記事
【独自解説】北朝鮮情報発信“7つの異変”金総書記の策略か? 傍らに“謎のモザイク男”娘のジュエ氏の着るブランド品、広報動画にBoAの楽曲そのものが!? 李教授が解説
2023年4月25日 UP
北朝鮮の情報発信にいま7つの異変があるといいます。南北間の通信ラインが遮断されているという異変に、観光の宣伝でタブーを犯すという異変。そして、金正恩総書記の視察にモザイク処理が施された男が登場したり、愛娘の服装が物議を醸したり。さらに、金正恩総書記自身がまさかの姿で登場したかと思えば、献身的な将軍像に疑問の声が上がり、極めつけはパクリ疑惑まで。ただ、数々の異変のウラには、金正恩総書記の策略が隠れているようです。このあと、北朝鮮情勢に詳しい龍谷大学の李相哲教授が解説します。
異変その1…南北間の通信ラインが遮断
まずは異変のその1です。南北間の通信ラインが遮断されています。今月7日から北朝鮮が、韓国との、連絡事務所と軍通信線の定時連絡に21日現在15日間応じない状態が続いています。この定時連絡とは、南北間の意思疎通を図るため、午前と午後の1回ずつ業務の開始と終了を連絡するもので、李教授によると定時連絡は「偶発的な衝突で戦争に発展しないよう不測の事態に備えた重要な連絡線」という意味があるとのことです。今回の遮断の理由を「米韓の合同軍事演習や韓国による人権報告書の公開に反発か」と指摘しています。
Q.こういう連絡線があるということに驚くのですが…
(龍谷大学 李相哲教授)
「軍同士の連絡線は以前からありました。また、文在寅前大統領の頃は、金総書記の執務室との間にホットラインも引かれています」
北朝鮮が大きく反発したのは「北朝鮮人権報告書」の公開だったといいます。この報告書は、2017年~2022年に脱北者508人から聞き取った証言を基に、北朝鮮の約1600件に及ぶ人権侵害の事例をまとめたものです。文在寅政権時代は、北朝鮮に配慮する形で非公表でしたが、尹政権になって初めて公開されました。
その驚きの内容は、「韓国の映像を視聴し、アヘンを使用したとして青少年6人が銃殺された」というものや、「ハイヒールや化粧品など、韓国製品をこっそり売った逮捕者らが公開銃殺された」というもの。また、「韓国ドラマが大量に入ったUSBを流布した男性が公開銃殺される」などのケースがあったそうです。他にも、「家で踊っていた際に金日成氏の肖像画を指さした、妊娠6か月の女性が公開処刑された」ということや、「身体障害者や精神疾患を持つ人に対し病院などで人体実験が行われた」という報告があります。
Q.金日成の写真を指差すだけで公開処刑ですか…
(李教授)
「これは『不敬罪』になります。北朝鮮は、金一族に対する忠誠心で保っている国ですので、その忠誠心がないと国は維持できません。ですから一番重い罪になります」
Q.文政権が隠していた理由はなんですか?
(李教授)
「北朝鮮相手に人権問題を持ち出すと、話し合いに応じてもらえないのです。文政権は金正恩の機嫌を取ることしかしていないのです」
異変その2…韓国の歌姫の曲をPR動画に使用
2つ目の異変は、平壌市内をバスで巡るツアーの中国向けのPR動画で、エンディングに近づいたころ。旅行を終え、観光客がバスに乗って帰路につくシーンで、流れるBGMが日本でも人気を誇る韓国の歌姫・BoAさんの曲なのです。その曲は、日本で発売されたアルバムに収録された曲で、ミヤネ屋では日本のレコード会社やレーベルに問い合わせましたが「一切関知していない」という返答でした。なぜ、あえて北朝鮮国内では取締りの対象であるはずの韓国の曲を使ったのか?李教授は「北朝鮮は『タブーなど存在しない開かれた国である』ということや、世界のトレンドに敏感であることをアピールすることが狙い」ではないかと分析しています。
Q.北朝鮮国内はだめだが、中国向けならいいということですか?
