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【独自解説】京王線刺傷事件“ジョーカー”男の初公判 量刑を左右する殺意の対象者数、争点の「犯罪がいつ始まったか」はどう判断?専門家が解説
2023年6月27日 UP
2021年10月31日ハロウィーンの日、東京・京王線の車内で映画の悪役「ジョーカー」に扮した男が、刃物で乗客を刺し、火を付けたとされる事件の初公判が6月26日に行われました。被告は起訴内容を一部否認しています。この裁判の争点などを亀井正貴弁護士が解説します。
2021年10月31日の午後8時ごろ服部恭太被告は、京王線の特急の3号車で刃渡り約30cmの刃物で男性の胸を刺し、男性は一時重体となりました。次に服部被告は5号車に移り、乗客12人にライター用オイルをまいて火を放ちました。その後、被告は2号車で現行犯逮捕されています。この事件で、合わせて13人がけがをし、服部被告は「殺人未遂」「銃刀法違反」「現住建造物等放火」の罪で逮捕起訴されましたが6月26日の初公判で、起訴内容の一部を否認しました。「刺した男性を傷つけたことやナイフを携帯したこと、電車に火をつけたことは認めます」としていますが、「刺した男性以外が殺人未遂になるかは分かりません」と話しています。
今回の裁判では、犯罪がいつ始まったのかで対立しています。検察側は、「ライターに点火をした時点」で犯罪が始まったと主張しています。その時点で「12人を焼死させる危険性があったため殺人未遂罪に当たる」としています。対して弁護側は、「ライターを投げた時点で、12人はすでに退避していて、居たのは別の3人程度だった」ということで「殺人未遂罪には当たらない」と主張しています。
Q.犯罪がいつ始まったかが争点ですが、どう判断するのですか?
(亀井正貴弁護士)
「この事件の場合、おそらく殺意は強固だったと思われるので、主観的な立証の問題ではなくて、客観的な実行行為があったかどうかになります。実行行為がどの時点かというのは昔からいろいろ争われています。今回ですと、オイルを準備する・オイルをまく・ライターに点火する・それを投げると段階があります。『どの段階を実行の着手とするか?』という判断の問題になります。一般的には『犯行の一部や犯行の一部に密接に関連する行為』と抽象的に定義されていて、『実質的に危険性のある行為』としか判断基準がありません。この中でどの時点を『実質的に危険性のある行為』とみるかがポイントです」
Q.実行の着手の判断によって何が変わるのですか?
(亀井弁護士)
「例えば、実行の着手が認められなければ、12人に対する殺人未遂がなくなってしまいますので、量刑が10年を切ってくることが考えられます。13人の殺人未遂となると、10年以上15年を超える可能性があります。実行の着手の判断は量刑に非常に大きな影響を及ぼします」
Q. 実行の着手の認定は難しいのですか?
(亀井弁護士)
「放火殺人の場合は、例えばビルに放火して数十人を焼こうとした場合、具体的な対象はいないし、住民は逃げられるかもしれませんが、『実行の着手あり』とされ、数十人の殺人未遂が成立します。一般の殺人と違い放火は延焼していく危険性もありますので着手は認められやすいのですが、着手のタイミングが問題です」
服部被告は事件後の供述で、「ハロウィーンだから人が多くいると思った。上りのほうが人が多く走行時間が長いから逃げられないと思い、特急を選んだ」「2か月前の小田急線の事件では、サラダ油で火がつかなかったのでライター用オイルをまいた。スプレーで火を大きくしようと思った」と話しています。実際に被告は、約3.5Lのライター用オイルをペットボトル5本に分けて所持していました。
Q.明らかに計画性が見られますし、現場では爆発が起きてパニックになっています。結果として死者は出ていませんが、裁判員など一般の人の感覚と弁護人の主張が合わないと思うのですが…
(亀井弁護士)
「弁護人が言っている主張事実が正しいかどうかという問題もありますし、おそらく放火殺人としては認定されやすいと思います。ただその危険性だけをもって量刑するわけではなく、危険性は量刑の1つの判断材料なので、あくまで客観的にやったことがどうかがポイントです。おそらく被告は、全員殺してやろうと思っているので殺意の問題ではなく、弁護士が法律上分析をして、着手のタイミングと殺意の対象者数で争う組み立てをしたのだと思います」
(「情報ライブ ミヤネ屋」2023年6月26日放送)