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【独自解説】明かされた“プーチン大統領が最も恐れる男”ナワリヌイ氏の毒殺未遂事件の真相、獄中から侵攻批判も現政権が高支持率のワケ

 未だに終わりの見えないロシアによるウクライナ侵攻。ロシアが完全制圧を目指す、東部・セベロドネツクについて、地元の知事は6月20日、「市街戦が24時間続いている」と明らかにしました。そんな中、プーチン大統領を“ロシア国内”から批判する人物がいます。“プーチンが最も恐れる男”といわれ、獄中からプーチン大統領を批判する反体制派のナワリヌイ氏です。なぜプーチン大統領はナワリヌイ氏を恐れているのか?そして、ナワリヌイ氏を襲った“毒殺未遂事件”の真相とは?ナワリヌイ氏に直接取材した、大和大学教授の佐々木正明(ささき・まさあき)氏が解説します。

反体制派の急先鋒・ナワリヌイ氏をプーチン大統領が恐れる理由

アレクセイ・ナワリヌイ氏(2013年/佐々木正明氏撮影)

 アレクセイ・ナワリヌイ氏(46歳)は、ロシアの野党指導者としてプーチン大統領の汚職疑惑などを追及してきていました。2012年にアメリカ紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」は、ナワリヌイ氏を「ウラジーミル・プーチンが最も恐れる男」と紹介しています。

大和大学教授 佐々木正明氏

Q.佐々木さんはナワリヌイ氏に直接取材されたこともあるそうですが、その時の印象は?
(大和大学教授 佐々木正明氏)
「非常にジョークがうまく、演説慣れしていて、背が高いのもありますが俳優のような感じがしました。また、周りが一枚岩になっていて、若い人達のカリスマといった感じでした」

 2018年にはロシア大統領選に立候補しプーチン批判で支持を獲得します。しかし、過去の“横領罪での有罪判決”を理由に立候補を却下させられました。その結果、2018年3月、プーチン大統領は7割という過去最高の得票率で再選を果たしています。

Q.ナワリヌイ氏がプーチン大統領を批判することに対して、プーチン大統領はある程度容認していた部分もあったのでしょうか?
(佐々木氏)
「はい。ナワリヌイ氏は2000年代後半から政治活動をしていますが、プーチン大統領は当初、政権に対するガス抜きに彼を利用していた節があります。私が取材したのは、モスクワ市長選挙の時でしたが、ナワリヌイ氏の支持率が段々と高くなり、2018年には大統領選にも立候補するほど大きなパワーになりつつあったので、プーチン大統領は釘を刺したのだと思います」

Q.ロシアの民主化が進むと、ナワリヌイ氏は大統領になる可能性があるのでしょうか?
(佐々木氏)
「ナワリヌイ氏への評価は非常に分かれます。実は、ロシアでは彼のことを大きく批判するグループが大多数です。ロシア国民は彼を信用していないと思います」

Q.なぜ、ナワリヌイ氏の支持率は低いのでしょうか?
(佐々木氏)
「それはプーチン大統領が国営メディアを使ってナワリヌイ氏を貶めたり、国家権力を使って色々な言いがかりをつけるためです。さらに、ナワリヌイ氏の支持者は街頭に出てウクライナ侵攻について反対運動をしているのですが、反対運動をする前に捕まってしまうこともあり、支持率が低いのです」

獄中から“プーチン批判”

 ナワリヌイ氏は、現在、詐欺と法廷侮辱罪で、禁錮9年の判決を受け服役していますが、獄中からプーチン大統領を批判しています。3月には、「ロシア人が戦争に反対することが、最も早く狂気のプーチンを止める方法だ」とSNSに投稿。5月にも、「近年でプーチンほど人を殺したロシア人はいない」としています。

Q.2021年1月にナワリヌイ氏のYouTubeでは、プーチン大統領が賄賂で得た約1400億円を投じて建てたとする「プーチン宮殿」を公開しています。プーチン大統領は自分のものではないと否定していましたが、これはどう見ますか?
(佐々木氏)
「ここはもうすでに国家権力が警備していたり、プーチン大統領の趣味である柔道場やアイスホッケー場があります。ナワリヌイ氏のチームはここをドローンで撮影したり、設計図を入手したりしていて、これはプーチン大統領のものであるとしています」

ナワリヌイ氏“毒殺未遂事件”の真相

“プーチンが最も恐れる男”映画化

 6月17日に公開された、ドキュメンタリー映画「ナワリヌイ」。2020年8月20日、シベリアからモスクワへ向かう飛行機で“ロシア反体制派のカリスマ”ナワリヌイ氏を襲った衝撃の毒殺未遂事件で、奇跡的に一命を取り留めたナワリヌイ氏が、事件の真相を暴き出すという内容です。この映画を見ると、プーチン大統領はナワリヌイ氏のことを「今、あなたが話題にした反体制派については…」と言ったり、「その人物…」、「あなたが言及した人間は…」、「どんな名前で呼ぼうが構わないが…」などと表現して名前を絶対に言わないため、ナワリヌイ氏の名前さえタブーなのではないかといわれています。

