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“皇帝・プーチン”が窮地に立つ、そのワケは?

【独自解説】プーチン大統領が史上最大のピンチ!国民が離れる“遠心力”とは? 孤立を極める中、「核」使用示唆から見える“最悪のシナリオ”

 9月21日、ロシアのプーチン大統領が出した、約30万人の「軍務経験のある予備役」を戦闘継続のために動員する“動員令”が波紋を呼ぶ中、親ロシア派が実効支配するウクライナ4州のロシア編入に向け住民投票が行われました。その結果は「賛成」が大多数を占めましたが、その一方で“皇帝”ともいわれるプーチン大統領は窮地に立たされているといいます。国民が離れる、“遠心力”とは一体どんなものなのか、また改めて示唆した「核」使用の懸念について、ロシアの深層を知り尽くす、筑波大学の中村逸郎名誉教授が徹底解説します。

ゼレンスキー大統領は「茶番劇」と批判 4州“編入”住民投票の行方

ウクライナ4州の“ロシア編入”の是非を問う「住民投票」

 9月23日~27日、ウクライナ東部・ドネツク州や南部・ヘルソン州など、4つの州で行われた、ロシア編入の是非を問う住民投票について、親ロシア派は暫定結果を発表し、約87%~99%がロシアへの編入に賛成したと発表しました。ロシア連邦議長は、ロシア併合の関連法案を「10月4日に検討する用意がある」と話しています。

ザポリージャ州では銃を持った兵が戸別訪問で投票を呼びかけた(9月23日)

 プーチン大統領は「住民の意思を尊重する」としていますが、ウクライナ南部・ザポリージャ州エネルゴダル市の市長は、「戸別訪問に同行しているロシア兵が、銃で投票用紙を指し示すなどして投票を強要している」と批判。また、ウクライナの情報当局も「住民が生活物資の支援とひきかえに、投票を強いられている」と指摘しました。

筑波大学 中村逸郎名誉教授

Q.親ロシア派という方もいると思いますが、もともと住んでいた方で、こういう投票のやり方をされては、「NO」と書けない人もいますよね?
(筑波大学 中村名誉教授)
「それに加えて、今回の住民投票はウクライナの4つの州内だけで投票所が開設されると思ったらそうではなく、モスクワ市内などロシア国内でも住民投票ができる状態になっていて、しかも一人で何回も投票ができるという状態でした。ロシアの国内メディアが報じていますが、『限りなく賛成のパーセンテージが100%に近く、もしかしたら120%に達するのではないか』という声が出たほどです。事前の世論調査だと、賛成は60%~80%という数字が出ていたのですが、今回は異常に高いということで、さすがにロシア国内でも『不正があったのではないか』という声がちらほら上がっています」

ゼレンスキー大統領は「住民投票」を批判(9月27日「国連安保理」会合時)

 この住民投票を巡り、国連安全保障理事会は9月27日に緊急会合を開きました。ウクライナのゼレンスキー大統領は、「住民投票は領土を盗むための試みで国連憲章に対する最も残忍な違反だ。もしロシアがこの偽造された住民投票を承認するならば、もうロシアの大統領と話すことはない」と述べています。また、アメリカのトーマスグリーンフィールド国連大使は、ロシアが併合を強行しても国連加盟国にウクライナ領土の変更を認めないよう求める決議案を提出、アメリカのブリンケン国務長官もロシアが併合に踏み切れば、さらなる追加制裁を行う考えを改めて強調しました。

Q.国際社会が見ている前でこのような投票をやったことは、制裁に繋がる逆効果だったと思われますが、これはプーチン大統領を追い詰めるのではないでしょうか?
(中村名誉教授)
「そうです。今までもSWIFTという国際的な決済システムからロシアの銀行の多くを除いていたのですが、ニュースによれば、さらに4つの銀行を取引停止にするということです。その中に『ガスプロムバンク』という天然ガスのための銀行があるのですが、そこをSWIFTから除外されるのは、プーチン大統領にとっては、国家財政を考えたときに、非常に大きな痛手になります」

