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「Snow Man」チケットが約39万円、“闇バイト”が不正転売…「一般の素人が簡単に模倣」「わずか数時間で犯罪と関わり」“闇バイト”の新たな手口に、元警視庁刑事らが警鐘
2023年7月13日 UP
後を絶たない“闇バイト”による犯罪行為。2023年7月現在、金目的の強盗や詐欺だけではなく、狙いや目的、そして募集手口に変化が起きています。“闇バイト”の巧妙な勧誘方法とは?そして、もしも気づかず手を染めてしまったら?“闇バイト”に詳しい犯罪ジャーナリストの石原行雄氏、元警視庁刑事の吉川祐二氏のダブル解説です。
アイドルのチケットが30倍!悪質な「転売ヤー」にも“闇バイト”
2023年4月、人気アイドルグループ「Snow Man」が出演する舞台のチケットを約39万円(販売価格の30倍)で転売したなどとして、「チケット不正転売禁止法違反」の疑いで無職の男(25)が逮捕されました。
男と仲間の2人は、知人やSNSを通して“買い子”を募集し、ファンクラブに入会させるなどして実際にチケットを入手できた“買い子”には、1000円~1万円の報酬を渡していました。
Q.“買い子”に応募した人の「罪の意識」は、極めて希薄なのかもしれないですね。
(犯罪ジャーナリスト・石原行雄氏)
「そこが闇バイトの一番問題な部分です。『指示されたことをして、チケットを渡す』だけなので、あまり犯罪に加担している意識がなく、気軽にやってしまいます」
しかし、“買い子”も犯罪です。2019年に施行された「不正転売禁止法」には、「興行主等の同意のない有償譲渡を禁止する旨が明示されたチケットを、販売価格を超える価格で転売してはならない」、罰則については「1年以下の懲役、もしくは100万円以下の罰金、またはその両方が科される」とあり、“買い子”も共犯者の扱いとなります。
男(25)は、“買い子”と契約書を交わしていました。そこには、「第三者に内容をもらしてはならない」「秘密をもらしたら、違約金10万円を請求する」「悪質な過失で損害を出したら、損害賠償10万円を請求する」といった内容が記載されていて、事前に身分証の写しを提出させていたということです。
Q.一番怖いのは、「身分証の提出」ですよね。
(吉川氏)
「身分証明書を相手に渡していることで、自分や家族が何らかの被害を受けることを警戒する。そこが指示役側の狙いです」
また、高額転売と知った上で購入する側にもリスクがあります。政府広報オンラインによると、「会場で身分証の提示などを求められる場合があり、入場できない」「そもそもチケットが届かない」「公演中止・延期の補償が不十分」といったリスクがあるということです。
(石原氏)
「なぜ“ダフ屋行為”がなくならないかというと、結局は買う人がいるからです。今は対策する側も進化していて、例えば『リセールサイト』という余ったチケットを公式的に売り買いできるサイトがあるので、チケットが欲しいとき・チケットを持っていたが行けなくなったときは、そういったサイトを利用することで、反社会的勢力に加担しなくて済みます」
転売は、チケットだけにとどまりません。他人のクレジットカード情報を使い、フリマアプリなどで約1億円分のゲーム機や家電製品などを購入、さらにそれらを転売して不正な利益を得たとして、「電子計算機使用詐欺の疑い」で会社員の男(39)ら男女5人が逮捕されました。これまでに400人ほどのカードが不正利用されたとみられていて、男らは、指示役がSNSで募集した“実行役”でした。
2022年のクレジットカード不正利用被害額は436億7000万円で、うち94.3%が「番号の盗用」による被害でした。
カード情報を盗み出す主な手口は、偽の電子メールなどから偽のウェブサイトに誘導し、カード情報・個人情報を盗み出す「フィッシング」、そして、特殊な機械でカード情報を読み取り、偽造カードを作って不正使用する「スキミング」があります。
Q.スキミングは「現行犯でなければ逮捕できない」という話も聞いたりしますが、事実なのですか?
(吉川氏)
「現行犯でなければダメ、というわけではありません。しっかりと裏付け捜査を行えば、過去に起きた事件であっても捜査することは可能ですが、『現行犯でなければダメだ』といろんなところで話が出ていて、被害に遭っても諦めてしまう人が多いです。内容を警察にきちんと話すことで、捜査は進められます」
「レンタカーを借りただけ」で逮捕、細分化される“闇バイト”の役割
2023年5月に起きた高級腕時計店の強盗事件では、逃走に使われたレンタカーを事件前日に借り、SNSで指示を受けて駐車場に置いた「強盗ほう助などの疑い」で、会社員の男(33)が逮捕されました。男は、「強盗に使われるとは知らなかった。車を借りる前に、レンタカー代や交通費として、トイレの個室に置かれた約2万円を受け取った。数十万円の報酬をもらう予定だったが、結局もらっていない」と供述しています。
Q.一言に“闇バイト”といっても、役割が細分化されているのですね?
