記事

富山市の認定こども園で虐待が発覚

【独自解説】認定こども園の園児虐待事件、背景に「園長の人材不足と能力不足」てぃ先生が提唱する3つの防止策

 富山市の認定こども園で、園児を暴行したとして保育士2人が書類送検されました。事件を受けて行われた園の説明会では、ずさんな保育実態が明らかとなり、保護者からは怒りの声が上がりました。この問題を、現役の保育士で育児アドバイザーとして他の園にも指導を行っている、てぃ先生が解説します。

虐待の実態、保育園が抱える「全国的問題」とは?

富山市「本江町保育園」での園児暴行

 本郷町保育園は、2019年に認可を受け、富山市郊外の住宅地に開園した保育園です。富山県警は12月6日、園児への暴行の疑いでこの保育園に勤めていた20代の保育士2人を書類送検しました。警察によると、2人の保育士は1歳~2歳の園児4人に対して、「逆さ吊りにして体を引きずる」「椅子を引き抜き尻もちをつかせる」などの虐待を行っていたという事です。

保育士・育児アドバイザー てぃ先生

Q.今回の事件を聞いてどう思われましたか?
(てぃ先生)
「静岡県裾野市の園児虐待事件の段階で、『これは氷山の一角だ』と言いましたが、やっぱりまだあったと感じました。皆さんを不安にするわけではないのですが、どこの保育園でもこういう状況がある可能性は高いと思います」

保護者説明会での園長の発言

 保育園による保護者説明会では、園長が謝罪し、今回の事件の原因を「園長が複数の園を掛け持ちしていたため、現場の状況を把握できていなかった」としました。そして今後は、「園長と同等の権限を持つ管理者を常に配置するなどして、再発防止に努める」としましたが、保護者からは疑問が噴出しているという事です。

カメラに映っていた虐待の実態

 また、保護者が警察から見せられたという園内のカメラの映像には、「尻が持ち上がるぐらい片腕をつかんで引きずる」「園児の頭を押さえ付け、飲み物が入ったコップを口に近づける」「立たせながら食事をさせる」「お昼寝のときに、1人の園児だけ布団を敷かずに放置」「1歳児が遊んでいるときに、保育士が片肘をついで寝そべっている」などの映像が写っていたという事です。また内部通報によりますと「1歳児を布団で挟みロープで巻く」という行為もあったとの事です。

Q.園内にはカメラがあったという事ですが、それでもこのような行為をしてしまうのはなぜなのでしょう?
(てぃ先生)
「今回の件は、『園側の管理不足』というのが大きいと思います。いくらカメラが付いていても、それを見て確認するという事がされていないと、カメラ設置の意味はありません。今、保育士の人手不足も深刻ですが、園長の人材不足も大変な事になっています。さらに保育士の人材不足から、園長が保育に入るという事も珍しくない状態です。そうなると、園全体を管理して、カメラの映像を確認する人がいなくなってしまうわけです。単純に権限のある人間を配置したとしても、各クラスを見回ったりして、円滑なコミュニケーションができる状態でなければ、問題は解決しません」

Q.そういう保育園は多いのでしょうか?
(てぃ先生)
「園長が保育に入っているような園は、非常に多くあります。さらにいうと、園長は保育や子供に関しては詳しいのですが、経営や運営に関して優秀かというと、これは判断が難しい状況です。危機管理やスタッフの人間関係のコントロール、保護者対応などに関しては、能力が高いとはいえない状況で、これは全国的な問題だと思います」

説明会に出た保護者の反応

 説明会を受けて、保護者の多くからは「“形だけの謝罪”だと受け止めている。私が知る限りの真実を全て話していない。矛盾がある」「園長は謝るだけで、全部把握していない。スタッフとコミュニケーションがとれていないのでは?」「組織として崩壊している。防犯面も不安で、転園を考えている」などの声が出ていて、「説明は不十分」との印象を持っています。

Q.この保護者の声をどうみますか?
(てぃ先生)
「保護者の言うとおりだと思います。実際は園が隠している事がなかったとしても、疑わしく聞こえる事もあるので、もう少し保護者が納得できるように、事実を把握している部分は開示できるのではないかと思います」

2人の保育士による暴行の実態

 保育園によりますと、今年の夏に、泣き止まない園児を倉庫に閉じ込めたり、おしりを棒で突くなどした保育士が、9月に勤務停止になり、11月に自主退職しています。虐待の理由を「しつけのつもりだった」「つわりがつらかった」などと述べていました。虐待を行ったのは、当初この一人だと思われていましたが、別の保育士も「椅子を引き抜き園児に尻もちをつかせる」などの行為があったとされました。その保育士は「園児がお茶をこぼしてしまい、服が濡れないように椅子を強くひいてしまった。その後のフォローが不十分だった」と話していて、園長は、「勤務停止の保育士と同列に扱えない。『暴行ではない』という認識だった」としています。保育士は、その後も勤務を続けていましたが、12月6日に書類送検されています。