皇帝が恐れる!?遠心力① 「予備役」大量動員に、国民激怒

ロシアの徴兵制度とは

 プーチン大統領は9月21日、予備役の一部を戦地へ送り出すという「動員令」を発令しました。ロシアの徴兵制度は18歳~27歳の男性が対象で任期は1年です。予備役は、兵役を終えた人など、軍隊経験がある一般市民で、ショイグ国防相は「予備役は総動員すれば2500万人いる」と発言、政府は「学生を除いた30万人を動員する」と発表していますが、独立系のメディアは、「100万~120万人が動員される」と報じ、国民の不満は爆発しています。モスクワ・サンクトペテルブルクなど43の都市で抗議デモが起こり、9月21日~26日の間に2398人が拘束されているということです。

市民動員で相次ぐ“脱出”に厳罰化

 ロシア国内では出国チケットの売り切れが相次ぎ、約3500円で「腕の折り方を教える」サイトの検索が急上昇しています。さらに、動員令発表の翌日には現金の引き出しが増え、流通する現金は前日の9倍になったということです。プーチン大統領は、9月24日に「兵役に関する法律」を成立させ、兵役逃れや戦時の脱走に対する罰則も厳しくしたということです。

(中村名誉教授)
「オリガルヒと呼ばれているプーチン政権の大金持ちは飛行機のチケットを買おうと思っても完売の状態なので、独自にビジネスジェットを1人当たり300万円でチャーターして、1日に50便が飛び立っているというニュースが入ってきています」


Q.予備役の人たちは、即ウクライナの最前線に立たされるのか、手薄になった場所に派遣されるかは分からないのでしょうか?
(中村名誉教授)
「そうです。ただ、先週CNNが報じていますが、現場の今の兵士たちは士気が落ちてしまって、めちゃくちゃな状態なんです。そして、プーチン大統領はウクライナに対して物資を補給している責任者の国防次官を解任しました。現場の兵士たちは無線でお互いに責任をなすりつけ合って、大喧嘩しまくっていて、今回送られた人たちが果たして役に立つかってことなんです」

「動員令」発令のキッカケとは?

 中村名誉教授は「動員令発出の可能性をこれまで14回否定してきたが、今回踏み切ったのは国内の反対運動が高まったからではないか」としています。反戦の動きとして、9月3日に行われたゴルバチョフ元大統領の葬儀に並ぶ人が多く、2時間の予定が4時間に延長されたこと、そして9月11日に行われた統一地方選では、投票用紙に反戦のメッセージが多く書かれていたことなどをあげています。

Q.なぜゴルバチョフ元大統領の葬儀に並ぶ人が多かったのでしょうか?
(中村名誉教授)
「ゴルバチョフ元大統領というのは、東西冷戦の終結、ソ連社会の民主化をやった人で、今のプーチン政権と全く逆ですから、ゴルバチョフ元大統領の葬儀に集まったっていうのは、単にゴルバチョフ元大統領を悼むだけではなくて、反プーチンの人が集まったと捉えるべきです」

Q.今回、動員令を出したのはプーチン大統領の判断なのか、側近の強硬派に押し切られたのか、どちらでしょうか?
(中村名誉教授)
「押し切られてプーチン大統領自身が強硬派になってしまったということだと思います。14回、ずっと先延ばし、先延ばしして、そして追い込まれたプーチン自身が打ったのが今回のタイミングということです」

皇帝が恐れる!?遠心力② “経済崩壊”の足音に、国民悲鳴

ロシアの主要産業は制裁の影響で“壊滅的”

 ロシアのスタティスタ研究所が9月15日に発表した最新、8月のインフレ率は14.3%でしたが、国際ニュース通信社ロイターは、「市民が感じるインフレはこの数値の倍以上だ」と報じています。ロシアの主要産業も壊滅的で、航空業界では、アエロフロート社が所有する飛行機の8割が欧米製ですが、経済制裁を受け部品が供給されないため、今ある飛行機を解体して、部品を再利用するような状況だと報じられました。また、経済制裁の影響でロシア国内の乗用車の生産は96.7%減少しました。市民の食についても、ロシア最大の塩の輸入商社が、カザフスタンの鉄道輸送全面禁止措置のため岩塩が輸入できず、モスクワは塩不足になるのではないかと言われています。

(中村名誉教授)
「ウォッカの価格が70%も高くなっていて、今、徴兵がかかったりする状況なので、『もう、シラフでおれない』と、ウォッカを飲んでいるのです。それで収まればいいですが、ウォッカを飲んで、暴れまくって暴動化することだって大いにありうるわけなんです」

