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ロシアが「モルドバ」介入を示唆

【独自解説】プーチン大統領が考える「ルースキー・ミール(ロシアの世界)」はモルドバ侵攻に繋がるのか?国連事務総長の露・ウ訪問で戦況に変化は?専門家が分析

 ロシアのウクライナ侵攻から2か月。アメリカ・バイデン政権の閣僚2人が、侵攻後初めて首都・キーウを訪問しました。ゼレンスキー大統領との会談で取り交わされた内容とは?一方、ロシア軍の高官は、「特別軍事作戦が“第2段階”に入り、その目標としてウクライナの隣国『モルドバ』が含まれる」と言及。戦況はどこまで拡大するのでしょうか?ロシア外交・安全保障が専門の笹川平和財団主任研究員、畔蒜泰助(あびる・たいすけ)さんが解説します。

米・2長官のキーウ初訪問 狙いは?

バイデン政権の閣僚がキーウを訪問

Q.ブリンケン国務長官とオースティン国防長官が一緒にキーウへ行ったのも異例だと思いますが、2人で行った狙いと、ゼレンスキー大統領とはどのような話をしたのでしょうか?
(笹川平和財団主任研究員、畔蒜泰助さん)
「もちろん、一番良いのはバイデン大統領が行くことなのだと思いますが、さすがに安全上の問題がある中で、アメリカとしてはバイデン大統領をキーウには送れないということで、それに次ぐ立場の人を派遣したのだと思います。この2人が行ったということは、1つは大使の任命などの外交問題と、軍事的な支援、さらなる兵器の供与を約束した、ということだと思います」

笹川平和財団主任研究員・畔蒜泰助氏

Q.高官2人が陸路で行くということは、相当な警備が付いてきて、アメリカ軍も動いているかもしれない、これはロシアにとって脅威になりますか?
(畔蒜さん)
「恐らくアメリカの場合、この2人の高官をウクライナ軍に任せるということは、まずやらないと思います。そのため、当然アメリカ軍が何らかの形で関わっている可能性が非常に高いと思います。ロシアはそこも含めて注視をしています。逆にアメリカ側から言うと、彼らが行くことそのものが、ロシアに対しての一つのメッセージになる、ということだと思います」

ゼレンスキー大統領が“地下鉄の駅”で会見

Q.ゼンレンスキー大統領がキーウ市内の地下鉄の駅で記者会見をしましたが、これも何かメッセージがあるのでしょうか?
(畔蒜さん)
「まず、地下鉄でやったということは、やはり今、盛んにウクライナに対する軍事攻撃が行われている中でも安全性が高いということ、もう一つは、地下鉄が動いているのを見せることで『我々の都市はちゃんと機能しているんだ』というメッセージを国際的に送るという、二つの意味があるのだと思います」

Q.ゼレンスキー大統領は、「マリウポリの市民を全滅させるなら、停戦に向けた交渉をやめる」と発言している一方で、「外交的解決のためにはプーチン大統領との会談が不可欠」としてパイプだけは残しているんですが、アメリカの追加支援もあってどんどん武器が供与され、東部では長期戦になっています。ゼレンスキー大統領が言っているところが相反していますが、どう読めばいいのでしょうか?

(畔蒜さん)
「ロシア側は、今回の戦争からの出口戦略が明確に描けていないのではないかと思います。ロシア側がそうだとすると、ウクライナ側もそういう状況になっている可能性が高いです。つまり、戦争そのものの勝ち負けもですが、それぞれの国の国内でそれが支持されるのかということも含めた合意でなければならないので、非常に難しいところだと思います」

ロシアは「モルドバへの軍介入」を実行するのか?

ロシア特別軍事作戦“第2段階”の方針

 4月22日、ロシア軍幹部は「20日から特別軍事作戦の“第2段階”に入った」と発表しました。「東部地域に加えて南部も完全制圧し、クリミアと東部の一体化を目指す」としています。さらに隣国、モルドバで「ロシア語を話す住民が抑圧されている」とし、ロシア軍の介入を示唆しました。ロシア軍幹部は、「陸でも海でも空でも、ロシア軍の技術的優位は明らか。特別軍事作戦は当然、成功する」と話しています。

「モルドバ共和国」とは?

