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停戦協議に「進展」、双方の思惑は?

【独自解説】“前進”みせた停戦協議の裏でも続く国民への「洗脳工作」…ロシアの真の思惑を徹底分析、頼みの綱・中国への切り札は「台湾」!?

 3月29日に行われた、ロシアとウクライナの停戦協議で、ウクライナ側は「一定の進展があった」との認識を示し、一方のロシア側は「交渉の環境を整えるため、首都キーウ(キエフ)近郊での軍事活動を大幅に縮小する」と発表しました。

ロシア・ウクライナ情勢に詳しい大和大学・佐々木正明教授

 初めて“前進”をみせたかに思える今回の協議ですが、ロシア側はウクライナ側の提案をどのように受け止めているのか?真の思惑はどこにあるのか?ロシア・ウクライナ情勢に詳しい、大和大学の佐々木正明(ささき・まさあき)教授が徹底分析します。

ウクライナからの提案、露はどう動く?

停戦協議後の両国の発言(3月29日)

Q.ウクライナ側もロシア側も一定の前進・合意をみたと取れる発言がありますが、どうみますか?
(大和大学 佐々木正明教授)
「ポイントは双方から『前進した』という言葉が出ていることです。2月24日に開戦されてから、初めてこういう状況が芽生えたと思います。大きな山場を迎えていると感じます」

ウクライナ側の提案

Q.「安全保障と引き換えに、ウクライナはNATO加盟を断念し中立化する」という提案は、ウクライナ側が譲歩したということでしょうか?
(大和大学 佐々木正明教授)
「そうですね、これまでゼレンスキー大統領も似たような発言をしています。ただ気を付けなくてはいけないのは、今回の提案はウクライナ側から出ているということです。それをメディンスキー大統領補佐官はロシアに持ち帰ってプーチン大統領に伝えると言っています。つまりウクライナ側の提案のボールを、今はプーチン大統領が握っているということが判断できると思います」

Q.安全の保障を担う国にはNATO加盟国もあがっていて、NATOの東方拡大を嫌がっていたプーチン大統領が飲むとは思えないのですが。
(佐々木教授)
「その通りだと思います。これはなかなか認められないのではないでしょうか。ロシア側のメディアを見ますと『非核中立化をウクライナがのんだ。それは2月24日の時点でロシアがウクライナに求めたもので、ウクライナが妥協して認めた』ということしか報じていません。そもそも、この安全の保障を担う国々は、議会を通さなければならないです。ウクライナへの安全をどのように担保するのか、兵士を派遣するのかなど議題がありますので、これはまだ“提案の段階”とみた方がいいと思います」

Q.「クリミア半島の主権問題について今後15年かけて協議する」というのは、ウクライナ側がかなり折れたと思いますが、それ以外のロシアが侵攻した地域の話は出てきていないのを、どう読みますか?
(佐々木教授)
「細かく発言を見ていくと分かることがあります。まずウクライナ側は『ウクライナの主権、領土一体性は譲れない』そしてルハシンク(ルガンスク)、ドネツクについては、『停戦をしてから、この難しい問題を話し合いましょう』と言っています」

ロシア側の提案

「一方のロシア側の幹部は、『ロシア側の要求をすべてのまなければ停戦はしない』というようなことをメディアで言っています。つまり、このルハシンク、ドネツク、クリミアに関しては棚上げという形なのでは、と考えています」

赤色の部分がロシア軍支配地域(3月30日午前4時時点)

(佐々木教授)
「ゼレンスキー大統領はまず『ロシア軍は2月24日の前の段階まで引いてください』ということも言っています。そうなると、ウクライナ側の要求だと、ルハシンク、ドネツク以外は撤退しろということになります。一方で、あまり日本では報じられていないですが、ミコライウというのは今、ロシア化の準備がどんどん進められているんです。例えば、ロシアの通貨ルーブルをここに広げましょうとか、私は8年前にドネツクにいましたが、そのときまずロシア軍は、電波塔に行ってウクライナのテレビのチャンネルをロシア側にするということをやっていたんです。今のロシアが支配している地域でも、ロシアのテレビを流すということをやっています。ここの部分がどうなるかというのも一つのポイントだと思いますね」

“ドンバス地域”はどうなる?