Q.プーチン大統領がナワリヌイ氏の名前を呼ばないのは、ロシア国内での反応を懸念しているということですか?
(佐々木氏)
「プーチン大統領はナワリヌイ氏を“政敵”であると認めたくないので名前を呼びません。そうなるとプーチン大統領の部下も名前を呼びません。国営放送でもナワリヌイ氏の名前を揶揄して呼ぶんです。恐らく一度も名前を呼ばれたことはないと思います」

イギリスの調査報道団体「ベリングキャット」の活動

 2020年、ナワリヌイ氏はイギリスの調査報道団体「ベリングキャット」と協力し、毒殺未遂事件の真相解明に乗り出します。「ベリングキャット」はSNSなどインターネット上の公開情報などを使用して、様々な調査をする国際的集団です。ロシアによるウクライナ侵攻では、SNS上の写真や映像を解析し、ウクライナの民間地域に投下された複数のクラスター弾の着弾地点などを特定しています。ナワリヌイ氏の毒殺未遂事件については、過去の調査から「使用された毒物『ノビチョク』の製造所はロシア国内で1か所だけ」と突き止め、製造所の所長の通話履歴などから犯行グループを特定しました。

ナワリヌイ氏 “犯行グループ”と直接対決

 ナワリヌイ氏は偽名を使い、FSB(連邦保安局高官)を装って、毒殺を命じられたとされるロシアの諜報機関の関係者に直接電話をしています。その諜報機関の関係者から事件の関与を認める発言があったため、ナワリヌイ氏はベリングキャットと共に、FSBの関与を示す調査結果を公表しました。それに対してプーチン大統領は「ナワリヌイ氏は、CIAの支援を受けている。毒殺される存在なら、とっくに殺されている」と、この関与を否定しています。しかしその後、この諜報機関の関係者は行方不明となりました。

Q.真意は分かりませんが、『ナワリヌイ氏は亡くなってないでしょ?』というところがプーチン大統領の一つの言い分ですよね?
(佐々木氏)
「そうですね。プーチン大統領は記者会見で『毒殺される存在ならとっくに殺されている』と笑って発言しています。これは戦慄を覚えるセリフです。やはりナワリヌイ氏を襲うチームがあるはずなんです。行方不明になっている方だけじゃなくて、そのチーム自体がどうなっているか、気になるところです」

 そして2021年1月、ナワリヌイ氏は滞在先のドイツからロシアに帰国し、空港で身柄を拘束されました。このことについて佐々木氏は「ロシア国外から発信しても、プーチン氏と戦う好敵手にはなれない。獄中死する危険も踏まえてでも、ロシア国民に喚起をしたかったのではないか」と分析しています。

Q.死を覚悟で向かっていく姿は「ヒーロー」のようにも見え、かえって殺害できなくなってしまいますよね?
(佐々木氏)
「そうですね。殉教者にしてしまうと、逆に今度は反体制派が一気に固まってしまう恐れもあると思います」

Q.「過激派組織を設立した」罪で、刑期が15年になる恐れがあるといわれていますが、ナワリヌイ氏の刑期はあってないようなものですよね?
(佐々木氏)
「過去の色々な罪を重ねた上で、このような懲役になっています。ナワリヌイ氏はすべて反論できると言っていますが、今後も刑期が延びる可能性があると思います」

映画の影響は?ロシアの言論統制はいま

ロシア国内の言論統制は?

ロシア・モスクワでレストランや美容室を経営している廣瀬功氏によると、今でもYouTubeやテレグラムは現状使用でき、やろうと思えばいくらでも情報取集や言論はできるということです。しかし、インターネットに関しては見られないサイトも増えてきており、facebookやTwitter、Instagramは使用できず、TikTokも国外からの投稿は表示されず、アプリの中で出てくる情報が統制されたものになっているということです。

また、ナワリヌイ氏が関わるデモで拘束された人は、2017年は1000人以上、2021年は3000人以上にのぼっています。さらにウクライナ侵攻以降に拘束された人は1万5000人を超えています。そんな中でも、プーチン大統領の支持率は83%と、ウクライナ侵攻前より上がっています。

Q.支持率が83%というのは、ロシア国民の生活に大きな影響はなく、意外と上手くいっているから「プーチン大統領は正しかった」という話になっているのでしょうか?
(佐々木氏)
「おっしゃるとおりですね。ロシア国内で行われた『ウクライナ情勢への関心度の世論調査』では、若い人の6割が関心を持っていないことがわかっています。やはり反体制派の人はかなり国外に流出しているのだと思います」

Q.ナワリヌイ氏の映画の影響は今後、出てくると思いますか?
(佐々木氏)
「この映画はロシア国内では見られません。見られたとしても、ロシア国内でこの映画が大きなうねりになるとは思えません。それぐらいプーチン大統領の支持基盤は大きく、情報統制されています。海外での反プーチン、反ロシアというのは広がる可能性は高いです」

(情報ライブ ミヤネ屋 2022年6月21日放送)

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