Q.「しつけ」と「虐待」の線引きはどこになるのでしょう?
(てぃ先生)
「一人目の園児を倉庫に閉じ込めたりした保育士は、明らかに虐待というか暴行だと思います。もう一人の、園児の椅子を引き抜いて尻もちをつかせた保育士の場合、『そんな事で…』と思うかもしれませんが、園児を大人に置き換えて、同じように椅子を引き抜いた後、痛がっているのに何のフォローもないと、悪意だとしか取られないですよね。子どもだからしょうがないとか、別に良いとかではなくて、子どもも人間ですので、フォローがないと悪意と取られてもしょうがないと思います」

Q.保育の現場で、こういうケガは「虐待」で、こういうケガは「しょうがないケガ」だという判断はできるものでしょうか?
(てぃ先生)
「あやふやな部分が多いと思います。ただ、子どもケガをした場合に、きちんと経緯の説明があれば、保護者も納得します。例えば『子ども同士でおもちゃの取り合いをして、喧嘩になってケガをしました』と説明があれば、納得してもらえる事が多くあります。今回のように、何でケガをしたのか、どういう経緯があったのか、が不明確で、『すみません、ケガをしました。これはよくある事なんです』では、納得してもらえなくて当たり前です」

てぃ先生が提唱する3つの虐待防止策

虐待防止策①「コミュニケーションの工夫」

 虐待防止策として、てぃ先生は①コミュニケーションの工夫、②カメラの有効活用、③保育士の負担軽減、の3つを挙げています。①については、「“コロナ禍”で情報共有の場が少なくなっている今だからこそ、保育士側、保護者側の双方ともにコミュニケーションの工夫をするべき。保育士と保護者の関係が“密”になる事で、不適切保育は少なくなるはず」と提言しています。

Q.詳しく説明してください
(てぃ先生)
「保育士の負担軽減だとか、カメラの設置などという基本は押さえた上での『虐待防止』という事になりますが、そもそも保護者は、子どもが保育園でどんな1日を過ごしていたかは分からないんです。それを知る情報は、連絡帳に書いてある2~3行の文章であるとか、迎えに行ったときの1~2分の保育士との会話しかなかったのが、この“コロナ禍”で、さらに保護者と保育士がコミュニケーションをとる事ができなくなってしまいました。例えば、感染予防の観点から保護者が施設に立ち入る事ができなくなっていたり、施設に入れても教室には入れなかったりしますし、保育士との会話も少ししかできなくなっています。“コロナ禍”は3年目ですが、3歳以下の保育園児とその保護者は、ずっと“コロナ禍”のコミュニケーションが希薄な中で通園してきたので、保育士とのコミュニケーションが図れず、こういった問題が起こりやすいのだと思います」

虐待防止策②「カメラの有効活用」

Q.虐待防止策②は「カメラの有効活用」という事ですが…
(てぃ先生)
「映像を公開する運用方法が3つありまして、1つは『保護者が常に確認できる』ようにする事です。メリットとしては、保護者が安心します。ただ一方で、園児同士のケンカなどもあるので、そうしたトラブルなどを見てしまって、保護者同士が気まずくなるなどのデメリットもあります。そこで2つ目として、ずっとではなく『昼ごはんなど一時的』に公開するというのもありだと思います。そして3つ目は、ドライブレコーダーのように、『何か問題が起きたときに公開する』というのも大事だと思います。園児がケガをしたときに、自分で転んだケガなのか虐待なのかが分かりますので、適切な保育をしている側を助ける事にもなります。保育士は監視されて嫌だと思うかもしれませんが、自分たちを守るという事も理解してほしいです。しかし、今は保育士の余裕がないので、まずはそこを解決してから、カメラの運用をしなければならないと思います」

保育士1人当たりの1歳児の人数の比較

保育士1人あたりの1歳児の人数は、先進国の中で日本は最低レベルです。イギリスは保育士1人に対して1歳児3人、ドイツのベルリンでは3.75人のところ、日本は1人で6人をみなければいけません。

Q.保育士1人で6人の1歳児をみると、どんな問題がありますか?
(てぃ先生)
「今は『園児一人一人の個性を大事に保育しましょう』という時代ですが、目の前に6人の1歳児がいて『一人一人の声を大事にしましょう』というのは、現実的に難しいです。6人の1歳児でしたら、倍の2人の保育士がいないと、適切な保育は行えないと思います」

虐待防止策③「保育士の負担軽減」

Q.虐待防止策③は「保育士の負担軽減」ですね。
(てぃ先生)
「保育園の仕事は、子どもの世話がメインだと思われがちですが、実は書類作成や行事の準備の負担が非常に大きいんです。体感ですと、子どもの世話が2割で、8割は書類作成や行事の準備などの負担になります。保育士と子どもたちとの過ごし方をどうするか、というよりも、この8割の部分の負担軽減を考えないと、カメラを設置したり、ルールを決めたりなどをしても、保育士はそれを守る事ができません。この負担軽減を国の方で、保育士の配置基準と一緒に、よく考えてほしいと思います」

(情報ライブミヤネ屋2022年12月12日放送)

SHARE
Twitter
facebook
Line

おすすめ記事

記事一覧へ

MMDD日(●)の放送内容

※都合により、番組内容・放送日時が変更される場合があります。ご了承ください。

※地域により放送時間・内容が一部異なります。