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　山口県阿武町(あぶちょう)が、新型コロナ対策の臨時給付金4630万円を誤って振り込んだ問題で、5月24日阿武町が会見を開き、「4月8日から法的手続きを取っていて、合計4299万3434円を確保できました」と発表しました。どういう手法をとり、なぜ返還されたのかを、この会見を見た中央大学法科大学院教授・野村修也弁護士が解説します。

田口容疑者の逮捕は“返還”に影響したのか？

Q.返還に向けて、まず阿武町はどのような対応をしたのでしょうか？
（中央大学法科大学院教授 野村修也弁護士）
「誤って公金が振り込まれた田口容疑者の口座を、すぐには仮差押えせずに放置していたのですが、その後その口座のある銀行に『田口容疑者が、他銀行に送金するのに注意をしなかった責任があるので、代わりに弁済してほしい』と交渉しています。また、田口容疑者がお金を振り込んだ決済代行業者の口座のある銀行に対しても、『このお金は、犯罪行為に関わっているお金だからちゃんと対応してくれ』などと要請しましたが、どの銀行も『私たちに落ち度はない』という対応だったということです」

Q.銀行がダメだった後に取った方策は？
（野村弁護士）
「阿武町が、田口容疑者に税金の滞納があることが分かったので、税金の滞納分の回収ができる『国税徴収法』などを使って差し押さえの命令を出し、町の弁護士がそのことを決済代行業者に伝えたんです。本来この対応ですと、税の滞納分だけで4630万円は戻ってこないのが普通なんです。しかし、決済代行業者にこの命令を突き付けたら、なぜか滞納分以上の約4300万円返ってきたということです」

Q．なぜ4300万円も返還してきたのでしょう？
（野村弁護士）
「町の弁護士は『なぜ代行業者が振り込んできたかを私は知りません』と言っていますが、おそらくカジノ側からすると、自分たちが扱うお金が、マネーロンダリングなど違法性を疑われると困るからだと思います。トラブルがあって捜査を受けるようなことになって、他のことを根掘り葉掘り調べられると嫌なので、ここは田口容疑者が振り込んだ全額を返した、ということだと思います」

Q.田口容疑者の逮捕が、影響したということはありますか？
（野村弁護士）
「田口容疑者が逮捕されたという情報が入ってきて、さらに差し押さえの命令も出ているということで、決済代行業者としては『これ以上巻き込まれたくない』と判断したんじゃないでしょうか？」

Q．警察は、決済代行業者が返してきたお金の出どころは調べるのでしょうか？
（野村弁護士）
「警察はこの後、この事件の全容を明らかにするために、決済業者から本当にカジノにお金が渡ったか確認すると思います。返還したから何もしないのではなく、取り引きの説明はすると思います。しかしカジノは、国によっては正当なものですが、日本においてはグレーな部分もあるので、業者としても日本で営業する不安はあると思います。なので、あまり追及されたくないという思いもあると感じます」

“返還”は田口容疑者の量刑に影響するのか？

Q.田口容疑者が全部使っていて、代行業者が肩代わりしていたとなると、悪しき前例になるのでは？
（野村弁護士）
「もし代行業者が肩代わりしているとなると、今後代行業者が田口容疑者に請求することは考えられます」

Q．返還があったことで、田口容疑者の公判に対する影響はありますか？
（野村弁護士）
「あると思います。刑事事件の方では、実際にお金が返るということと、本人が反省しているかがポイントとなります。今回のケースですと、お金が戻ってきていますので、事件の規模がすごく小さくなるわけです。そうなると、執行猶予もあり得ます。ただ、彼がウソをついていたかどうかは、犯罪を裁いていく上で大きな論点になります。お金を隠して、後から自分のものにしようとした犯罪だったのか、それとも誤って入金されたお金をカジノで儲けようとして、全部使ってしまったのかで、全然犯罪の形式は違います。そこを今後捜査で詰めていくと思います。また全額使っていたとして、お金の返済が親族からであれば、本人に反省もあって親族が本人の更生も考えるということになるので情状酌量もありますが、決済代行業者の思惑で返しただけとなると、免責していいのかという議論も出ると思います」

Q．重い刑にはならないのでしょうか？
（野村弁護士）
「伝統的な法律論で言うと、事件の規模が小さくなっています。これまでの刑とバランスをとっていかなければならないので、これくらいの金額の詐欺事件でどういう刑が下されたかと考えると、重くはしにくいと思います」

（情報ライブミヤネ屋　2022年5月24日放送）