記事

岸田首相「貯蓄から投資へ」

【独自解説】岸田首相「貯蓄から投資へ」“一億総株主化”に実現性はあるのか?専門家「営業的発言」「順番が違う」

 岸田政権が掲げる「新しい資本主義」。岸田首相の「貯蓄から投資へ」という発言や、自民党が提言した「一億総株主化」に注目が集まっていますが、これらは本当に実現可能なのでしょうか?お金の専門家・三井住友銀行元支店長の菅井敏之さんが解説します。

岸田首相発言の思惑と「一億総株主」の実現性

市場活性化を狙う「資産所得倍増プラン」

 日本の個人の貯蓄額は、世代などによってばらつきはありますが、平均1077万円。全体では約1000兆円に上ります。5月5日ロンドンで岸田首相は、「貯蓄から投資。我が国の個人の金融資産は2000兆円、その半分以上が預金・現金で保有されている。『資産所得倍増プラン』によって、眠り続けてきた1000兆円の預貯金をたたき起こし、市場を活性化するための仕事をしてもらう」と発言しました。

三井住友銀行元支店長 菅井敏之さん

Q.なぜ岸田首相は、ロンドンでこんな発言をしたのですか?
(菅井さん)
「ロンドンは国際金融都市ですから、金融マンがたくさんいますので、『日本には1000兆円の現金が預金としてあるので、たたき起こしたら稼げますよ』という営業的な発言だと感じました」

日・欧・米の家計の金融資産内訳

Q.海外の場合の個人資産は、預貯金よりも投資に回す金額が大きいですが、なぜ日本人は預貯金の割合が大きいのですか?
(菅井さん)
「日本人の場合、“お金を儲けたい”というよりも、“損をしたくない”というメンタリティーが強いので、『とにかくリスクを下げる』という国民性があると思います」

自民党が目指す「一億総株主化」

 さらに自民党は5月31日、「資産所得の向上を図って消費を拡大させるには、国民一人一人が『一億総株主』として、成長の果実を享受できることが重要だ」と提言しました。

反発する野党の意見

 この自民党案に対し、国民民主党の玉木代表は「一億総株主計画が“新しい資本主義”であれば、国会できちんとした説明をされたほうがいい。貯蓄から投資への推進はいいが、それが“新しい資本主義”と言われたら『?』が出る人は多いと思う」と発言。また立憲民主党の白参議院議員は「貯蓄のない世帯はこの『資産所得倍増プラン』の恩恵を受けられない。結局は、投資する余力のある金持ちだけが恩恵を受けることになって、格差社会がさらに広がるんじゃないか」と批判しています。

Q.所得が上がって将来の不安がなくなれば、「投資をしよう」となると思うのですが、今のように所得が増えないと、投資しようと思わないのでは?
(菅井さん)
「日本は大丈夫な国で、将来性のある企業がいっぱいあって、伸びる国だというメンタリティーがあって、なおかつ余剰資金があるから、それを投資しようとなるんですが…」

Q.お金がない人は、投資しようにも投資できませんよね。
(菅井さん)
「お金がない場合は、自動積立の定期預金をお勧めします。いきなりリスク商品を買うのではなくて、まずは150万・200万の安定資金を確保した上で、余剰資金を運用に回すと言うのならわかりますが、預貯金がない世帯が30%あるという中で『一億総株主』と言われても、言葉だけが躍っているように感じます。」

「資産所得倍増プラン」の問題点

「資産所得倍増プラン」の問題点

『ミヤネ屋』が行った、投資に関するアンケートによると、「現在投資をしていない」と答えた方が63%、「していると答えた方」が37%という結果になりました。「している」の理由で最も多いのが、「老後の生活資金」次いで「生活レベルの向上」さらに「病気・けがへの備え」「子どもの教育資金」などが続きます。一方で「していない」の理由は「リスクを感じる」が1位で、その後「知識がない」「資金がない」「興味がない」という意見が並んでいます。

Q.「リクスを感じる」や「知識がない」という方が多いのですが…
(菅井さん)
「国の制度などは、ちゃんと知っておくことが大事です。そして資産運用だけではなく、お金の借り方や管理の仕方など、“お金のリテラシー”を上げていくのはとても大事だと思います」

「貯金」に対する「投資」のメリット

 Q.では、貯金に対しての、投資のメリットはありますか?
(菅井さん)
「お金がたくさんあって、それを取り崩す人よりも、預金は少ないけれど、例えば家賃や株の配当などで毎月30万円・40万円定期的に入ってくる人の方が、気持ちが明るいです」

Q.「好きな会社に投資し続ける」という方法もあると聞きましたが…
(菅井さん)
「投資という点から考えますと、その会社に公共性があるか?収益性があるか?健全か?成長が見込めるか?などを総合的に見た上で、自分の好みと合わせて判断しないと、“ただの趣味”になってしまいます。『なぜそこに投資するのか?』を説明できるかどうかも、大事なことです。自分が理解できるものに投資する、ということです」

「資産所得倍増プラン」の問題点

Q.岸田首相の「資産所得倍増プラン」の問題点は?
(菅井さん)
「今の日本は世界の投資家から、“成長を諦めてしまった国”とみられています。そこには若者の貧困化に起因する“少子化”という非常に大きな問題があります。また、安全保障やエネルギー問題もあります。こういう国家の骨組みの問題を先送りしている中で、とりあえず1000兆円あるからそれを『たたき起こす』と言われても、順番が違うんじゃないかと思います」

(情報ライブミヤネ屋 2022年6月6日放送)

SHARE
Twitter
facebook
Line

おすすめ記事

記事一覧へ

MMDD日(●)の放送内容

※都合により、番組内容・放送日時が変更される場合があります。ご了承ください。

※地域により放送時間・内容が一部異なります。