 モルドバ共和国は、面積3万4000平方キロメートルで、九州よりもやや小さいくらいの国です。モルドバ人が多いのですが、ロシア人、ウクライナ人も少数いて、公用語はモルドバ(ルーマニア)語ですが、ロシア語も一般に通用します。1991年にソ連から独立宣言し、「中立主義」が憲法に明記されています。そして、そのモルドバのウクライナ国境付近にあるのが、「沿(えん)ドニエストル共和国」です。1990年に、ロシア系住民が多いこの地域が独立宣言し、その後武力紛争に発展しましたが、現在は停戦状態となっています。ここにロシア軍約1500人が駐留しているということです。25日夕方には、この地域の治安機関の建物で爆発があり、窓が割れるなどしました。

Q.「ウクライナの主要部分を押える」という作戦が失敗したから、範囲を広げて「モルドバまで侵攻しよう」というのを“第2段階”と言っているのでしょうか?
(畔蒜さん)
「実は今回のこの発言をした軍の幹部の所属が、連邦の中央管区なんです。このウクライナ侵攻のオペレーションを実際にやっているのは南の管区なので、この軍事オペレーションを担当していない幹部が発言をしているんです。だとすると、本当に軍全体として南部まで全部をやるつもりなのか、今回の第2段階のゴールとしてそこまで本当に設定しているのかというのは、今の段階で考えると少し非現実的だと思います」

プーチン大統領と「ロシア正教会」との関係は?

 4月24日、ロシアはプーチン大統領がロシア正教会のイースター(復活祭)に参列したと報じました。プーチン大統領とロシア正教会のトップの考え方としてあるのが、「ルースキー・ミール(ロシアの世界)」というものです。これは、ロシア語を話す人やロシア正教会を信じる人などが住む地域は「ロシアの世界」だと考えることです。

畔蒜さんは、「今回の侵攻はプーチン大統領が考える『ルースキー・ミール』。キーウはロシア正教会において源流の場所で、さらにドンバス地方、南部・オデーサ、モルドバの一部地域なども抑えたい場所」だということです。

Q.このイースターのときに停戦をするという期待もあったのですが、全然関係なかったですね?
(畔蒜さん)
「そうですね。国連も停戦の呼びかけをしたわけですけれども、残念ながらロシア側はそれに応じなかったということだと思います。むしろ、やはりプーチン大統領が今回の戦争を始めるうえでの大きな背景としてある『ルースキー・ミール』という考え方が、改めてクローズアップされたということだと思います」

国連事務総長が露・ウ訪問、停戦合意前進となるか?

国連・グテーレス事務総長がロシアと会談へ

 国連のグテーレス事務総長は、4月26日にモスクワを訪れ、プーチン大統領、ラブロフ外相と会談し、人道目的の停戦合意などについて協議するとみられています。ウクライナへの訪問も調整中ということですが、これに対しゼレンスキー大統領は「まずはロシアに行き、それからウクライナに来るのは間違っている。この順番には正義も論理もない」としています。

Q.グテーレス事務総長が行くことで何か変わりますか?
(畔蒜さん)
「残念ながら大きく状況を変えることにはならないだろうと思います。ただ、やはり国連の事務総長として“何かやらなきゃいけない”ということなのだと思います。今の国連の事務総長には強制力はないですから、“お願いに行く”ということになります」

Q.国連が機能していないということは結局、ロシアという国とプーチン大統領を、西側は見誤った、ということなのでしょうか?
(畔蒜さん)
「そうですね。結果、このような形になってしまった。今から振り返ると、やはり“あのときがターニングポイントだった”というのが、いくつかあるんだと思うんですよね。残念ながら見誤ったということだと思います」

(情報ライブ ミヤネ屋 2022年4月25日放送)

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