Q.“ドンバス地域”は実行支配していて、「クリミア半島は15年かけて協議する」という提案をのんだ場合のロシアの思惑は、「東部から南東部にかけてはすべてロシアが支配しますよ、その後は話し合いましょう、そして停戦しましょう」ということですか?
(佐々木教授)
「そうですね。これはキーウの戦闘状態を見ますと、ロシア側は大損害を受けています。補給の問題があったり将校が亡くなるなど、ロシア側の損害が大きいと戦闘が続けられない。一方でマリウポリ奪還の激しさを見ても分かるように、是が非でもクリミア半島とドネツク、ルハシンクを結びたい、回廊を作りたい。その上で一時停戦をして、またキーウに圧力をかけたいという意図が見えると思います」

ロシアが軍事活動“大幅縮小”を表明

Q.ロシア軍はキーウからは引くと言っていますが、停戦協議中でも南東部に爆撃したりしているのは、つじつまが合わないですよね。つまり南部は是が非でも欲しいということですか?
(佐々木教授)
「おっしゃる通りだと思います。南部に集中しているのは、そもそも戦争が始まっても、キーウに攻撃していることはロシア国内では一切報じられていないんです。つまり、そこで損害が出ているとは全く報じられていない。ロシア側のメディアを見ますと、このルハシンク、ドネツク、そしてミコライウとか、南部の方の戦闘しか映されていないんです。『当初の予定通りで我々は被害や損害を受けていませんよ』ということも言っているので、そのような洗脳工作の一環もあると思います」

「失地回復」目指すプーチン大統領、中国を動かす策は?

プーチン大統領の“野望”

Q.プーチン大統領の目的は「失地回復」だということですが、超大国ロシアが経済面でも軍事面でも二流国、三流国ではだめだという強い思いが、ずっとあるんですね?
(佐々木教授)
「そうですね、歴史的なことを言いますと“大ロシア主義”というのがあります。ソ連時代はワルシャワ条約機構の国境、西側と接しているところまで、“大ロシア主義”というところだったのではないかと思います。プーチン大統領はソ連時代に生きてKGBの諜報員でしたので、その当時の頭の中が抜けない。そしてクレムリンの主として『自分はロシアの国父である。ソビエト連邦がなくなって、ウクライナもベラルーシもラトビアもエストニアも他国の国になった。これは失った地域である』というふうに論文に書いているのだと思います。ウクライナが、アメリカの手先になることや、NATOの傘下に入ることは、クレムリンの主として許せない事項だったんだと思います。そんな“大ロシア主義”を掲げている多くの層がいます。“保守派”と言ってもいいかもしれません。戦争後、プーチン大統領の支持率が上がったのは、そういった方々が絶賛をしているということです。プーチン大統領だけではなく、その層がいると思っていただいた方がいいと思います」

核攻撃のシミュレーション(アメリカ・ブリンストン大学)

Q.今回の停戦協議でロシアの核使用の可能性は下がったのでしょうか?
(佐々木教授)
「核使用はあまりにも代償が大きすぎます。プーチン大統領が使うといっても、これはショイグ国防相とゲラシモフ参謀総長が一緒に、『核を使う』というボタンを押さないと、核は使用できません。早い段階で“核抑止力”というのをカードとして使いましたが、今回のイスタンブールの停戦交渉を見た上で言いますと、ゼレンスキーに譲歩を迫るカードだったのかなと考えています。やはりプーチン大統領は、どんなことでもやる男であると。“譲歩”というのは“弱さ”ということを意味している。これはホドロフスキーという反体制派の方が言った言葉ですが、『核の脅しがあったからこそ、ゼレンスキーは今回譲歩してきた。そしてウクライナからこの非核中立化を奪い取ったんだ』ということを、“戦果”として言う可能性があるなと考えています」

ラブロフ外相 3月31日に訪中

Q.3月31日、中国の王毅外相とロシアのラブロフ外相の外相会談がありますが、これは何かが動くような気がしますが、いかがですか?
(佐々木教授)
「停戦をした後、ロシアというのは国家の運営をしていかなくてはいけない。はっきり言いますけど、今もう頼るのは中国しかないんですね。中国は、国益に基づいてロシアを助けるかどうかを判断すると思います。私が記憶する限り、プーチン大統領は台湾について中国の意向に沿うような発言はしたことがありません。中国が最も喜ぶ“台湾”というカードは使えると思います」

Q.ロシアのルーブルが下がって、ロシアの人たちが非常に生活に困っているので、中国が「人道的に経済支援します」と言ったときに、西側はそれについても圧力をかけられるのでしょうか?
(佐々木教授)
「この中国の制裁逃れの動きというのは、やはり西側、我々G7がどのようにチェックするかということを、枠組み作りとしてやらなきゃいけない。この制裁逃れに、中国がどのようなことをやってくるのかも、この中露の関係を推しはかる一つの教唆なのだろうと思います」

(情報ライブ ミヤネ屋 2022年3月30日放送)

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