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認知症を公表した橋幸夫さん(82)

【提言】遺伝する?予防法は?気になる『アルツハイマー型認知症』の疑問 専門医に聞く対処法

 2025年5月20日、認知症であることを公表した歌手・橋幸夫さん(82)。1960年、17歳で芸能界入りした橋さんは、同世代の西郷輝彦さん・舟木一夫さんと共に御三家と呼ばれ、昭和歌謡を席巻。数多くの映画にも出演し、その人気は『国民的アイドル』そのものでした。その裏で、認知症になった最愛の母・サクさんの介護に奔走した橋さん。歳月が経ち、今度は自らが、その病との闘いに挑むことになりました。橋さんが発症したアルツハイマー型認知症とは?予防はできる?『アルツクリニック東京』院長・新井平伊氏の解説です。

■同じ話を繰り返す、会話がかみ合わない…周囲が気付いた異変

 医師の診断によると、橋さんには2020年頃から初期症状があり、2022年12月に軽度のアルツハイマー型認知症、2024年12月に中等度のアルツハイマー型認知症と診断されました。

周囲が異変に気付いたのは2024年の夏

 2025年5月20日の会見で、「スタッフが初めて異変に気付いたのは、去年の夏。『ステージで同じことを何度も言っている』と」と話したのは、橋さんが所属する事務所『夢グループ』の石田社長です。

 石田社長自身も、橋さんの異変を目の当たりにしていました。2024年・秋に行われた『夢グループ20周年記念コンサート』で、橋さんが「今日は20周年おめでとうございます」と言ってから10秒もたたない内に「社長!今日は20周年おめでとうございます」と同じ話を繰り返し、他にも質問と返答がかみ合わないことがあったといいます。

 一方で、50~60年前の歌も、曲が流れればステージに上がり歌えたといい、橋さん本人も「歌手として最後までやり遂げたい」と話し、2025年5月29日に岡山・倉敷市で行われた『夢グループ20周年記念コンサート』にも出演しました。

『アルツクリニック東京』院長・新井平伊氏

Q.大スターが認知症を公表するのは異例だと思いますが、専門医から見て、いかがですか?
(『アルツクリニック東京』院長・新井平伊氏)
「社会的に、認知症やアルツハイマー病を正しく理解してもらう大きなきっかけになるので、とても勇気ある行動だと思います。認知症やアルツハイマー症になった方でも、自転車を漕ぐ・泳ぐなど、根本的なことは忘れません。橋さんは、それのもっと高度なことをやっていると思います」

Q.ライフワークであるステージに立ち続けるのも、大きな意味がありますよね?
(新井院長)
「一番のポイントは、認知症・アルツハイマー病になっても、ダメージを受けているのは脳の働きの一部で、他は正常なので、そこをいかに保つかです。引きこもったり社会活動が低下したりすると、そこが衰えてしまうので、ステージに立ち続けるのは橋さんにとっても大きな力になると思います」

Q.それぞれの環境や事情があるでしょうか、ずっと家にいるのは良くないということですね?
(新井院長)
「社会生活を送ったり、人と交流したり、喜怒哀楽の感情などはありありと残っているので、人間としての社会活動はできるんです。だから、認知症があろうがなかろうが、認知症に限らずどの病気でも同じですけど、できることは周りの人たちと一緒にして、病を抱えた人生をいかに充実させていくかを社会で考えていけば、非常に良いと思います」

■真面目に話しているのに笑いが…本人・周囲の人、それぞれのツラさ

少しずつ変化する中で…

 症状が少しずつ変化していく中で、橋さんが一番つらかったのは、同じ話を繰り返すので観客から笑いが出ることだったといい、橋さんは「真面目に話しているのに何を笑っているんだ!」と思っていたそうです。その後、一緒にステージに立つことになった石田社長は、「お客様とのトラブルを少なくして、笑われるなら、“僕が笑われるほうが面白いぞ”という雰囲気を作ってきた」と話しています。

「今は9月だぞ」と3月に

 そして、大きな変化があったのが、2025年3月のこと。石田社長が「橋さん、今日は何曜日?」と聞くと、橋さんは「わからない」と答え、次に「今は何月?」と聞くと、「今は9月だぞ。俺を病人だと思って、チェックしているのか?」と答えたといいます。石田社長は、「本人が一層疲れるのかと思い、同じ質問を繰り返すのはやめた」と話しています。

Q.認知症の方が言ったことに対し、「何を言っているの?」「違うよ」などと言うのはダメだと、よく聞きますね?
(新井院長)
「そうですね。本人は真面目に、そのときに初めて話すという思いで話しているわけなので、そこをチェックするようなことは、例えるなら傷口に塩を塗られるような痛みとして残りますので、かえって不安定にさせる原因になります」

■予防できる?遺伝する?気になる認知症のギモン

アルツハイマー型認知症とは?

Q.昔のことは覚えているのに、直近のことから忘れていくと聞きますが、なぜですか?
(新井院長)
「これは特徴的な症状で、医学的に言うと『リボの法則』といいます。現在から過去にのぼって記憶が失われ、古い記憶は残るのが、リボの法則の典型的な現象です」

Q.徘徊は夕方や夜が多いと聞きましたが、なぜですか?
(新井院長)
「『夕暮れ症候群』といって、昔の記憶しか残っていないので、今いる場所は自分の家ではないと思い、夕方や夜になると寂しくなって、『自分の家に帰りたい』という気持ちが表れてきます。ご本人にとっては、徘徊というよりも目的を持った行動です」

Q.予防にはマージャンが良いと聞いたのですが、いかがですか?
(新井院長)
「ポイントは、ご本人に合った楽しみ方ができるかどうかです。意欲を持ってやれるなら、マージャンは良いと思います。マージャンやトランプ・囲碁将棋などの特徴は、人との交流の中で、相手の手を予測して、判断して、決断して、推考する能力を使うことです。アルツハイマー病はそんなに単純なものではないので、『これをしておけばアルツハイマー病にならない』というものはありませんが、“本人が好きなこと”が脳の活性化に一番つながります」

Q.恋をするのは、どうですか?
(新井院長)
「楽しむ・ワクワクするなど、健康な脳の活性化につながるなら良いと思います。ただ、これが悩み・ストレス・眠れない・食べられないとなると、マイナス効果です」

Q.遺伝はしますか?
(新井院長)
「これは最も重要なところで、特殊な『家族性アルツハイマー病』は日本では1%以下と少なく、『この遺伝子を持っているとアルツハイマー病になる』というのは、なきにしもあらずなんです。私は45年ぐらい医師をやっていますけど、1~2例しか当たったことがないです。遺伝はしないと思ってください」

(「情報ライブ ミヤネ屋」2025年5月29日放送)

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