(李教授)
「北朝鮮の音楽だと、中国人には受けが悪いと思います。それに北朝鮮には著作権という概念がありません」
異変その3…影武者か?顔にモザイクの男
異変のその3です。先月20日、朝鮮中央テレビが、敵の主要施設に対する核攻撃を想定して、戦術弾道ミサイルを発射する、戦術核攻撃の総合訓練の様子を報じました。金正恩総書記はこの訓練で、「敵による侵略の影が日を追うごとに大きくなっている。今日の形勢では、我々が核戦争抑止力を大幅に増加させることが求められている」などと、さらなる軍事行動を懸念させる発言をしたのですが、視察団の一人に注目が集まりました。それが、サングラスをかけ、顔にモザイク処理が施されるという、極めて異例の姿で写真に写っているこの人物です。写っているのは、1枚だけでなく、別のシーンでも登場しています。さらに別の写真では、同一人物とみられる男の鼻が露出している場面もありました。韓国の聯合ニュースは、戦術核運用部隊を総指揮する隊長、もしくは、まだ公開されていないミサイル総局長の可能性を指摘しています。また、金正恩総書記の“影武者”ではないかという声も聞こえてきます。
Q.なぜモザイク加工しているのですか?
(李教授)
「わざとモザイク処理を施すことで『秘められた“すごい部隊”があるのでは』などと注目を集め、諸外国をかく乱させる狙いがあるのではと考えます」
異変その4…娘のジュエ氏の黒いコートはブランド品の「クリスチャン・ディオール」
4つ目の異変は、4月13日、新型ICBM=大陸間弾道ミサイル「火星18」の試験発射が行われ、ジュエ氏とみられる娘も黒いコートを着用して同行したと報じられたのですが、この姿が物議を醸しています。朝鮮日報によると、このコートがフランスの高級ブランド、「クリスチャン・ディオール」の製品だということで、その価格は1900ドル日本円にして、約25万5000円だそうです。
Q.北朝鮮の物価だともっと手の届かないイメージですし、経済制裁で買えないのでは?
(李教授)
「北朝鮮の在外高官は、みんな金正恩にゴマを擦っているので、様々な高級品を送って来るのです。大使館全体がそんな仕事しかしていません」
韓国でこのジュエ氏の服装に対して、「国際社会に向けて『北朝鮮に対する制裁は通用しない』というメッセージでは?」という声や、「飢え死にする人が出るほどの北朝鮮でも『白頭血統』(金一族)は、ブランド品の服を着ていいのか」などという声が上がっているそうです。
しかし、元・北朝鮮の外交官で、2016年に家族とともに韓国へ亡命した過去を持つ韓国の政権与党「国民の力」の幹部・国会議員の太永浩氏は、「そもそも北朝鮮の住民は、ジュエ氏とみられる娘が来ているコートがブランド品であることをわかっていない」と話します。そして、「北朝鮮の住民や同世代の子は、コートより、むしろヘアスタイルが気になっているのでは」と指摘します。その理由は、北朝鮮では、男性に対して「男の切りそろえられた髪は優雅でかっこよく野心的で情熱的」だとして、短髪であるよう指導し、女性に対しては、「女が髪をおろしてボサボサにするのは革命時代の人間にふさわしくない」としたうえで、「女子学生は短く切るか、三つ編みであるべきと指導しています。太永浩氏は、子どもたちの中で、「なぜ金正恩の娘は髪型が自由でいいのに私たちはダメなのか、なぜ私たちはこんなに髪を短く切らないといけないのかと混乱が起こるだろう」と推測しています。
Q.ジュエ氏は特別なのですか?
(李教授)
「子どもだけでなく大人でも、こういうロングヘアは“資本主義的”なんです。北朝鮮風に言うと『ブルジョア思想に感化されている』ということになります。北朝鮮の国民は『なぜそれが許されるのか』と疑問を持つと思います」
太永浩氏は、ジュエ氏を表舞台に出す理由を「金正恩総書記の後継者なのかどうかは断定できない」と前置きしたうえで、「金正恩総書記は、『私が突然死んでも4代世襲が可能だ』と北朝鮮の住民に示しているとみられる」と分析しています。
Q.最近、ジュエ氏の露出が目立ちますよね?