Q.プーチン政権はこのまま耐え忍んでいけるものなのですか?
(中村名誉教授)
「私はもう崩壊寸前に来ていると思っています。国際的に孤立しているので、プーチン大統領自身は11月半ばのG20の会議になんとか出席したいとしていますが、そのためには、この今の戦争を終了させてから行かないと、他の国がG20をボイコットすると。ですから、今の戦争っていうのは、恐らく10月末あたりを目途に一方的に終了した、とすると思います」

プーチン大統領が「核」使用を示唆 “最悪のシナリオ”とは

ロシアの6地域の首長が声明

 9月25日、独立系メディア「モスクワ・タイムズ」は、ウラジーミル州をはじめとした6地域の首長が「軍務経験のない人、退役した人、健康や年齢に問題がある人など、動員令の対象外の人が招集されている」という声明を出したと報じています。これについて、中村名誉教授は「地方から崩れるのは、ソ連崩壊と同じパターン」と話しました。

(中村名誉教授)
「今回、地方で徴兵がかかったのですが、すでに自分の夫はコロナで亡くなっているにもかかわらず、徴収令が来たという話もあり、ますます地方でプーチン政権に対する不満っていうものが高まってきています」

Q.地方から不満が広がっていくのは危険なパターンなのでしょうか?
(中村名誉教授)
「これはソ連邦と同じです。逆に言うとプーチン大統領はモスクワとかサンクトペテルブルクという大都市では反戦運動が非常に盛んですので、そこはあんまり手をつけず、周辺の地方から兵を集める状況ですなんです」

プーチン大統領、「核」使用を示唆

 9月21日、プーチン大統領は「領土が侵されることがあれば、国民を守るため、あらゆる手段を駆使する。これはハッタリではない。核兵器で脅迫しようとする者は立場が逆転する恐れを知るべきだ」と述べています。これについて、中村名誉教授は「プーチン大統領はいつも有言実行。住民投票で編入した4州が攻撃を受ければ、自衛権として戦術核を使用する恐れがある」としています。

Q.プーチン大統領としては、今回併合した4州はロシアの領土だから、ウクライナが攻めてくれば、“核”使用は正当性がある、という論拠に立つということでしょうか?
(中村名誉教授)
「そういう流れです。今、国際社会でも国内でも非常に孤立化しているプーチン大統領ですが、最後は、6つの原子炉があるというザポリージャ原発を狙うことです。これが一番怖いんです。あの原子炉は、頑丈ですからミサイルを撃ってもなかなか壊せないのですが、最後に戦術核でもってここを撃つという“最悪のシナリオ”が考えられていて、アメリカはこれをどうやって防ぐか、迎撃システムをどうやって作っていくかということで、もうすでに動いているという情報も入ってきているんです」

最悪のシナリオは「ザポリージャ原発を撃つ」

Q.ロシアはこれから厳しい冬に入っていくため、大規模な戦争や大規模な兵士投入は厳しくなっていきますが、ヨーロッパ各国が頼りにしている天然ガスなどの資源の問題もあります。冬になるのはプーチン大統領にとって有利になるのでしょうか?冬を待つ間にプーチン大統領のポジションは危うくならないのでしょうか?
(中村名誉教授)
「私が思うに、プーチン大統領は冬まで待てない状況だと思います。そのため、最終的にはこの戦術核を使って原発を撃つという危険性が非常に高くなっています。その証拠に、これまで原発に向けて恐らくロシアからと思われるミサイルが何度か着弾しているのです。これはもう軍事演習だったのではないか、最後の一発の為の練習だったのではないかという推測もでています。プーチン大統領はものすごく追い込まれていますから、最後、これの決行を考えていて、この戦争はいよいよ最終段階に差し掛かってきたという見立てができるわけです」

Q.プーチン大統領は自分が作り上げて来たロシアが潰れるなんていうことは絶対に許せないわけですよね。だから逆に怖いのですよね?
(中村名誉教授)
「そうです。そしてプーチン大統領の欧米に対する不信感はものすごく強いため、プーチン大統領にとって、ロシアを守るために欧米に対して攻撃するのではないかという、最悪の事態が考えられています」

Q.仮にプーチン大統領が大統領の座を離れるシナリオがあるとすれば、何が起きますか?
(中村名誉教授)
「国内でクーデターが起こるだけではなくて、『ロシア全体がバラバラに崩壊していくのではないか』とロシア国内で言われています。とても危険な状態です」

(情報ライブ ミヤネ屋 2022年9月28日放送)

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