるのと、1995年にオウム真理教の事件もあり、対外的にお金を集める霊感商法がしにくくなったので、1990年代の後半からは、信者からお金をとる仕組みが非常に強くなっています。山上容疑者の母親が入信した頃は、教団が信者に一番お金を要求していた時期です。田中会長は1976年に入教しているので、80年代90年代の過酷な状況はよく知っているはずです」

安倍元首相に抗議文を送るも…

 全国霊感商法対策弁護士連絡会は教団が創立したUPF(天宙平和連合)へ安倍元首相がメッセージの動画を送ったことに対して「動画は教団の宣伝として使われ、反社会活動をあおることになる。教団の現教祖・韓鶴子氏に『敬意を表します』と述べたことは日本社会に深刻な悪影響をもたらす」と抗議文を送りました。これに対して、安倍氏の議員会館事務所は受け取り拒否、山口県の事務所からは回答がなかったということです。

Q.安倍元首相以外にも国会議員で教団と関係を持つ人はいるのでしょうか?
(紀藤弁護士)
「安倍政権になってから、安倍元首相が参加していたということもあって、メッセージを送ったり集会に参加したりする議員が増えてきたので、それを憂慮して申し入れをしています。“旧・統一教会”は反社会的な団体だと私たちは思っています。議員には、反社会的な団体との付き合いを自制してくださいとお願いをしました」

Q.今回の事件に思うことはありますか?
(紀藤弁護士)
「“旧・統一教会”のような反社会的な団体には膨大な被害者がいます。多くの被害者は教団に恨みを持っています。実際、過去には信者同士の殺人も起こっています。今回の日本の元首相が殺されたという殺人事件に対して教団は非常に無責任だと思います。UPFは別団体だと言わず、教団が主導して『なぜこの事件が起こったか』を内部検証するくらいの真剣さを持ってほしいと思います。そして我々もこの教団の反社会性や問題性を伝える努力をもっとしなくてはいけません。被害者の相談窓口があることを山上容疑者が知って、我々に相談しに来てくれていたら、この事件は起こらなかったのではないかという思いもあって、自分たちの力不足を痛感しています」

(情報ライブミヤネ屋 2022年7月13日放送)

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