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度重なるミサイル発射 北朝鮮の思惑とは

【独自解説】理性を失った北朝鮮、ミサイル連発の裏に米「金正恩政権の終末」発言への反発と支持率低い尹政権への揺さぶり

 11月3日午前、北朝鮮が少なくとも3発のミサイルを日本海方面に発射しました。また、同日夜にも3発の短距離弾道ミサイルを発射し、日本海のEEZ(排他的経済水域)の外に落下したとみられています。政府は、午前に発射されたうちの1発について、ICBM(=大陸間弾道ミサイル)の可能性があると分析しています。一方このミサイルについては、「日本列島上空を通過した」というJアラートの発表が、その後訂正されるなど混乱も生じました。ミサイル発射の背景には何があるのか?懸念される核実験実施の可能性は?朝鮮半島情勢に詳しい龍谷大学の李相哲教授と、軍事評論家の黒井文太郎氏が徹底解説します。

1発のミサイルが「日本上空で消失」いったい何が?

11月3日午前に発射された弾道ミサイルの概要

 11月3日、少なくとも3発発射されたミサイルは、1回目は順安(スナン)付近から、2回目と3回目は价川(ケチョン)付近から、それぞれ日本海に向けて発射したとみられています。1回目は午前7時39分頃に発射され、午前7時50分頃にJアラートが発令されました。こちらについてはICBMの可能性があるということです。2回目・3回目については、短距離弾道ミサイルとみられています。

軍事評論家 黒井文太郎氏

Q.1回目のICBMとみられるミサイルは、いわゆるロフテッド軌道という、高く打ち上げて距離を出さない実験的な打ち上げだと思っていいのですか?
(軍事評論家 黒井文太郎氏)
「詳しい航跡がまだ分からないので推測するしかありませんが、韓国軍当局の発表が正しければ、ロフテッドというよりは、最初から日本列島を飛び越える、長距離の打ち方をした可能性が高いと思います。それが途中で、エンジンを切り離した頃に何かが起こって、途中でバラバラになったか、爆破したというような可能性の方が高いと思います」

Q.「ICBMとみられるミサイルが、日本列島上空で消失した」という発表がありましたが、“消失”というのはどのようにとらえればいいですか?
(黒井氏)
「“消失”というのは、自衛隊が、イージス艦を含めて地上レーダーで航跡を見るわけですが、そのレーダーに映っているものが消えた、ということを意味すると思います。ミサイルが爆破して粉々になって映らなくなったのか、何かしらの機材トラブルがあったのか、自衛隊側のトラブルなどがあったのか、まだはっきりしませんが、韓国側の『ICBMを飛ばした』という情報が正しければ恐らく、まだ上昇段階で爆発したか、引火したか、何か不都合があって北朝鮮側が指令して自爆させた、といった可能性の方が高いのではないかと推測します」

ミサイルが消失したと思われる地点

Q.ICBMは大気圏より上に行くのですよね?
(黒井氏)
「はい、大気圏は100kmで、ICBMは飛距離が2000kmと、はるかに上です。今回の北朝鮮からのミサイルがICBMだとして、日本列島をはるかに超えて、この先のずっと遠くに飛ばすつもりで撃っていれば、図のこの辺りの地点(フリップ図参照)で、何かがあって消えたということになります」

Q.日本列島に部品などが落ちる可能性はあるのですか?
(黒井氏)
「今回の韓国軍の発表では、『火星17』というICBMではないかということですが、『火星17』というのは、今年発射実験を行っていますが、失敗しています。まだ技術的に完成していないものですが、今回日本列島を飛び越える形でやったということであれば、日本に落ちなかったのは、たまたまだったと言えると思います」

Q.日本の防衛システムで、迎撃はできるのですか?
(黒井氏)
「一番大きな問題は、北朝鮮のミサイルが通常の打ち方なのか、今年の1月に実験を成功させて、今たくさん作っている新型の低い弾道で飛ばす物なのか、ということです。いわゆるイージス艦の交戦範囲が70km以上でないと使えないので、それより低いところをグライドしながら飛んで来る物を作っていますので、それが来た場合は日本のイージス艦では落とせないため、PAC-3で対応するということになります」

