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日本一高い場所にある“雲の上の診療所”

【独自取材】富士山・標高3250mにある“雲の上の診療所” 「日々トレーニング」という厳しい環境で、登山者を守る女性医師に密着

 行動制限のない今年の夏、多くの登山客で賑わうのは世界遺産・富士山。その標高3250m、日本一高い場所にある診療所で、日常とは違う厳しい環境の中、24時間体制で登山者に向き合う女性医師に密着しました。

診療所があるのは富士山八合目!日本一高所で勤務する女性医師

富士山八合目にある診療所 「富士山衛生センター」

 富士山の登山ルートは主に4つ。中でも最も短い時間で登れる分、最も険しいルートが、静岡県側の「富士宮ルート」です。その富士宮ルートの八合目、標高3250mにあるのが、登山者の安全を守る、日本一高い場所にある診療所「富士山衛生センター」です。

1962年に開設された「富士山衛生センター」

 「富士山衛生センター」が開設されたのは、今から60年前の1962年。夏の間だけ医師が交代で泊まり込み、限られた狭い環境の中、24時間体制で診療を行っています。8月15日からここでの勤務を開始して、毎日登山者の安全を守っているのが医師の大城和恵(おおしろ・かずえ)さん。高度な医療知識とレスキュー技術を併せ持つ、世界認定資格の「国際山岳医」を日本人で初めて取得しました。エベレスト登頂にも成功した一流の登山家でもあります。

「富士山衛生センター」 大城和恵医師

(大城医師)
「私たち“山の医療をやっている者”としては、山に居ないと山の患者さんは診られないので。日々トレーニングで試されているかもしれないですね」

 "コロナ下"の取材となった今回、大城医師の指導に基づき、スタッフも感染対策を行った上で取材しました。

頭痛に吐き気…大人も子どもも高所では症状が多発

九合五勺で足元がおぼつかなくなったという男性

 午後3時すぎ。診療所を訪ねてきたのは、横浜から来た50代の男性。頂上を目前にした、九合五勺で足元がおぼつかなくなり、危険を感じ下山してきたといいます。

(男性)「足は結構力が入るんですけど、ちょっとフラフラしながら…2回くらいコケたかな」
(大城医師)「酸素が少ないと筋肉を動かすとか、頭の中で判断するとか、バランスを取る能力が低くなります。今日おしっこは何回くらい出ていますか?」
(男性)「登り始めてからは全然出てないですね」
(大城医師)「それは脱水ですね。だからフラフラしています。水分取って、ひと息ついてから下りるのがいいと思います」

 男性は、「お大事に」と大城医師に見送られ、診療所を後にします。

(男性)「今日、初めて診療を受けたのですが、安心できるなと思いました」

七合目を過ぎた辺りで体調を崩したという女性

 雲を眼下にする標高3250m、診療所の前で女性が力なく座り込んでいました。

(大城医師)「吐いちゃった?」
(女性)「何度も吐きそうになって袋を出して下を向いたけど、なんとか我慢してここまで…」

 登山中、七合目を過ぎた辺りで調子を崩したという40代の女性。七合目のある標高3000mを超えると、頭痛や吐き気など高山病の症状を訴える人が多くなります。

(女性)「酸素缶は途中で何度も吸いながら、来ていたんですよ」
(大城医師)「酸素缶は何度も吸わない方がいいですね」
(女性)「あっそうなんですか?」
(大城医師)「酸素が少ないところに慣れることの方が大事なので」

医師であり登山家ならではのアドバイス

 酸素缶は高山病ですぐに下山できない場合、症状緩和の代替手段として用いるのだといいます。医師であり登山家でもある大城医師ならではのアドバイスです。

(大城医師)「指をロウソクだと思って頂いて、ロウソクの火を吹き消すような呼吸をしてもらっていいですか?」
(女性)「ふうーーふうーー」
(大城医師)「圧をかけることによって、酸素が肺に押し込まれます。血液中の酸素飽和度が最初79%だったんですけど…97%まで行くじゃない、素晴らしいわ!」
(女性)「ありがとうございます」
(大城医師)「お大事にしてくださいね」

七合目辺りで激しい頭痛に見舞われた8歳の男の子

 登山者の増加とともに山岳救助の件数も増えた今年の富士山。特に夏休み中は子ども連れに注意を呼び掛けました。

(大城医師)
「お子様は自覚症状をうまく訴えられない時もありますし、ここに来るまでの間にきちんと睡眠をとれていなかったり、その上でゆっくり登るというのが苦手で速く走ってしまうこともあります」

母親に背負われてきた8歳の男の子。家族4人での登山中、七合目あたりで激しい頭痛に見舞われたといいます。標高2400m付近を登るころは元気な足取りでした。

(大城医師)「今日は朝ごはんは食べられたかな?」
(母親)「食べたね」
(大城医師)「登り始めてからおしっこは出たかな?」
(男の子)「少し出た」
(大城医師)「高山病まではいっていないです。低酸素による頭痛、高所性の頭痛なので、これ(経口補水液)“飲む点滴”っていうんですよ。ここまで来る間にかなり、ハアハアと呼吸しているので、普段よりかなり脱水になっているんですよね。お母さんも(経口補水液)要ります?」
(母親)「あっ、いいの?」
(大城医師)「登山は、仲間で元気にいるのが目標なので」
(母親)「ありがとうございます」

下山中に体調が急変した中学2年生の女の子

 日も暮れた午後7時すぎ、母親とともに診療所へやってきたのは中学2年生の女の子。頂上まで登ったその下山中に、体調が急変したといいます。

(大城医師)「今、頭が痛くて、吐き気がして…吐いてはいない?」
(女の子)「はい」
(大城医師)「これは体の中の酸素の量を見ているんですよね。今、95%あるので酸素の取り込みは悪くはないんですね。だから一番やるべきことは、水分をしっかり取ることと、頑張って呼吸をしながら山を下りた方がいいんだけど…」

 深く息を吐く呼吸を教え、経口補水液を飲むよう促すとともに、元気が出るように励ましの言葉をかけます。

(大城医師)
「富士山、初めて?頑張ったね!疲れちゃったね、よく頑張ったもんね…」

 診療所を出た親子は小さなライトで足元を照らしながら、暗い山道をゆっくりと下山していきました。

今年の勤務は9月3日で終了 下山したらやりたいことは“山登り”?!

“感謝の言葉”が何より嬉しい

 衛生センターで最善を尽くす大城医師にとって、診療した登山者からの感謝の言葉が何より嬉しいと言います。

(登山者)「先生、ありがとうございました。頑張ったけど、九合目までで…」
(大城医師)「あっ行ってきたの!?頑張ったじゃん、すごいじゃん!すごいね、日本で一番高い所に行ったんだよ。おめでとうございます」

富士山を下山したら、「山に行きたい」!?

 大城医師の2022年の「富士山衛生センター」での勤務は9月3日で終了しました。大城医師には富士山を下山したらやりたいことがあるそうです。

(大城医師)
「実は山に行きたいです。ここにいると、山の中に居るんですけど、ずっと診療所の中にいて登山ができないので、山登りがしたいです。北海道の山、久しぶりに日高のほうに行きたいなと。クマが怖いですけど(笑)」

(情報ライブ ミヤネ屋 2022年8月25日放送)

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