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大阪大学大学院歯学研究科・天野敦雄教授

【独自解説】コロナ感染での死亡率は約9倍に!? 成人の約7割がかかっている「歯周病」の最前線! “コロナ禍”でリスク増!一体なぜ?

「歯周病」のリスクを予防歯科の権威が独自解説

 コロナ禍でリスクが高まっているという「歯周病」。マスクをして無意識に行っている“ある行動”で「歯周病が悪化する」というのです。さらに、歯周病にかかるとコロナ感染での死亡率が8.81倍に、インフルエンザの感染リスクも高くなる可能性も―。

「健康は健口」からを提唱する、歯科医師で「予防歯科」の権威であり、日本口腔衛生学会理事長、大阪大学大学院歯学研究科の天野敦雄(あまの・あつお)教授が、歯周病の最前線を独自解説します。

「歯周病」とは?

「歯周病」とは?

 「歯周病」とは歯周病菌が歯肉に炎症を起こし、やがて歯を支える土台の骨まで溶かしてしまう病気です。成人の7割が罹患しているといわれています。

Q.成人の7割が歯周病なのですか?
(歯科医師の大阪大学大学院歯学研究科・天野敦雄教授)
「そうです。歯周病というのは不潔病なんです。頭を洗わない、お尻を拭かない、そうなるとどうなるか簡単にお分かりいただけると思います。」

Q.プラーク(歯垢)というのはよく聞きますが、これは食べカスみたいなものですか?
「食べカスではないです。菌の塊。表現が悪いですけどね、口の中にいるウンチと一緒です、菌の塊です。」

Q.歯石というのは何なのですか?
「歯石はこのプラーク、菌の塊が固くなったもので石灰化したものです。その上にまたプラークが付いて、その上にまた…と悪化していきます。」

Q.歯を磨くのも大事ですが、うがいするのはどうですか?
「少しは減りますが、それでプラークが全部とれるわけではありません。」

Q.水を飲んだら沁みるとか、冷たいものを食べたら沁みるのは、歯肉炎の可能性があるのですか?
「ポイントはそれです。沁みるなっていうのは、歯ぐきが下がってきた1つのポイント、証拠です。それから歯を磨いて血がにじむ、これは歯ぐきに炎症があるっていうサインです。この時を見逃してはいけません。」

骨が溶けるメカニズム

 健康な歯肉は薄いピンク色の歯肉で、引き締まっていて、出血はしません。初期の段階で歯肉炎になると、赤色の歯肉になり、丸みを帯びて膨らみ、ブラッシングで出血します。歯周炎になると、歯肉がさらに腫れて、歯肉が退縮し歯が長く見え、歯を支える骨が溶けます。

Q.骨が溶けたら、骨は再生しないのですか?
「そうです。普通は再生しません。」

「歯周病」の感染源

 歯周病は感染症で、その感染源は自分の口の中で発生するのではなく、キスや食事の口移しなど、他人の唾液から感染します。

Q. 大皿料理を分け合うというのは、リスクはあるのですか?
(天野敦雄教授)
「直箸で、なに食べようかなって箸をなめながら、やっぱりこれにしようとか。あるいは中華料理でもごそっと回転テーブルで料理をとりわけるとか、そういうところで、他人の唾液が自分の口の中に入るリスクは出てきます。」

「歯周病」になりやすい年齢

30代以降は「歯周病」になりやすい?

 実は、歯周病菌は18歳ごろから口の中に住み着きやすくなり、30代から「歯周病」になりやすくなります。その原因は、歯周病菌は酸素が苦手で歯茎の隙間に住み着きやすく、虫歯菌は酸素を好み、歯の表面に住み着きやすいということにあります。18歳ごろまでは、あごの骨や歯茎などは成長し大きくなるので、歯周病菌が入り込む隙間が少なく、歯周病菌が住み着きにくいのですが、成長が止まると隙間ができやすくなり、歯周病菌が住み着きやすくなってしまうのです。

「歯周病」を防ぐには?

 初期の「歯周病」には自覚症状がほとんどなく、気付いたときには悪化しています。そして、虫歯菌や歯周病菌は一度、口の中に住み着くといなくなることはないのです。

Q.口の中の菌を除去する方法は?
(天野敦雄教授)
「菌を口から追い出すには滅菌しかない。例えば、120度のお湯でうがいをしたら滅菌できますが大火傷するので、できない。殺菌するには、漂白剤並みの強いうがい薬がいりますので、実際にはできない。ですから今できるのは歯磨きで悪玉菌の量を減らすこと。これはできます。」

Q.軽症のうちにどれだけ治療するか、早期発見が大事なのですか?
「まさに早期発見、早期治療。自分がそういう歯周病になるリスクがあるなと思ったら、もう一生メンテナンスをしっかりすることです。」