北朝鮮の狙いは「アメリカへの対抗と韓国への揺さぶり」

龍谷大学 李相哲教授

Q.米韓の軍事演習をやっているにしても、北朝鮮の反応は今までと明らかに違うと思いますが、これはどういうことなのでしょうか?
(龍谷大学 李相哲教授)
「そうですね、今回はICBMを撃ったというのがほぼ断定できますので、アメリカを意識している、アメリカに相当怒っているのは、間違いないです。これは2つの意味があって、アメリカに不満を持っているのと、もう1つは、今回の一連の流れは実験の要素もあると見ていいです。北朝鮮がこんなことをやるときは2つの目的があって、1つは軍事的な側面、もう1つは政治的なメッセージがありますが、軍事的には『自分たちはアメリカがいくら圧力をかけても、我々にも手段があって、軍事力は十分ある』ということを対抗措置として誇示しようとしたのです。そして政治的には、今アメリカも韓国もなかなか北朝鮮の要求を受け入れてくれないので、政策転換を迫っているのと、もう1つは、韓国の尹錫悦政権が国内で支持率が低く、『尹政権の強硬政策は、北朝鮮の変化につながるどころか、緊張を高めるだけだ』と批判を浴びている中で、韓国では既に尹政権に対する批判のデモが起きている、というような報道があることから、韓国社会への揺さぶりも、今回の一連の動きには含まれているのではないでしょうか」

Q.尹政権へのダメージということを考えると、梨泰院での痛ましい事故の哀悼期間中に揺さぶりをかけてくるというのは、意図的なものはあるのですか?
(李教授)
「それについては、つながりは薄いと思っています。逆に、この期間中に北朝鮮が韓国社会に揺さぶりをかければ、事故に関する関心が薄れてしまいますので。それよりも、今回の米韓の航空機訓練がいつどんな事態になるか分からないので、これまでの北朝鮮であれば対抗措置として、順次戦時状態を発令して軍が総動員されるのですが、そのような力もエネルギーもないので、ミサイルで対抗している、という状況だと思います」

北朝鮮が意識する「米韓合同軍事演習」とは?

Q.米韓合同軍事演習で使用されているステルス戦闘機は、北朝鮮にとって非常に怖い物と言えるのでしょうか?
(黒井氏)
「そうですね。ステルスですから、北朝鮮側の防空システムをかいくぐる可能性がありますので、北朝鮮にとって脅威だと言えます。ただこれは新兵器ではありませんし、米軍がこれを持っているのは、北朝鮮も前から知っています。有事になればどっと入ってくるものだということも分かっています」

ミサイルが軍事境界線を越えた理由

11月2日にはミサイル20発以上を発射

Q.韓国にとって、11月2日に、南北朝鮮分断後初めて、弾道ミサイルの一部が軍事境界線を越えたというのは、大きなターニングポイントになりますよね?
(李教授)
「パンドラの箱を開けたというか、今まで北朝鮮がいくら挑発しても、ミサイルを韓国の領海に撃ち込んだことはないんです。それを初めてやったということですが、今、北朝鮮が理性を失ったように色んなことやっているのは、一つの理由が考えられます。アメリカが最近、『北朝鮮政権の終末』という言葉使っていて、1週間ほど前にアメリカ国務省が、2022年『核態勢の見直し』の報告書というのを出して、『金正恩総書記がもし核を使用すれば、金正恩政権が生き残るシナリオはない』というふうにはっきりと書いています。北朝鮮は、金正恩総書記が侮辱された場合、みんな理性を失って標的に向かって様々なことをやってくるので、軍トップが『おぞましい対価を払うだろう』と言っているのは、恐らく『北朝鮮政権の終末』という言葉に対抗しているのだと思います」

Q.7回目の核実験は近いのではないですか?
(李教授)
「核実験は間違いなくやると思いますが、いつやるかは金正恩総書記次第だと思います。今回韓国が非常に危機感を持っているのは、撃ち込んだミサイルは核弾頭を搭載できる、という意味合いを持っていることです。7回目の核実験が行われれば、小型化も完成して、ますます北朝鮮の脅威は高まることになると思います」

(「情報ライブミヤネ屋」 2022年11月3日放送)

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