(李教授)
「ジュエ氏が後継者というより、金正恩総書記が“第4代”に注目してほしいという意図があるのでは?と思います」
異変その5…金正恩総書記の上着に汚れ
異変の5つ目です。北朝鮮メディアは、先月16日に行われたICBM(大陸間弾道ミサイル)「火星17」の発射訓練の様子を公開しました。この様子を視察していた金正恩総書記の左腕に、白い“汚れ”のようなものが確認できます。さらに、別のところにも、白い“汚れ”のようなものが付着していることがわかります。アメリカの北朝鮮専門家の一人は、「汚れに気付かなかった罪で、金正恩総書記担当の警護員が、重労働もしくは死刑に処せられる恐れがある」との見解を示しています。過去には、「金正日総書記の机に腰掛け、タバコを吸った部下が銃殺された」という情報もあるとしています。一方、「コリア・レポート」編集長の辺真一氏は、「金正恩総書記が来るということで塗りなおした発射場のペンキがついたかと思う。金総書記は汚れを気にも留めないのでは」との指摘。李教授も「現場の兵士と共に尽力するという親近感を演出することもできるので、汚れが問題になることはない」とコメントしています。
(李教授)
「こういう報道写真は、何重にもチェックして出しますので、この汚れが問題だということはないと思います。それ以上に現場で汚れを気にせず指揮を執っているというプラスイメージを狙ったものだと思います」
異変その6…金正恩総書記 肌着のようなシャツ姿公開
第6の異変は、3月25日の労働新聞が、「偉大なる慈父の一日」として掲載した記事です。ある日の夜明け、幹部が金正恩総書記に「少しでも休んでください」と懇願した時、金正恩総書記は「一般的に『きょう』と言えば、一日の仕事が終わる夕方、あるいは24時を指すが、私は『きょう』を翌朝5時までとみて仕事をしている」「若い頃から徹夜で仕事をするのが習慣、徹夜で悩んで問題が解決すると、溜まっていた疲れが一瞬で消える」と答えたそうです。2022年10月には、肌着のようなシャツ姿で、髪も整えていない異例の姿を公開し、「自分には常に2つの望みがある。一つは人民が何一つ不自由ない豊かな暮らしをする共産主義理想郷を一日でも早く実現すること。もう一つは寝ることだ」と述べていました。高麗大学の南成旭教授は「「実際は高血圧などの、薬の副作用で不眠症になった可能性が高い」と指摘していて、李教授も「独裁者ならではの身の恐怖を感じるなど精神的なストレスを抱えて、眠ることができないのでは」と推測しています。
Q.クーデターや暗殺で、いつ殺されるかわからないというストレスはかなりのものですよね
(李教授)
「独裁者は特にそうですよね。金正恩総書記は、夜に酒を飲んで泣いたり、常に寝る場所を変えたりしている、という情報もあります」
異変その7…北朝鮮NASAのロゴ盗用疑惑
最後7つ目の異変。金正恩総書記は4月18日、娘とされる“ジュエ氏”とともに、国家宇宙開発局=NADAを視察しました。その際、完成したとされる軍事偵察衛星1号機の打ち上げの最終準備を急ぐように指示を出したのですが、中央日報は、NADAのロゴがアメリカ航空宇宙局=NASAに酷似していて、意図的にまねたのではという意見もあると報じました。
Q.北朝鮮の国民がNASAのロゴを知っているのでしょうか?
(李教授)
「世界に向けてPRです。『我々もアメリカのNASAのようなものを持っている』という自慢だと思います」
Q.この軍事偵察衛星はちゃんとした人工衛星なのでしょうか?
(李教授)
「今まで北朝鮮は、“人工衛星と称するもの”を5基打ち上げています。その中で、2012年の12月に打ち上げた衛星は、一応軌道に乗っています。ただ、アメリカ宇宙局は『通信は確認できない』とコメントしています。今回は、軍事偵察衛星ですから金正恩総書記は本気だと思います。これがないと核システムは完成しないので、念願の事業です」
(情報ライブミヤネ屋2023年4月21日放送)