Q.メンテナンスというのは?
「これはセルフケアとプロフェッショナルケア、定期的に歯医者さん行く、そして、自分が主治医となって、自分の口の健康を守ろうっていう意識です。」

歯周病菌

 ちなみに、歯垢(プラーク)1mgの中には、1億個の細菌がいます。天野教授によりますと、その中でも歯周病菌は10数種類ありますが、特に3種類の病原性の高い菌に注意が必要だということです。

Q.普通の歯医者さんで、どの菌を持っているのか調べてもらえるのですか?
(天野敦雄教授)
「健康保険はききませんけど、この3つの菌を調べる細菌検査は1万数千円でやってくれる歯医者さんは、結構あると思います。」

コロナ禍で「歯周病」のリスク高まる

コロナ禍で「歯周病」のリスク高まる

 天野教授は、コロナ禍で「歯周病」のリスクが、より高まっていると警鐘を鳴らしています。その原因として、“歯科への受診控え”と“マスクの着用”を指摘、マスク着用時は呼吸がしづらく、多くの空気を吸える口呼吸になりやすいので、口の中の唾液が乾燥し、菌が増殖しやすい環境になり「歯周病」や「口臭の悪化」につながるということです。

Q.口呼吸は口の中にとって、良くないのですか?
(天野敦雄教授)
「これはよくないです。口の中は、唾液中のいろんな抗菌成分で守られているんです。その唾液が乾燥すると本当にカピカピになりますから、口の中を守ってくれるものがいなくなります。」

口呼吸を防ぐには…

 口呼吸を防ぐには、口を閉じる意識づけをして、口の力を鍛えると良いということです。

Q.口の力を鍛えるというのは、どういうことですか?
(天野敦雄教授)
「年配の方は、若いころは口笛ふけたはずですけど、今上手にふけるでしょうか?掠れたような口笛しかふけません。なぜなら唇の力が年とともに弱っていくからです。ほうれい線が消えるような体操ありますよね。そういうので鍛えていただく。もしくは、口が閉じないということであれば、コロナ感染のリスクが若干増えますが、マスクの隙間を少し開けていただいて鼻呼吸をしやすくする。口が開くと口の中が乾燥して、プラーク、歯垢が固くなるんです。固くなると普通の歯磨きをしても、取れたつもりでも取れてないということになります。」

「歯周病」でインフルエンザの感染リスクが増加!?

「歯周病」でインフル感染高リスク?

 さらに、「歯周病」の人は、インフルエンザの感染リスクが増加する恐れがあるといいます。高齢者施設を利用する190人の中で、インフルエンザに感染した人を調査したところ、歯科衛生士による歯の掃除をした98人のうちインフルエンザに感染したのは1人(1%)だったのに対し、本人か介護者が歯の掃除をした92人のうちインフルエンザに感染したのは8人(9.8%)で、その発症率は約10倍でした。

 天野教授によると、歯周病菌が出すタンパク質分解酵素が、ウイルスと細胞の結合力を高める働きがあるということで、専門の口腔ケアをすることで、インフルエンザの感染リスクを減らすことができる可能性があるということです。

Q. ウイルスと歯周病が出すタンパク質が一緒になるんですか?
(天野敦雄教授)
「タンパク質分解酵素を歯周病菌が出します。とっても強力な酵素でして、ウイルスがくっつくようなレセプターを細工してウイルスがピョンとくっつきやすくなるんです。ですから歯周病がいると、用意ドンでウイルスが口の中に入ってきたときに、たくさんウイルスがレセプターにくっついて感染しやすくなる。これは色んな臨床研究で明らかになっています。」

「歯周病」で他の病気のリスクが高まる?

 インフルエンザだけではなく、全身、脳から血管、心臓、肺、おなか、子宮、骨に至るまで、「歯周病」によって、他の病気のリスクが高まる可能性があるということです。

Q. 歯周病になる菌が何らかの状況で体の中に入るのか、病気になる何らかのウイルスと結合してこれも全身の病気になるのか、どっちなのですか?

(天野敦雄教授)
「これはウイルスとは関係ない。歯周病菌が歯茎の傷からずっと血流によって全身へ運ばれていく。それと歯ぐきの炎症が出す炎症性物質・サイトカインというのが、血流で全身へ運ばれていって炎症をひどくするので、いろんな病気が起こるってことが報告されています。」

「歯周病」でコロナ感染時の死亡率が増加!?

歯周病で“コロナ”の死亡率高?