(石原氏)
「それぞれがそれぞれの小さな目的を達成するという、組織的に役割が細分化されています。『レンタカーを通常の手続きで借りて、指定された場所に、鍵を付けたまま置くだけ』というのは、なかなか犯罪性を認識しづらいです。悪い言い方をすれば、良心の呵責なしにできてしまうことなので、犯罪をやりやすくなっていると思います」
また、強盗のターゲットも貴金属から別の物に移行しているといいます。2023年4月、東京・秋葉原のカードショップに侵入し、ポケモンカード約1500枚を盗んだ疑いで、35歳の男が逮捕されました。被害総額は115万円で、「指示役がいて実行した」と供述しているということです。さらに愛知・東浦町では、63歳の男性宅に侵入し、「遊戯王」のトレーディングカードなど約3万3000枚(被害総額3800万円相当)を盗んだ疑いで、23歳と25歳の男が逮捕されました。警察は、“闇バイト”による犯行を疑い、2人に指示した人物がいるとみて調べています。
(吉川氏)
「貴金属や腕時計には製造番号が書かれているので、転売が難しいです。そのため、窃盗犯の中には、換金の必要がない現金だけを狙う人もいます。しかし、トレカについては、高額なものが出回っているのに製造番号などもなく、犯人にとっては非常に使いやすい物ですので、このようなものに移行してきているのだと思います」
(石原氏)
「秋葉原の事件は総額被害額が115万円で、それをちまちま売っていかなければならないと考えると、反社会的勢力がそんな小さいヤマで危ない橋を渡るとは考えにくく、 “闇バイト”の構図を模倣した素人がやった可能性があります。悪ふざけの延長で殺人事件にまで発展した“闇バイト”のシステムを、一般の素人が簡単に模倣できてしまう、つまり、反社会的勢力だけではなく一般人も“闇バイト”を利用して、何らかの犯罪を行えてしまう問題点が炙り出されたと思います」
「何を悩んでるの?」変化する“闇バイト”勧誘の手口
“闇バイト”への勧誘の手口も変化しています。これまでは、高額報酬をうたった求人をSNSに投稿し、それに反応した人を闇バイトに誘っていくものでした。
しかし、石原氏の取材によると、SNSに「お金に困っている」と投稿すると、数分後には「まだお金にお困りですか?」といった内容のダイレクトメッセージが届き、住所や年齢など具体的な質問をされたあと通話アプリに誘導され、具体的な仕事と報酬の交渉をされたということです。
石原氏は、「わずか数時間で犯罪と関わりを持つ状況になる。何となく書き込んだことで、簡単に犯罪の入り口とつながってしまう」と警鐘を鳴らしています。
Q.一般人がSNS上で何気なく投稿したことに、“闇バイト側”が反応してくるのですか?
(石原氏)
「そうです。これまでは、自分から“闇バイト”を募集するような投稿を探して、『何か稼ぎ方ありませんか?』とコンタクトを取るというものでしたが、悪い仕事が向こうからどんどん押し寄せてくるのが新たな手口です」
さらに吉川氏は、「そういったダイレクトメッセージは、友だちのように『何を悩んでいるの?』などとソフトな会話から始めて、食いつきを確認する」といいます。
(吉川氏)
「わざわざ募集をかけなくても、『お金がない』など弱みを持った人の投稿を見つけてコンタクトを取り、自分たちの仲間に引きずり込んでいきます。犯罪者にとって、非常にやりやすい手口といえます」
こちらの何気ない投稿に向こうからコンタクトを取ってくるということですが、警視庁が“闇バイト”を見抜くポイントを3つ紹介しています。
1. 具体的な仕事内容がよく分からない求人
―「ハンドキャリー」「書類を受け取るだけ」「調査業務」「便利屋」など
2.「誰でも簡単にできる」ことをアピールし、報酬は高額な求人
―「簡単」「(配達業務だけど)免許不要」など。「高額 即金」「日給5万円」など好待遇な点に注意
3.身分証の写真、口座情報、親族の連絡先などを要求してくる求人
―「履歴書の代わりに、免許・パスポートの写真を送ってください」など
もし“闇バイト”に申し込んでしまったら、警察相談ダイヤル「#9110」または、警視庁少年相談係のヤング・テレホン・コーナー「03-3580-4970」に電話してください。
Q.「一度やってしまったら、もう戻れない」と思うのではなく、深みにはまらないために、ぜひ相談してもらいたいですね。
(吉川氏)
「『一度やったら抜けられない』ということは、ないです。きちんと相談をして、ちゃんとした意見を聞けば、抜けることは可能ですので、ダイヤル相談することが必要です」
(「情報ライブ ミヤネ屋」2023年7月11日放送)