 そして、最新の研究で「歯周病」の人は、コロナに感染したときに死亡率が増加するということが明らかになりました。歯の専門誌『ジャーナル・オブ・クリニカル・ペリオドントロジー』に掲載された論文によると、歯周病の人が“新型コロナ”に感染した場、歯周病ではない人と比べ、死亡率は8.81倍、人工呼吸器を使用するのは4.57倍、集中治療室に入院するのは3.54倍、合併症発症は3.67倍になるということです。

 天野教授は、「歯周病菌がコロナの重症化と関係しているのか、歯周病の人は基礎疾患が多く、そのことが影響しているのかはまだ判明していないが、データを見ると結果的に歯周病の人は重症化リスクが高い」と解説しています。

”口腔ケア”で入院期間を短縮?

口腔ケアで手術時の入院が短縮?

 病気のリスクを高める「歯周病」を防ぐ、“口腔ケア”をすることで、実は「入院期間を短縮」することができるといいます。手術が必要な入院患者に歯科専門医が専門的な口腔ケアを行った場合、手術時の入院日数が短くなるという調査結果があるのです。

 胃がんの場合、専門医が口腔ケアを実施していない通常の入院の場合は、平均14.8日入院しますが、専門医による口腔ケアを実施すると、12.5日に入院日数が減少。食道がんの場合、通常55.3日入院するところ、専門医のケア実施することで33日に。大腸がんの場合、通常16.8日入院するところ、専門医のケアで15.7日と入院が短縮される結果が出ています。

 天野教授は「現在は手術前に歯科衛生士による口腔ケアを行うことがスタンダードになりつつある」と話しています。

Q.手術をする前に歯の治療をすることは当たり前なのですか?
(天野敦雄教授)
「お口がきれいだと、本当に手術したあと治りやすい。それからお口の中にいろんな病気があると、それが原因で全身疾患が起こっている可能性も否定できない。そうなると手術してもまた再発するとなりますから、できればお口はきれいな状態で手術を受けていただきたい。健康保険認められているんです。手術前の口腔清掃、プロフェッショナルケアですね。」

「歯周病」セルフチェック

「歯周病」セルフチェック

 自分は「歯周病」なのか?セルフチェックをしましょう。

「歯周病セルフチェック」

□ 口臭を指摘された・自分で気になる
□ 朝起きたら口の中がネバネバする
□ 歯みがき後に、毛先に血がついたり、すすいだ水に血が混じることがある

【歯肉の症状】
□ 歯肉が赤く腫れてきた
□ 歯肉が下がり、歯が長くなった気がする
□ 歯肉を押すと血や膿が出る

【歯の症状】
□ 歯と歯の間に物が詰まりやすい
□ 歯が浮いたような気がする
□ 歯並びが変わった気がする
□ 歯が揺れている気がする

 当てはまる項目が1~3個の場合は「歯周病のおそれあり、軽度のうちに治療を」、4個以上の場合は「中程度以上に歯周病の進行の可能性があり、早期に治療を!」ということです。また、0個でも、定期的に歯医者にいくべきだということです。

(天野敦雄教授)
「歯みがき後に毛先に血がついたり、すすいだ水に血が混じることがあるというのが一番大事。それを見逃したら手遅れになります。膿が出てくるようになったらホープレス(希望が無い)です。」

Q.寝る前にちゃんと歯磨きしている人は、朝起きてすぐに歯磨きしなくても大丈夫ですか?
「食事前にうがいぐらいしたほうがいいですね。口の中に菌がたくさんたまっていますから。それをゴクンと飲んじゃうから。」

Q.ご飯を食べた後に、すぐに歯磨きしない方がいいと言われていますが?
「それは今や迷信です。間違い。御飯食べた後はすぐに歯磨きしましょう。私は朝起きてすぐに、激しめのうがいをします。」

「歯周病」を予防する ”正しい歯の磨き方”は?

「歯周病」予防 正しい歯の磨き方

 最後に、歯周病を防ぐための“正しい歯の磨き方”を教えてもらいました。

(天野敦雄教授)
「歯磨きと言いますが、歯は磨いてはダメです。揺するんです。ゴシゴシってやりますよね、これ駄目なんです。歯と歯の間のくぼみに45度の角度で毛先をしっかり入れる。これが一番大事。磨くのではなくて、揺するのです。1分で終わっている人はダメです。少なくとも3分から5分。一番いいのは、一度、歯医者さんに行って歯科衛生士さんに、あなたはこう磨いた方がいいですよという指導を受けること。」

Q.電動歯ブラシはどうですか?
「電動歯ブラシはいいですよ。」

 天野教授によると、磨き残しをゼロにするのは難しく、同じ個所を磨き残しやすいので、その場所は365日ずっと磨けていないことになる。歯周病の対策をするためには、専門的なクリーニングを定期的に受ける必要があるということです。

(情報ライブミヤネ屋 2021年11月11日放送)

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